時に。従って、変わり。①
時に。従って、変わり。①
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望みの塔11階から14階にはワーム類の他、アント類がいる。ウォーカーアント。ランナーアント。ジャンパーアントの3種だ。
人の大きさ程の蟻達は群れで行動する。1つの群れは100~400匹で構成され、ウォーカー群、ランナー群、ジャンパー群と其々別れて、活動している。
稀に混合群と遭遇する事もあるが、それは単に混ざっているだけで足並みが揃わず、直ぐに離れてしまう。
望みの塔、13階。
ア・サードは背中を向け合っている。クイントの前にはウォーカーアントの、ジャックの前にはランナーアントの、レビンの前にはジャンパーアントの群れが迫っていた。
「こういう時は何て言うの?」
「大迫力。じゃねぇか?見渡す限り蟻だ蟻」
「無しだよ!無し!!スッゴい鳥肌!」
黒く蠢く蟻。1000匹以上の蟻が三人に向かって行進を続ける。アント類は攻撃対象を見つけると集団で襲い掛かり、数による押し潰しや、全方向からの噛み付きを得意とする。
次々と絶え間なく攻撃される為、ベイスン協同組合では少人数で対応する事は推奨していない。
収穫品は、豆類だ。人気があり、特にアズキは高値で取引されている。
クイントは、魔法の鞄から籠手を取り出す。ジャックが、腰を落とし剣を水平に構える。レビンは、自分に出来た鳥肌を見ている。
三人の中からクイントが飛び出した。籠手を装備し、ウォーカーアントの群れへと走っていく。クイントの接近に気付いたウォーカーアントは、ガチガチと顎を鳴らし警戒信号を発する。
牽制に5匹が出て、クイントを迎えた。
「いい練習相手」
クイントが踊る。右腕を左から右へと流し、反転。左腕を真横に振って回転する。動きに当てられた5匹は、破壊され霧散していった。頑強なクイントの一当て。その威力はウォーカーアントの甲殻を容易に打ち砕いた。
回転を終えたクイントの長い髪がねじれ、次の相手を定める。
ジャックの右腕と剣がブれ、迫り来るランナーアントを前に剣は振り抜かれた。風切り音が聞こえ、前列にいたランナーアントの胴体が2つに分かれ霧散していく。
後ろのランナーアントも余波により動きを止める。ジャックが剣を両手で持ち、斜め左下に振り抜く。斬撃が地面を這い、後続のランナーアントの足を切り飛ばした。
ジャックは「フー」と息を吹き、目を細めて剣を水平に構え直した。
「クイントもジャックも、中々派手だね」
レビンが一歩、二歩と、ジャンパーアントに近付き始めた。
「でもさ、戦いで一番派手なのは魔法使いって決まっているよね?そもそも、アント類か何か知らないけど。慎重に来ようが、走って来ようが、跳んで来ようが無手で魔法使いに挑もうだなんて300年遅いんじゃない?『火と火よ・仕掛けと成す・侵入せしモノと共に・上がれ』」
ジャンパーアントがレビンの前方20mの辺りで着地した瞬間。火に包まれ、天井へと打ち上げられていく。派手な音を立てて霧散するジャンパーアント。
「因みにこれは、ダブルっていう魔法の使い方ね?ジャンパーアント君、お代は後で収穫しておくよ」
クイントが踊り、ジャックが構える。レビンは打ち上げられるジャンパーアントの批評をしている。クイントは回転し、ジャックは振り抜く。レビンがジャンパーアントにダメ出しをしている。
至る所に豆の入った袋が置かれ、3種のアントは、もうランナーアント数匹しか残っていない。
「最後」
その数匹もジャックの斬撃により霧散していった。
「目が回った」
籠手を外し、地面へと腰を下ろすクイント。
「ジャンパーなんだから、ちゃんと跳んで欲しいよ。全く、ホントまったくだよ。僕があんなに」
「なぁレビン。戦ってる最中から、ずっと喋ってっけど何かあった?」
ジャックが剣を納め、後ろで戦っていたレビンを訝しげに見る。
「え?本当だ!いや、キキクリクさんに、これも修行だ!って言われて。色々と喋りながら、行動していたから」
「修行って、それはウソなんじゃねぇか?」
「うぅ。そうかも」
レビンはその後も暫く、喋りながら戦うことに悩まされるが、ア・サードの冒険は順調に進む。
15階の関の主、モグラートル。土竜のような亀のような怪物。硬い甲羅を持ち、土の中を水中のように動く怪物も、危なげなく倒した。
三人は新たに技能を得る。
レビンは記憶力増大。ジャックは力の増強。クイントは俊敏性強化を獲得するのであった。
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これは、まだ望みの塔が知られていない頃の話。
ありふれた何処にでもある話。
多数の部族が存在した時代。最強と謳われた一族がいた。忠実な兵。俊敏な軍馬。勇敢な騎士。堅牢な砲台。非凡な軍師が居り、堅実な王が支配する一族。彼らは、世界を我が物にせんと動いた。
一族は、望んだ。自らの血縁と縁の深い者達の繁栄を。
一族は、守った。自らが編み出した戦う術を。
一族は、欲した。自らを満足させるものを。
そして、一族は滅ぼされた。
最後まで、一族は自らの行いを疑う事は無かった。
戦争。革命。反乱。人々は語る。
しかし、言える事は一つ。世界は一族の物では、無かったという事だ。
何処にでもある話だった。だが、神の一人が言った。
「ならば与えよう。この一族に箱庭を」
と。
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望みの塔16階から20階には、ある一族の意思を宿した怪物が現れる。スカルポーン。スカルナイト。スカルビショップ。スカルルーク。スカルクイーン。スカルキング。
彼らは洗練された動きで侵入者を襲う。人の動きを理解しており、中には言葉を交わすモノも居る。
ア・サードは新たな技能を獲得した後、転移陣で地上へと帰還した。
16階の扉の奥。
妖しい眼光を放つモノ達が、地団駄を踏んだ事を知らずに。
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