重ねて。また、積み上げて。②
重ねて。また、積み上げて。②
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ガイザック達のホーム。
広大な敷地には、1つ大きなテーブルが置かれている。今、そこにはエイマーのメンバー全員が席に着いていた。
テーブルの上には、ハンバーガーの他にポテトフライに野菜スープもある。飲み物にはジンジャエールがグラスに用意されている。
手を合わせ、食事を始めるガイザック達。朝の匂いが、口を大きく開けさせる。見見うちにテーブルの上は空になっていった。
「それで、ロンウェル。皆に聞いて貰いたいってどういう話?」
ナタリーが再び、ロンウェルに呼び水を与えた。ロンウェルはジンジャエールを飲み干し、喉の調子を整えると話し始める。
「うむ。癒しの力についてなのだが。トネスターム聖王国の有名な諺で、手の光は澄んだ水に。という諺がある。これは純粋な者でなければ、癒しの力は発現しないという意味だ。癒せるという事に疑いを持たない。その純粋さが癒しの光を発生させるのだ」
「じゅんすい?」
「ロンウェル」「ジンジャエールは」「「炭酸水」」
キキクリク、ミーミー、メイメイの3人は混乱している。どうやらロンウェルの容姿は、3人の純粋のイメージから遠く離れているらしい。しかし、口髭を生やしていようが、純粋な者は純粋である。
「う?ああ。コリン殿手作りのジンジャエールは美味しいな。でだ、純粋で在るがゆえに癒しの力を使う者は人を疑うことを苦手とする。その為か騙されたり、裏切られたりした場合には人一倍に影響を受けるのだ」
「炭酸水を作るには水にクエン酸と重曹を混ぜ合わせるの」「重曹は食塩水に二酸化炭素を加える事で出来るの」
「さすが姐さん達!博学です」
「うむ。勉強になるな」
「こら!あなた達。水を差さない。不愉快よ」
ナタリーが、テーブルに手を着いて注意する。ミーミーとメイメイは目をパチクリとさせ、ふたりで自分達を確認し合う。それが済むと立ち上がり、頭を下げた。
「「ごめんなさい。魔が差しました。ロンウェル、ごめんなさい」」
「うむ。よく分からぬが、気にするでない。それでだな、コリン殿。クイント君もその例に漏れず、信頼しきっていた二人が倒れる姿を見て、想像させられたのだろう。二人がいない世界を」
「怖くなった」
コリンは握った左手を右手で包み込んで擦っている。
「そう言っていたよ。クイント君」
「私だって、エイマーの皆がいない世界を想ったら...」
ナタリーの声は遣る瀬なく、何処へともなく消えていく。
「そうだな。普段、人は当たり前に在るものは意識的か、無意識か、失くなるとは考えないようにしているからな」
ガイザックの落ち着いた声が耳を擽る。
「喪失することを意識した時、多くの者は足を止めるだろう。そこから、失わない為に行動したり、失っても平静を保てるように備えたりする。だが、中にはその意識に潰される者もいる」
テーブルの上に有った物は既に無くなっており、包み紙は只の紙に変わってしまった。テーブルを囲む者達の間には静寂が流れる。
「ロンウェルさん...」
キキクリクがロンウェルへと近づく。
「ん?どうした?キキクリク」
「すみませんでした!」
キキクリクがロンウェルに抱きついた。
「ロンウェルさんがそんな思いを抱えていたなんて。大丈夫です。俺が守りますから!安心してください。この弓で、何もかも射抜いてみせますから!」
「「プロポーズ!」」「メイメイ」「ミーミー」「「時がふたりを分かつまで!」」
「キキクリク!私は男に抱きつかれても嬉しくないのだ!」
ミーミーとメイメイは抱き合い。ロンウェルはキキクリクの抱きつきから逃れようとしている。ナタリーとコリンは巻き込まれまいと距離を取ろうとする。ガイザックが腕を広げた。
「愛してるぜ!お前ら!!」
6人を包むように、その腕の中に収めようとする。しかし、腕の中に収まったのはキキクリクとロンウェルだけであった。
「ガイザック?凍らされたいの?」
「あたいが鋏で、その腕を刈り上げてやるよ」
「「お姉さま達。オジサン臭が移りますので、うちらが蹴り飛ばします!!」」
女性陣が殺気立つ。静寂は喧噪に。男性陣は健気に庇い合う。喧噪は同調に。
「「「「男同士でくっ付いてろ!!!!」」」」
ガイザック、ロンウェル、キキクリクは一目散にその場から逃げていく。それを見たナタリー、コリン、ミーミー、メイメイは笑い合う。もう朝の匂いは薄れていた。
テーブルの上を片付けるナタリー。ミーミーとメイメイはコリンと一緒にクラウドシープの世話に行ってしまった。テーブルを拭き終え、家へと向かう。7人分のグラスを重ねて持ちながら。
「いつか私達も」
零れた響きを、テーブルの上に残して。
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望みの塔11階。
望みの塔11階から15階迄は上下を土で挟まれた階層が続く。天井の高さは3m。四方はどこまで続いているのか見当がつかない。また、次の階層に上がる階段もどこにあるのか不明だ。
冒険者達は次の階層に上がる為、土の空間を隈無く探索することを強いられる。
「此処かな?」
レビンの声が聞こえる。ア・サードは11階層にいるのだが、三人の姿が見当たらない。声の聞こえた辺りではミキサーワームが地面を這って進んでいる。
