重ねて。また、積み上げて。①
重ねて。また、積み上げて。①
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ベネットの宿り木。
受け付けカウンターに黒くて丸いものが増えた。マルクロだ。先日リズベットに抱えられていたマルクロは、そのままお世話になる事にしたようだ。
ベネットが、クラウドシープの事を知っていた事もあって食事と寝床には過不足はない。牧場と違いちやほやされるのが気に入ったのか、機嫌良さそうに「クー」と鳴く。裏庭で跳ねたり、宿屋の中を跳ねたりと悠々自適だ。
今も、自分の定位置とばかりにカウンターの上で休んでいる。
「帰らなくていいの?」
リズベットがマルクロに声を掛ける。コリンからはクイントを通じて、迷惑でなかったらマルクロの好きにさせて欲しいと言われている。食事代なども次の日には届けられた。
リズベットとしては嬉しい。可愛いし、手触りも良い。宿屋のマスコットとしても、煩くはないので十分期待できる。
だけど、家族や仲間と一緒じゃなくて寂しくはないのだろうか?と心配をしてしまうリズベット。
「また悩んでやがる」
「ほんとだ」
「リズ、おはよう」
ジャック、レビン、クイントが1階へと降りてきた。
「あ。皆さん、おはようございます」
「どうしたの?何か困り事?」
リズベットはマルクロについて思っていることを三人に打ち明ける。当のマルクロはカウンターの上でコロコロと転がり始めた。
「なるほどね。マルクロが寂しい思いをしていると思ったんだね」
レビンのくるくる髪が、右に左にと揺れる。ジャックが徐にマルクロの顔を覗き込んだ。
「こいつの表情を見てみろ。緩みきってやがる」
「リズベットちゃん。相手の心情を思うのは、あまり感心しないね。そういうのは、ちゃんと相手から受け取るものだよ。マルクロは寂しそうかい?」
リズベットはマルクロの表情を窺う。マルクロは1度転がるのを止め、リズベットの頭にテシと前足を乗せてから、また転がりだした。
「寂しそうではないです」
「相手の事より、てめぇの事だ」
ジャックが靴紐を結び直し、出掛ける準備を整える。クイントも魔法の鞄を背負い直す。
「リズがどうしても、寂しそうと思ってしまうならそれでもいい」
「相手の気持ちをきちんと受けとることは大事だけど、自分のちゃんとした気持ちも伝えないとね」
レビンがコートに袖を通した。
「自分の気持ちですか」
リズベットは胸の前で向かい合わせに両手を出し、何かを掴むように指を動かす。
「気持ちとか心情ってのは、自分の分しか解かんねぇからな」
ジャックが扉を開けると、冷たい風が吹きこんできた。ア・サードは、風の中へと踏み出していく。
三人を見送り、受付へと戻ってきたリズベット。カウンターの上で、転がっているマルクロに触れる。
「クー」
マルクロの嬉しそうな鳴き声が聞こえた。
「マルクロ。一緒に居て下さいね」
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ベイスンの街、郊外。ガイザック達のホーム。
広大な敷地の中、ガイザックが大剣を携えている。
『土よ・大塊と成す・幾重に結び・形跡を残せ』
ガイザックの頭上高くに、直径50mはあろうかという岩石が現れた。巨大な岩石は地上に落ちてくる。
一瞬。
ガイザックの姿が朧となる。周囲の草が舞い上がり、上空へと飛ばされて行く。風が吹き、その風も飛ばされ、風切り音が遠くに聞こえる。
巨大な岩石が縦に割れた。
ガイザックを避けるように岩石は左右に分かれ、落下する。再び、ガイザックの姿が朧になる。左右に分かれた岩石が揺れ、真ん中の辺りで上下に割かれた。上半分の岩石は擦れる音を立てて、滑り落ちていく。
ガイザックがその場から離れると、入れ違いにロンウェルが岩石へと突撃する。ロンウェルの後方では土が捲れ上がっている。槍の先端が岩石へと触れる。槍は容易く岩石への侵入を果たし、多数の亀裂を生じさせた。
亀裂の中をロンウェルが通っていく。ロンウェルは4度、土を捲る。
巨大な岩石は1m程の塊へと崩壊した。
ロンウェルが槍に付いた土埃を払っていると、岩の塊が次々に破壊されていく。手甲と鉄靴を装備したミーミーとメイメイが、躍り、舞う。
上に、下に、右に、左に。双子が四つ子に四つ子が八つ子に。
巨大な岩石が10㎝位の石に変貌した。
ミーミーとメイメイが石になった岩石を見て、ご満悦なポーズをとる。『石よ・矢飛びと成す・示す者を・穿て』ナタリーの想起語により、大量に作成された石が飛ぶ。ふたりを射つかのように。
ミーミーとメイメイはご満悦なポーズを次々と変化させ、石を躱した。
躱された石はそのまま飛び続け速度を増す。弓を構えるキキクリクに向かって。
キキクリクは弓を持つ手に大きな矢筒を器用に挟んでいる。矢を放つと矢筒に手を入れ、矢をつがえる。そうしてキキクリクは上空へと数十本の矢を放った。
飛んでくる石を最小の動きで躱すキキクリク。しかし石はそんな動きで、躱せる量ではない。石がキキクリクの眼前に迫ろうとした時、矢が下へと石を突き落とした。高い放物線を描いて。矢が降り注ぎ、次々と石を落としていく。全ての石が動きを止めた時、キキクリクは最初の位置から1mも動いていなかった。
キキクリクの口が動く。予測だの、計算だの、魔法の鞄があればと。
『石よ・塵と成す・分れ解き・還れ』50mもあった岩石は跡形もなく地中へと消えていった。
「おつかれ~」
コリンがクラウドシープに乗ってやってきた。手には大きなバスケットをぶら下げている。<エイマー>のメンバーはコリンに気付くと、集まり始める。
「「コリンお姉さま」」
ミーミーとメイメイが手を差し出した。コリンは「どうぞ」とバスケットから、包みを手渡す。包みの中は特製のハンバーガーだ。
ハンバーガーを受け取ったミーミーとメイメイは「「ありがたや~」」とハンバーガーを頭上に掲げた。
二人はそのまま脚を大きく広げ、右にトントン。左にトントン。片足を上げて進んで行く。
「あんた達はいつでも楽しそうね」
「「??」」「ミー。どこでも」「メイ。何でも」「「ふたりなら」」
ミーミーとメイメイは、右にトントン。左にトントン。続けて行く。
「コリン殿は何か悩みでもあるのか?」
ロンウェルがコリンから、包みを受けとると尋ねた。
「あ、いや。そういうんじゃなくてさ。マルクロがお世話になっている、クイント君達いるでしょ?あれからどうしているかな?って」
「クイント君か」
「何?ロンウェル。思うところでもあるの?」
コリンの乗る、クラウドシープを撫でていたナタリーが水を向ける。
「うむ。あまり自分で言いたくないのだが、癒しの力を使う者は純粋なのだ」
ロンウェルはそう言うと、ミーミーとメイメイが座ろうとしているテーブルへと足を向け「折角の機会だから皆に聞いて貰おう」とそちらへと進むのであった。
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