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魅了の冒険  作者: 塩味うすめ
13/66

教えて。みて、教える。④

教えて。みて、教える④


********************


「浸透率?」


 リズベットが耳慣れない言葉に首をかしげる。


「そう、浸透率。状態変化の魔法で欠かせない要素だね。ある物を状態変化させたい時に、この浸透率が50%を越えていないと変化させられないんだ」


 レビンが黒板に100と数字を書く。


「自分の魔法で生成した物の浸透率は、始めは100%なんだ。自分の魔力だけで構成されているからね。つまり浸透率とは、ある物にどれだけ自分の魔力が宿っているかを表す指標の事だね」


 リズベットが手を挙げる。


「始めは100%と言う事は、下がるのですか?」

 

「その通り。影響を与えるものは影響を受けるからね」


 黒板の100と書いた所から斜め下に矢印が引かれ、80~60と書かれた。


「浸透率は外の影響を受けて、80~60%まで下がってしまうんだ。だけど、新たに自分の魔力を流すと浸透率は上がる。浸透率が高いほど状態変化は、させ易いからね」


「どうやって魔力を流すのですか?」


「こうするんだよ」


 レビンがニッと笑い、黒板に手を当てる。すると、黒板が震え出す。

『砂よ・記号と成す・意のままに・示せ』斜め下に書かれていた矢印が上向きになり、80~60の数字が80~90に変化した。


「触れて、魔力を流し込むと言うことですか?」


 リズベットが口に手を当てて驚き、黒板をまじまじと見る。その様子に笑みを深めるレビン。


「正解。こうして浸透率を上げる事で、自分の魔力で生成した以外の物も状態変化が出来るようになるんだ」


 さらにレビンは両手を前に出し、魔力を流して見せた。 


********************


 アイスティミックの腹部の氷が内側から水に変化し出した。レビンはそれを確認すると、振り向く。相も変わらず、アイスティミックはクイントとジャックを掴まえようと躍起になっており、腹部の変化は気に留めていないようだ。


「クイント!ジャック!」


 レビンの声掛けと同時にクイントとジャックが動き出す。息を合わせ、目の前の腕を弾き飛ばした。それによりアイスティミックは()け反る形となる。『空気よ・風と成す・移り・吹っ飛ばせ』更にレビンが魔法を使い、アイスティミックを仰向けに倒した。

 クイントが革の大盾を(そり)にする。ジャックは風の反動で飛んできたレビンを受け止めると、(そり)へ飛び乗り、クイントへと体を預けた。『空気よ・風と成す・移り・飛ばせ』三人を乗せた(そり)はアイスティミックから離れていく。

 

「ありがと、ジャック、クイント。じゃあ、備えててね」


 レビンが魔法の鞄から、弓と錫石(すずいし)の矢を取り出すと、矢尻にマフラーを巻き付ける。大盾の橇は30メートルほどアイスティミックから離れた所でクイントが停止させた。

 

 立ち上がろうと上半身を起こしているアイスティミック。


 レビンが矢を放ち、想起語を唱える『火よ・熱と成す・追い着き・熔かせ』矢がアイスティミックの腹部に命中し、矢尻の錫石が火に溶かされる。

 瞬間。衝撃音が響き、爆風が三人の体を壁へと叩きつけた。

 

 水が、溶けた錫石に触れたことにより、その体積が膨れ上がり爆発を起こしたのである。アイスティミックは全身を散り散りにされ霧散する。額の文字が名残惜しそうに消えていく。