ミキサーワームは全長約10mの軟体動物だ。表皮に刃が付いており、土の中へ潜る時は回転する。また、敵を見つけた時も回転し、刻んで、削って、磨り潰してしまう。
ワーム類は他にロケットワーム。ワームストロング。ワームステルダム。トットワーム。ボンレスワームがいる。11階から14階に現れ、上階の方が能力の高い個体が多い。
地面を這っていたミキサーワームが暴れだした。前に進もうと体を動かすが、何かに引っ掛かって上手く行かない様だ。
「当たりだ!」
ジャックの声が聞こえた。地中から、剣が生えている。ミキサーワームは剣に刺された為に前に進めなかったのだ。
暫くすると、ミキサーワームは自ら傷口を広げていき、霧散していった。
「ジャック、レビン、もう出よう」
クイントの疲れた声が聞こえ、ジャックの剣が地中へと消えた。
「そうだね。土の中を進んでも、あまり楽しくないよね。暑くて、暗いばっかりだ。『空気と土よ・浮上し散開と成す・内に隠す者を・開放せよ』」
地面が破裂したように捲れ上がり、クイント、ジャック、レビンの姿が見える。地中から出てきたジャックはミキサーワームの落としていった収穫品を拾い上げに行く。
収穫品はレンコンだ。ワーム種からは根菜が得られる。根菜は寒くなる時期には重宝され、交換額も高くなっている。
「今の魔法、ナタリーさんに教えてもらった魔法?」
「うん。2つの性質のものを同時に使うから、魔力も権限図も2倍で消耗が激しいけどね。あの時、ナタリーさん達が土の中に潜んでいた方法は、同時に平行して魔法を使う、パラレルっていう方法だったんだ」
クイントが服についた土を払い、地上から出てきた解放感からか伸びをする。レビンも土を払った後、こめかみの辺りを指で解している。
「う~ん。12階へ上がる階段が見つからない」
「こうも似たような場所だと、何処を探せば良いのかも分かんないよね。通ってきた所は魔力を流して置いたから戻るのは心配ないけど」
「ケケッ、12本目だ」
ジャックが嬉しそうにレンコンを抱えて二人の元へとやって来た。そんなジャックに、レビンとクイントは微笑ましい視線を送る。
「なんだ?」
「いや、何でもないよ。12階へと上る階段が見つからないね、と話していた所だよ」
レンコンを大事そうに魔法の鞄へと仕舞ったジャックは、ポンと手を打つ。
「そうだ!俺に良いアイデアがある。今の土の中を進む魔法で、天井を登っていきゃいいんだよ」
「え?」
「いやジャック此処は望みの塔だよ。無駄じゃない?」
クイントとレビンは、天井を登るアイデアには反対のようだ。するとジャックが魔法の鞄から、コインを取り出した。不敵な笑みを浮かべている。
「コインの出番だな」
二人も、俊敏な動作で魔法の鞄から、コインを取り出す。
クイントは髪を掻き上げる。口角が上がり、悪い顔だ。レビンは全身に魔力を滾らせ、禍々しい雰囲気を醸し出している。
クイントとレビンは目を合わせ頷く。
「「表」」
「いいのか?じゃあ、俺は裏だな」
3枚のコインが弾かれた。記念コインは100階と書かれた方が表で、望みの塔が描かれた方が裏だ。クルクルクルッと回ったコインが地面へと落ちた。
ジャックが不敵な笑みのまま、小躍りをし始める。クイントとレビンは地面に膝と手を着き、コインの図柄とジャックを交互に見る。何度見返そうが、コインは3枚とも裏を向いて地面に落ちていた。
「4対2で俺の意見が採用されたようだな」
三人は意見が割れた場合、こうやってコインも入れて決めてきた。尚、3対3の場合は人が多い方の意見が採用される。
レビンが集中し「ふーっ」と息を吐く。クイントは屈伸をしている。『土と空気よ・拡張し保持と成す・歩く調べにて・進行せよ』
レビンは天井に向けて想起語を唱えると、低い姿勢で構えるクイントの手に足を掛けた。
「せーのー、で!」
クイントがレビンを手に乗せ、斜めに跳ね上げる。レビンは跳ね上げられた勢いのまま跳躍し天井へと向かう。衝突はせず、天井の土はレビンを中心に半径2m程の穴を広げた。レビンの進みに合わせて坂道が出来ていく。
ジャックもクイントの助けを借りて天井へと上がると、クイントを引き上げる。そして、三人は天井を登っていった。
1時間後。
「ジャック...」
「...ジャック」
レビンは憐れみの目を、クイントは残念な目をジャックに向けている。
「これは...アレだな。無駄だな」
「だから言ったよね?無駄じゃないかって」
「いや、疑問形だったし。それに無駄な事が無駄だと分かったじゃねぇか。俺達はひとつ賢くなったって事だな!さぁ戻ろうか!」
ジャックは手を広げ、満面の笑みで引き返そうと回れ右をする。レビンは呆れているのか言葉もない。クイントが笑いを堪えながら言う
「ジャックのへらず口」
「ん?なにか言ったか?クイント」
「へらず口って言っただけ。何も言っていない」
クイントがレビンを抱え、坂道を走って下っていく。ジャックは頭を掻きながら考えている。
「そうか。何も言っていないか。...って言ってるじゃねえか!!」
ジャックがレビンを抱えて走るクイントを追いかける。レビンがクイントに抱えられながら、ジャックに手を振っている。三人は坂道を転がる様に下っていった。
この日。ア・サードは望みの塔12階へと上がるのを諦め、べネットの宿り木へと戻るのであった。
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