重ねて。また、積み上げて。③
重ねて。また、積み上げて。③
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ベネットの宿り木。
べネットがカウンターで客の対応をしている。3階の営業が再開するようになって初めての客だ。
客は6人連れの壮年の男達で、一番若い者で25歳といった所だろうか。皆、背中に大きな鞄を背負っている。べネットが料金の説明をした際には、もう少し安くならないかと交渉していた。
「まぁ良いか。では、1ヶ月間。利用してやる」
交渉は失敗に終わったが、壮年の男達はべネットの宿り木に泊まる事にしたようだ。べネットが部屋へと案内しようと鍵を持ってカウンターから出てくる。
すると、今までべネットと交渉していたリーダー格の男が手を伸ばし、べネットから鍵を取り上げてしまう。
「案内など不要。我々は忙しいのだ!お前の所為で余計な時間を取られてしまったからな!」
「せっかちな野郎だな」
2階からジャックが降りてきた。手にはレンコンを持っている。
「べネット大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。ジャックさん。こちらの方達は3階の部屋に1ヶ月の間、泊まられる方達なの。あなた達と同じ冒険者よ」
べネットはちょっと驚いただけで平然としており、肩口で切り揃えられた髪もサラサラと流れている。「そうか」とジャックは壮年の男達に目を留めると玄関へと向かう。
「兄貴あれ」
「!待て、そこの若いの。お前が持っているのはレンコンだな?お前が獲たものか?」
耳打ちされたリーダー格の男が、ジャックを呼び止める。男の顔は、獲物を見つけた時のような下心を隠しきれないでいる。ジャックがレンコンを男達から隠すように、体を翻した。
「そうだが、何の用だよ?」
「そう警戒するな。それを我々に譲ってくれという話だ。もちろん適正価格を払おうではないか」
「は?嫌だね。俺はこれからモズの所に行って、こいつでレンコンのはさみ揚げを頼むんだぜ?。欲しけりゃ、ベイ協に買いに行きやがれ」
リーダー格の男はそれを聞くと、鼻で笑う。仲間の男達も「はぁ~」とため息を吐いたり、肩を竦めたりしてジャックを蔑むようにしている。リーダー格の男が口を開く。
「ベイ協だと?ベイ協は収穫品がベイスンで消費される事を優先する。我々のような外に売りに行く者達には、レンコンなど回って来ん」
「これだから、9階より先に行くような奴は」「信じられんな」「普通じゃない」
ジャックを貶すような言葉が続く。
「まぁ良い。笑わせてもらった。皆、行くぞ。部屋で荷物の整理をしたら、望みの塔、いや狩り場へと行こうではないか」
哄笑しながら、男達は3階へと階段を上っていった。ジャックはレンコンを大事そうに抱え、体の向きを変える。
「べネット」
「あら?心配してくれるの?」
べネットがカウンターの中に戻り、椅子へと腰かける。リズベットは、クイントと一緒にマルクロを連れて、コリンに挨拶をしに行っている。
「そりゃするさ。俺を何だと思っているんだよ」
「やんちゃな子。かしら?ふふっ。大丈夫よ、私達は宿屋。お客なら、どんなお客だって泊めるわよ。それよりも、今日はゆっくりなのね?」
「かなわねぇなぁ。ああ、今日は望みの塔には行かねぇんだ」
ギィと玄関の扉が開く音がする。備品の買い出しに出掛けていたレビンが、荷物を背にべネットの宿り木に戻ってきた。
手には本を大事そうに抱えている。ジャックとべネットに気付くと、嬉しそうに「ただいま」と言い、レビンは「「おかえり」なさい」と応える2人に本を見せつけた。
「ねぇ、これ見て!ピンポロペンタの旅行記2巻だよ!まさか2巻があるとは!知らなかったぁ」
興奮気味に本を抱き締め、跳び跳ねるレビン。
「え?何?ピン?ペン?」
ジャックが興味津々に尋ねるが、跳ねるレビンには聞こえていないようだ。べネットは微笑んで二人の様子を眺めている。
「あれ?ジャック?何でレンコンまだ持っているの?モズの食事処に行ったんじゃなかったの?」
「今から行くんだけど、ピンポン?何?」
「ピンポロペンタ。じゃあ、僕は荷物置いたらガイザックさん達の所に行くからね。遅れても知らないよ」
レビンはそう言い、2階へと上がって行く。ジャックも時計を見て、焦るように扉を開ける。「気を付けて、行ってらっしゃい」べネットがジャックの背中に声を掛ける。ジャックは振り返り、笑って手を振ると、早足で出掛けていった。
「お客の好き嫌いはあるわね」
つられて出た言葉にべネットは口を両手で押さえ、左右を見る。誰にも聞かれていないのを確認し、ホッと息を吐いた。
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エイマーのホーム。
ナタリーとコリンが、台所で昼食の準備をしていた。山積みにされた鶏肉を捌くコリン、衣を付け、油で揚げていくナタリー。
テーブルの上には唐揚げの他にポテトサラダに豆の入ったシチューが並ぶ。デザートにはナタリー特製のミルフィーユが用意されている。
2人が料理をする部屋の窓からは幾つかの人影が見える。
「ピンポロペンタってどんな奴なんだ!?」
敷地内の岩場で、ジャックが剣を構えている。
「ジャック!集中だ」
「はい!すいません!」
ガイザックが一喝し、ジャックの意識を目の前の岩へと戻す。2mぐらいの岩を前に10分以上立ち尽くしているジャック。呼吸を整え、今一度集中していく。
その近くでは、ミーミーが型を構え、メイメイがその型について講義している。型を真似して講義を聴いているのはクイントだ。
「こうですか?」
「ここの腕の角度が重要」「ミーは喋らないで」「わかった。メイは後で交代ね」「わかった。角度を間違えると腕を痛めてしまう」
メイメイの講義は続く。そこから少し離れた所では、レビンが牧場の中を走っている。キキクリクと一緒に、ロンウェルに追いかけられながら。
「キキクリク、さん」
「ん?どした?レビン」
「なんで、ロンウェルさん、怒って、いるのですか?」
「う~ん、分かんない。ボクがロンウェルさんの髭を剃ったからかな?」
「分かって、いるじゃないですか!離れて、下さいよ!」
「ダメだ。これも修行だ。そしてレビン、一緒に怒られよう。それも修行だ!」
「!?」
ア・サードの三人は今、エイマーの元で修行をしている。
望みの塔で得られる技能を、十全に活かす為には心・技・体に見合った力が無いと難しい。大きな力も相応しい器がなければ零れてしまう。三人は、冒険者として遥か先にいるエイマーに導かれ、その器を広げていく。
「がんばれ~」
リズベットの間延びした声が高く、高く昇っていった。
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