時に。従って、変わり。②
時に。従って、変わり。②
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ベイスンの街。宿屋通り。
クイントがクラウドシープ達の上で寝転がっている。ベイスンの街では、クラウドシープ達に運ばれる姿が有名に為りつつあるクイント。
クラウドシープ達がベネットの宿り木の前に着いた時、丁度扉が開く。宿から出て来たのは、壮年の男達6人であった。
「初めまして。クイントと言います。こちらのベネットの宿り木で、お世話になっています」
顔を起こしたクイントは、クラウドシープ達から降り挨拶をした。
「何だこいつは?ベネット?何の事だ?」
壮年のリーダー格の男が怪訝な顔をして、クイントをじろじろと見る。
「この宿の2階に泊まっている奴らの一人では?」
仲間の推察を受け、リーダー格の男は「フンッ」と鼻を鳴らす。
「5階のスキルプレゼンターが何度も現れれば、我々も好きなだけ技能を得られるのだがな。神とやらは、ケチ臭くて敵わん」
「10階の関の主に挑むなんて!」「普通じゃない」「デカい図体!」
壮年の男達は、そう言い残して去っていった。
「褒められたのかな?」
クイントがクラウドシープ達の背中を撫で手を振ると、クラウドシープ達は帰っていく。後ろ姿を見届けると、クイントはベネットの宿り木へと入っていった。
望みの塔に存在する関の主は、5階、10階、15階、20階、20階以降は10階毎に現れる。ただ、関の主が出現するには条件がある。
その関の主を倒して技能を獲得した事が無いというものだ。何人で挑もうが中に1人でも、その関の主を倒して技能を獲得している者がいると出現はしない。
出現しない場合も次の階層に行く事は出来るが、関の主の部屋を出ても技能の獲得は出来ない。関の主を倒し、新たな扉から出る事によって、初めて技能は得られるのである。
「おかえり、クイント」
「おかえり、また運ばれてきたのか」
クイントが2階の部屋へ戻るとレビンとジャックが顔を見せた。
「ただいま。うん、コリンさんに、マルクロの事で相談してたんだ。それで、自然と乗せられて」
クイントは、一人遅れて戻ってきた経緯を話す。すると、ジャックが半ば呆れたようにクイントに近寄り、レビンも読んでいた本を閉じ、後に続く。
「なんだ。気ぃ遣って、先に二人で戻ったってのに」
「クイントって髪の短い女性がタイプだっけ?」
ジャックとレビンがクイントの右と左に立つ。「!?」二人に挟まれたクイントは技能を使い、二人の間から抜け出した。
「さっ最近、マルクロの抜け毛が多いから、毛刈りの方法を教わっていただけ!」
クイントの目がぐるぐると回り、手が忙しなく動く。二人はそんなクイントを、愉快げな顔でまじまじと見ている。
「こっこうするんだ」
視線に耐えられなくなったのか、クイントが身ぶりを使い毛刈りの方法を示して見せた。
「誰もコリンさんとは言ってないよね?」
レビンの問いに「!?&%#」声にならない声を出すクイント。ジャックはポンと手を打つと魔法の鞄からアズキの入った袋を取り出し、1階に降りていった。
「今日は祝いだ!」
ジャックの声が下から2階に届く。クイントは「はぁ~」と溜め息を吐くと、ベッドへゆっくり倒れこんだ。
クイントが仰向けでいると、レビンが横にやって来て「咲いたね」と朗らかに笑って言う。そして、クイントの胸の辺りをトン、と叩いた。
その晩。
ベネットの宿り木では、アズキの入ったご飯が振る舞われるのであった。
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翌朝。
クイントが1階に降りると。ベネットからは柔らかい目で見られ、胸の前に両手で拳を作ったリズベットには、目で何かを訴えられた。
続いて降りてきたジャックとレビンが、顔を見合わせて笑みを堪えている。
「行ってきます」
クイントがプルプルと震え、一人先に望みの塔へと向かう。ジャックとレビンも笑って手を振り、ベネットの宿り木を後にした。
二人は追いつくと、体をぶつけてクイントの顔をのぞき込む。表情を見たジャックとレビンは、手を叩き合わせ嬉しそうに駆けていく。
体をぶつけられたクイントも、空を見上げるとやっぱり嬉しそうに駆けていった。
「次はどんな所だろうな?」
「土の中はもう沢山」
「代わり映えしない所だと味気ないよね」
三人が転移陣の中に入ると、転移陣から三人の魔力に記憶された情報が浮かび上がった。
5階。
10階。
15階。
文字が宙に浮いている。
ジャックが15階の文字に触れると、三人の姿は消えていった。三人が消えた後の転移陣の上に枯れ葉が舞い落ちる。
季節は移ろいで。行き交う人々の装いも変わり、ベイスンの街も変わって行く。時の流れに従い、多くのものが変わって行く。
「行きますか」
「行きます」
「行きますね」
三人は胸を張り、前を見て、階段を一つ一つ踏んで行く。そこには、恐れも慢心も見えない。いつもと変わらない姿で、ア・サードは次の扉を開くのであった。
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