信じる。ことに、頼る。②
信じる。ことに、頼る。②
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望みの塔2階。ガイザックに案内されて着いた場所は人も怪物もいない、土の地面が広がる所であった。望みの塔2階は牧草に被われている筈なのだが、取り払われてしまったようだ。
「俺達の実力を知りたいか~。ここ一ヶ月、上がった能力に順応する為に色々鍛えてきたからな」
ジャックが得意気に言う。レビンも満更でもない顔をしている。
「そうだね。ガイザックさんと前に会った時とは比べ物にならないくらい、強くなったよね?」
クイントが胸を反らし、それに応える。
「ほー。そいつは楽しみだ。じゃあ、今からでいいか?」
ガイザックの声に応じようと、三人は声の方に意識を向ける。しかし、そこには誰も居なかった。
「「「え?」」」
得意になって気が緩んでいたかも知れないが、視界にガイザックの姿は捉えていた筈。三人は突然居なくなった、ガイザックの気配を探ろうとする。
そこへ、ピィーーと音を立てて矢が飛んできた。クイントが慌てて大盾を出し、その矢を防ぐ。ガンと大きな音が鳴り、クイントを大盾ごと3歩程下がらせた。
ジャックとレビンが矢の飛んできた方角を見るが、何も見当たらない。
ジャックが警戒を強め、レビンが想起語を唱える。
『空気よ・回転と成す・傍らにて・妨害せよ』三人を取り囲む様に風の渦がいくつも出来る。
「クイントッ」
ジャックが、クイントの方へ足を踏み出そうとした時、土の中から足が伸びジャックを躓かせる。たたらを踏むジャックが振り替えると、地面が破裂したように捲れ上がった。
ナタリー、ミーミー、メイメイの3人の姿が見える。
土煙が舞う中、メイメイがジャックの顎に掌底を入れる。『風よ・風牢と成す・示す者を・止めよ』ナタリーの想起語により、魔法で作り出された風の渦が変化し、風の輪となる。その輪はレビンを拘束し、身動きする事を封じる。
レビンは拘束から逃れようと想起語を唱えようと口を開いたが、ミーミーの裏拳が腹部を突いた。
ジャック、レビンの二人が地面に倒れる。クイントが矢を受けてから、体勢を戻すまでの数秒間の出来事だった。
クイントの頭上に影が出来、見上げたクイントは咄嗟に横に飛び退く。ロンウェルが空から槍を携え突撃してきたのだ。
ロンウェルをかわし、クイントは辺りを見渡す。そこで、ジャックとレビンの倒れた姿が視界に入った。
「あ、ああ...」
クイントは膝から崩れその場で座り込んでしまった。ロンウェルが槍の石突を向ける。
「そこまで!」
ガイザックが声を発し、そこに居る者達の動きを止めた。
「ロンウェル、診てやってくれ」
「うむ」
ロンウェルが三人を一人一人診て、治癒の力も使っていく。意識の無かった、レビン、ジャックは目を覚ます。クイントは呆然とその様子を眺めていた。
「異常はない。皆、上手く加減出来ている」
「よし。どうだった?ナタリー」
ガイザックが、ナタリーの横に立ち尋ねる。
「そうね。まず、三人とも気配察知がなっていないわね。地中に意識が向いていなかったってのもあるけど、一方向に気を取られ過ぎて、他が疎かになってしまっているわね」
「レビンの魔法は?」
「うーん。甘いわね、冷静に魔法を使えるのは良いのだけれど、顕現後の魔力浸透率に警戒をしていないから直ぐに奪う事が出来たわ」
「ミーミーとメイメイはどう感じた?」
「想定外の出来事にも」「仲間の負傷にも」「「弱い」」
「ロンウェル」
「彼らはまだ駆け出し。充分及第点だ」
「そうだな。俺も期待できる奴らだと思う」
三人はガイザック達が言うことを黙って聞いていた。少なからずショックを受けたのであろう「強くなった」そう言っていたのだから。
「あの~ガイザックさんボクの感想は」
「あ。いや忘れていた、キキクリク。まぁ、では頼むよ」
「忘れてたってひどくないです?いいですけど。まず、ボクの矢を防いだクイントは良いですね。上手く矢を逸らして正面で受けていないです。まぁ、ボクが本気で矢を放てば話は別ですけど。あと、三人ちゃんと矢の飛んできた方角を把握していたのも良いですね。これは見えない、気付かれない距離から正確に矢を当てたボクの技術が凄いのですけれども、矢だって怪我させない様に・・・・・」
夢中になって話すキキクリクが止まらないのを余所に、ガイザック達は三人を連れてその場を後にする。
「いいんですか?キキクリクさん」
レビンが誰とは無しに聞くと、ロンウェルが「いつもの事である」と背を押し先を急がせた。これからガイザック達のホームへ行くのだそうだ。
望みの塔2階。ガイザック達がホームに着いた頃。
「ひでぇ」
声がポツリと空に溶けていった。
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