信じる。ことに、頼る。①
信じる。ことに、頼る。①
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ベイスンの街にいくつかある広場。その内、望みの塔から一番近い広場で三人はガイザックを待っている。
1ヶ月の間に、三人はガイザックについて知った。
18年ぶりに望みの塔90階層へと、到達したパーティー〈エイマー〉のリーダーである事。
望みの塔で負傷した者を助け出したり、街で起こった問題を解決している事。
英雄ガイザック。
そんな人物を待たせる訳にはいかないと、約束の時間より早く待っているのであった。
「あのさ、ジャック。どうしてガイザックさんの誘いを受けたの?」
レビンは顕現図を地面に書きながら尋ねた。ジャックは広場の入り口を見ている。
「えっ、いや。レビンもクイントも、お願いしますって言ってたし」
「ジャックも」
クイントが目を光らせる。
「無駄に格好いいな、クイント。まっ、でもよ。あの時は助けられた後だったし、悪いようにはなんねぇと思ったんじゃねぇのか?」
「そうだね。断りづらかったってのもあるよね。もう、そろそろかな?」
レビンは顕現図を描くのを止め、ジャックと同じように広場の入り口を見始めた。二人の言葉を聞いたクイントは何かを言おうと口を動かすが、決心がつかないのか開いては閉じを繰り返す。
クイントの目が曇り始めた時、広場に入ってくる人達が見え三人の意識はそちらに集中する。
先頭にいるガイザックが手を振り近づいてくる。後ろには5人の見るからに冒険者と分かる風体の者達が続く。じゃれ合う双子。姿勢良く歩く者。さりげなく周囲を警戒する者。三人を見定めようとする者。広場の雰囲気が変わる。三人以外の人々はガイザック達を見ると、敬遠するように離れていった。
「待たせたか?すまんな。こんな所で待たせて」
ガイザックは周囲を気にする事なく、三人に話しかける。
「ガイザックの加齢臭のせい」「同意よ。漂っているもの」
「加齢臭と待たせる事に因果関係はない。そもそも、時間通りに来ている」
「ロンウェルはつまらない」「同感ね。枕の綿を抜いておこう」
「!この前、綿が無かったのは君達か!?」
「「キキクリク」」
「キキクリク。後で、話がある」
「ひでぇや、姐さん達。内緒にするって話だったじゃん..」
「ちょっと、あんた達。静かにしなさい」
次々に口を開く、ガイザックのパーティーメンバー。三人は雰囲気に飲まれ、ただ成り行きを見る。
「はは....えっ?ミーミー、メイメイ。俺の加齢臭は漂うタイプなの?」
「修行をすれば、さ迷うタイプにも」「寄り添うタイプにも」「「なれる」」
「もう!ミーもメイもそれぐらいにして。ほら、ガイザック。ちゃんと私たちを紹介して」
「す、すまん、ナタリー。そうだな・・・」
ガイザックは気を取り直し、一人一人メンバーを紹介していく。ミーミーとメイメイは武闘家。ロンウェルは槍使いの治癒士。キキクリクは狩人。ナタリーは魔法使い。
「そして、俺は大剣使いのガイザック。一応このパーティーのリーダーだ。あと一人、コリンというのがいるが、今は俺達のホームでクラウドシープの世話をしている。以上が俺達〈エイマー〉のメンバーだ」
ガイザックが言い終えると、すっとナタリーが横から出てくる。
「ナタリーよ、よろしくね。坊や達の名前はガイザックから聞いているわ。この中で私が一番年上になるけど、失礼の無いように注意する事、いい?氷漬けにされたくないならね」
手のひらを前に出すと、魔力を放出させるナタリー。その魔力は普通と違い、冷気を伴っていた。空気中の塵が凍り、キラキラと輝く。
その様子に三人はコクコクと頷きを繰り返す。ナタリーの後ろではガイザックが震え上がっている。
「ちょっちょっとナタリーさん。ビビらせてないで」
居たたまれなくなったのか、キキクリクが割って入る。
「いやね、そんなつもりはないのよ。それで、あんた達の冒険職は何かしら?」
三人は誰が答えるか、押し付け合う。
「く、クイント、頑強度上がったし」「レビン、憐れみだ」「僕は、ほ、ほらアレだから、ここはやはり斥候のジャックが」「アレってなんだよ!?」「アレはアレだよ」
「早く!」
声に押されて出てきたのはジャック。背筋を伸ばし、腕は真っ直ぐ体に張り付けている。
「お、わたしは剣士と斥候です。レビンは魔法と弓を使います。クイントは大盾使いで、治癒士です」
「へーなるほどね。少ない人数を個人の役割を増やす事で補いたいのね?」
「お、はいっ」
受け答えるジャックを見るレビン、クイント、ガイザック、キキクリクの4人の目は優しい。
「人数を増やす気はないの?」
「ね、ありません」
ジャックの目に真剣さが増す。ナタリーは「そう」というと下がり、すれ違いにガイザックへ耳打ちをする。ガイザックが頷くと残りのメンバーを連れて、広場から去っていった。
メンバーの見送りを終えたガイザックが三人の側に寄る。
「うちのメンバーがすまんな。皆、お前らに会うのを楽しみにしていたんだ。それで、場所を移そうと思ってな。あいつらは先に行って準備しておくそうだ」
「はい。わかりました。ですが、どうして僕達を?」
緊張から放たれたジャックは半ば放心しており、クイントが介抱している。
「気になるか?まぁ、そうだな。お前らも気付いていると思うが、今は冒険者が少なくなっていてな。いや、違うな。冒険者の数自体は多いんだ、だが安定志向型というのか、望みの塔の低層階で収穫物を得て、それをベイスンの街の外に売りに行く者が多くなっているんだ」
「望みの塔の中で、他の冒険者にあまり出会わなかったのはその為ですか」
「そうだな。10階層より先へ行く者も、少なくなってきている。そこで、お前らみたいな有望そうな奴らに声を掛けている。というわけだ。あとは」
「あとは?」
クイントが何かに押されるように、前に出てくる。ジャックはもう立ち直ったようだ。
「あとは、単純に気に入ったってだけだよ。お前らの事が。ほら、組合所で楽しそうにしていたのを見てよ」
ジャックが嬉しそうに体をくねらせる。くねくねと。
「....勘違いだったかも」
くねるジャックは両手をダラリと下げて腰を折り、ガイザックを見る。
「はは。冗談だ。さぁ、行こうか。お前らを誘ったのは、話をする為だけじゃない。お前らの実力を知りたいというのもあるんだ」
そう言うと、ガイザックは望みの塔へと歩いていく。その後を三人は、遅れないよう付いて行くのであった。
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