 クイントは二人を庇って衝撃を受けた為、意識を失い、レビンは魔法の連続使用により、眠ってしまった。

 ジャックは朦朧としながらも動き、二人を持ってきていた毛布の上に寝かせる。二人の呼吸を確認すると、自身も毛布の上に転がり、微睡(まどろ)みに包まれる。


「なんなのじゃこれは?」


 奇妙な声が10階層に現れる。10階層は床も壁も凹凸の無い、真っ白な氷で出来た部屋で有ったが、今は爆発により床は抉れ壁も傷が多くある。


「大きな音がしたので来てみれば、この有り様とはの。ここの関の主(ボス)の倒す方法は、組合所を始め冒険者達に流しておった筈なんじゃが。どれどれ」


 奇妙な声に続き、ふわふわとした光が現れ、三人の周りをクルクルとする。


「なるほどの。可笑しな奴らもおったものじゃ。くっくっく」


 笑い声を最後に奇妙な現象は起きなくなった。


 アイスティミックの倒し方は、額に刻まれた文字の頭文字を削るというものである。削る為には、アイスティミックに敢えて掴まえられないと難しい。

 掴まれば、冷やされ全身の感覚が徐々に失われていく。それは冒険者に死を思わせた。

 死の恐怖。それを乗り越えた者達だけが、10階より先に進めるのだ。恐怖に負け、冒険者を引退する者。仲間の死を意識し、それ以上進めなくなる者も存在する。


 アイスティミックはこれからも冒険者を振り分けるものとして、10階層に在り続ける。


 数分すると、三人は寒さで目を覚ました。這う這う(はうはう)の体で10階層の部屋を後にする。それ故、望みはアイスティミックとの戦いで、足りないと思った能力になった。

 

 ジャックは速度上昇、レビンは魔力量増加、クイントは頑強度上昇を得た。


 転移陣の前で休息を取り、治療をする三人。ひどいのは霜焼けで体のあちこちに出来ている。クイントが癒しの力を使う。

 霜焼けで出来た水泡や出血は治まり、赤く腫れている程度となる。ジャックの左足首の腫れも少し引き、歩く分の支障はなくなる。


「癒しの力を強化するはずが」


 クイントが悔やむ。


「仕方がねぇさ。案外、望みってのは自分でも分かんねぇのかもな」


 ジャックの言葉にクイントが(うつむ)く。


「悪い風に考えんてんじゃねぇよ。それでも良いんだよ」


 クイントの頭をくしゃくしゃにするジャック。クイントは俯くのを止め、眩しそうにジャックの姿を見つめた。

 ハァーハァーと息遣いが聞こえる。レビンが横たわり汗をかいている。魔力の使いすぎにより、熱が出てしまったのだろう。


「クイント。レビンを頼む」


 クイントがレビンを背負い、三人は転移陣に入る。望みの塔の外にたどり着いた三人は、そのまま、ベネットの宿り木へと戻るのであった。


******************** 


 今日もジョゼットの家で魔法の鍛練をして、帰ってきたリズベット。


「ただいま~....あれ?」


 いつも返ってくる声が聞こえないし、姿も見えない。心細くなりながらも中へと足を進めると、2階から物音がする事に気付いた。

 あの三人が、こんな時間に居るなんてと思いながら、リズベットは2階の部屋へと向かう。部屋の前に着くと、カチャとドアが開く。

 部屋から出てきたのはベネット。手には水の入った桶を持っている。


「おばぁちゃん!!」


「おや、おかえり。リズベット」


「ただいま。どうしたのそれ?」


 水の入った桶を見て、おばぁちゃんも魔法を教わっているの!?と胸が鳴る。


「これかい。レビンさんが、熱を出して寝込んでいてね。水が温くなったから交換しようとした所さ」


「熱!?あとの二人は?」


 ハラハラと胸がざわめく。足と手が動き、部屋の中に立ち入る。目に写るのは三人がベッドで寝ている姿。レビンの苦しそうな息遣いが聞こえる。右肩に包帯を巻かれたクイントと左足を天井から吊り上げられたジャックは疲れた顔を見せて眠っている。


「大丈夫なの?」

 

「心配ないよ。今、落ち着いた所。さぁリズ、三人が起きた時に食べられるように食事を用意をしておこうか」


 後ろからベネットが、リズベットに声を掛ける。振り向かず「うん」と応え、胸のざわめきが落ち着かせようとする。

 

 リズベットには両親がいない。物心つく前にはいなかった。

 

 ベネットからは、両親共に冒険者であったこと。望みの塔から帰ってこなかったこと。リズベットの事を大事に思っていたことを伝えられた。

 親と一緒に居る同年代の子どもを見て寂しい思いを吐露したこともある。大事に思っていたのなら、冒険なんてしないで安全な宿屋の仕事を継いでくれれば、良かったのにと嘆いたりもした。

 そんな時は、いつだってベネットが抱き締めてくれた。どうしようも出来ない、どうしようもない思い。

 

 いつしかリズベットは冒険者を避けるようになった。

 宿の手伝いはするが、冒険者と話をすることは無かった。あの魔法の本も忘れていった物を拝借しただけだ。

 今回、三人と話したのだって魔法の事があったからで特別な訳じゃない。


 冒険。私には関係の無いこと。そう自分に言い聞かせてリズベットは部屋から出ていくのであった。


************************


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