信じる。ことに、頼る。⑤
信じる。ことに、頼る。⑤
*********************
その日も、クイントは家の手伝いを終えると自分達の部屋で椅子に座り、窓から外を眺めていた。
「いつまで、そうやってんだ?」
声に驚き振り向くと、そこにはレビンを肩車したジャックがいた。
「なっ?放っておいて」
「いやだ。おれは、そんなお前を見たくねぇから」
レビンがジャックの肩から降り、そっぽを向くクイントの手を引いて立たせる。そのまま引っ張って部屋の外へと連れ出そうとするが、身長差もあって上手くいかない。
「クイント、あきらめて」
首を振って抵抗するクイント。だが、ジャックに背中を押されてしまう。二人がかりでは敵わない。部屋からも家の敷地からも連れ出される事になった。
クイントは二人に引っ張られたり、押されたりして村の中を進む。そんなクイントは体を小さくしている。
「何処行くの?」
「すてきな所さ」
ジャックはいたずらな笑顔で答える。「何?何処なの?」クイントは顔色を悪くし、進む足を遅くする。「いいから、いいから」レビンもジャックと変わらぬ笑顔で手を引いて歩く。
「あ!クイントだ。何してるの?」
あの日、村の出入り口にいた女の子の1人が話しかけてきた。クイントは口を震わせ、立ち止まってしまう。ジャックが女の子に目を向け、手で追いやる。
「何も知らないお子ちゃまは、お呼びじゃねぇんだよ。あっち、いけ」
ジャックはそれ以上、言葉を発する事なくクイントを押す。レビンも力強く手を引いて、二人はクイントをこの場から離れさせる。
「何でそんな事言うの?」「無視しないでよ!」
震える声が聞こえる。いつか、この女の子は知る。どうして声が震えたのか、どうしてクイントと話せなかったのかを。
知った時に何を思うのかは、まだ誰にも分からない。
村を出るとクイントは根負けしたのか、自分で歩き出した。山道をジャックが先頭でクイント、レビンと続く。
山の中腹を越えた辺りで、ジャックが獣道に入って行く。
「ちょっと、ジャックどこ行くの?」
「レビンも?」
「うん。ぼくもどこに行くか知らないんだよ」
レビンとクイントは先へ先へと進むジャックに付いていく。知らない道を進む二人の顔には期待と不安が入り交じる。それでも、前を進む者につられ足取りは軽い。
「こっちの方はあんまりに行かねぇんだけど。雨が降ってさ、土砂くずれがあったんだと思う」
ジャックが前を見ながら言う。
「なんか気になってさ。そしたら、ほらこれ」
ジャックは振り返り、古いトンネルの入り口をクイントとレビンに見せた。
「うわー、なにこれ。すごい昔に作られた感じだね」
「うん」
レビンとクイントは好奇心いっぱいの顔でトンネルの中を見つめる。
「中は、大丈夫だったから」とトンネルの中に入って行くジャック。手招きをして二人を呼び込む。トンネルの中は上り坂になっていて、中に入ると出口の光が見えた。
クイントがジャックに続いて坂を上がっていく。トンネルの中は暗くじめじめとしており出口が眩しく見えるが、その先は無く崖になっている。
ジャックが出口の前で寝そべり、追い付いたクイントも横に並んで、崖から顔を出した。
「わぁ」
クイントの瞳には、峡谷が映る。
川に反射する陽の光。濃淡のある緑。紅葉する木々。空は青く、雲が群れをなし山間へと流れていく。川の水が流れ、岩に当たる音。落ちる音。木々の葉の擦れる音。風の通る音がする。
崖の穴から顔を出した三人は、鳥の雛のよう。
「どうだ?すてきな所だったろ」
首を何度も縦に振るクイント。
「おれは裏切らねぇだろ?」
「...うん」
「信じていいだろ?」
「うんっ」
「あっ。ぼくも、ぼくも」
峡谷に見とれていたレビンが、手を挙げてアピールする。
「レビンは今回、手を引いただけじゃん」
「えー。いいよね?クイント?」
クイントは笑ってうなずく。歯を見せて無邪気に笑う二人をクイントが瞳に映す。風が吹き、髪が揺れ、ジャックとレビンの顔に当たる。二人はフルフルと顔を振って、また笑う。
「まぁ、今回はさ、おれが先に見つけて来たんだけど」
ジャックが辺りをキョロキョロと見回す。そして、恐る恐る誰にも見せたことがない宝物を取り出すように話し出す。
「だからさぁ、いつかさぁ。三人でさぁ・・・」
話を聞いたクイントとレビンは、それはそれはとても良い顔をするのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
************************
ジャックの目に鋭さが増す。コリンの疑いを追い払うかのように。
「信じるってのは信じる思いに頼るって事なんだ。クイントがどう思っていようが、俺達がどう思っているかなんて問題じゃねぇ」
「僕達は三人で冒険を続けて行く。そう思えるのです。その思いを信じる事に頼っているんです。クイントに頼っている訳では無いんです」
レビンがジャックの言葉に力を加えていく。
「信じてるなんて言葉は簡単には使えねぇんだ。それは自分の全てを、思いに預ける事になんだから」
「信じるという事は、僕達にとってそういう事なのです。都合や思いの押し付けとは違うのです」
二人の目はどこまでも澄んでいる。コリンはじっと見ていた目の力を抜いた。
「悪かったよ、あんた達のことを疑っちゃってさ。ごめん」
どこか嬉しそうに頭を下げるコリン。二人はそんなコリンに戸惑ったのか、ろくに言葉も返せず、頭を掻いたり、身を正したりするばかりだ。
「じ、じゃあ、俺達はもうベイスンに戻ります」
ジャックがそう言うと、レビンも頭を下げる。二人はベイスンへと戻っていく。二人の背中を見送るコリンの目は、やはり嬉しそうだ。
そんなコリンの横へ、ガイザックが来て言う。
「嫌な役回りをさせちまったな」
「いいよ。曇りひとつ無い目で、信じてるだって。で、どうすんの?」
ガイザックが、ナタリーとロンウェルを見やった。鼻を擦り、クスっと口許を綻ばせる。
「ああ。あいつらなら、俺達の時間を割いても良いと思える」
「なら、決まりね」
『空気よ・通路と為せ・呼び声に・応じよ』ナタリーが想起語を唱える。ワインボトルと人数分のグラスが、宙を待って手元へと飛んでくる。
「それは秘蔵のワインでは?」
ロンウェルが目敏い。
「そうよ。取って置きはこういう時の為にあるのよ」
「「ナタリーお姉さま」」「こちらにテーブルを」「用意しました」「「ロンウェル」」「つまみを用意しなさい」「とびきり上等な物を」
颯爽と戻ってきたミーミーとメイメイはあざとい。
一時間後。
「ただいま~。置いていくなんてひどいっすよ」
キキクリクがガイザック達のホームへ帰ってきた。ロンウェル、ミーミー、メイメイが座るテーブルには開けられたワインや空になったお皿が置かれている。
「「おかえり」」「ちょうどいいところに」「後片付けを頼んだ」
ミーミーとメイメイは飄々とガイザックとナタリーが居る家へと帰っていく。キキクリクは状況を把握する。
「ロンウェルさん...」
「枕の件」
ロンウェルもハンカチで口許を拭うと、それをテーブルに置いて帰って行った。
「そんな…」
キキクリクの今日一日は大概ひどい。
************************




