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夏祭り

作者: 中沢 千歌子

夏のホラーイベントに参加しようと執筆しました。

そこいらに提灯が並んでいて、この街特有の海風が吹き抜ける夜半。愛犬が珍しく興味を示して入っていった公園にも舞台が設営されていた。盆踊りをやるとチラシがあったのを思い出す。そうかここが舞台になってるんだな。遠目からライトに照らされた提灯の影が揺れている。俵形のどれも等しい形の影。ゆらゆらと風になびいている。愛犬が一声漏らす。あまり鳴かない子だ。猫でも居たかとその方を見る。

等しい形の影の中、ひとつだけ大きな影があった。

明らかに長くて、瞬時に嫌な予感がする。なんだあれは。提灯ではないものがひとつ紛れている。愛犬に引っ張られるまま、影ではなく実体を目視する所まで進む。それは提灯の2倍以上あった。何なのかを確かめる前に、愛犬が大きな声で立て続けに吠えた。うちの子がこの鳴き方をするのは、苦手な人と会った時だ。家のエアコンを取り付けに来た業者、近所の中華屋の店主、配達員、マンションの管理人。皆年老いた白髪の男性である。

盆踊りの舞台となるであろう小高い櫓にぐるりと一周取り付けられた提灯。その一か所に縄でぐるぐる巻きにされた白髪の男性が吊るされていた。そう表現するにふさわしい。四肢の自由を奪われ一塊になった上部が、提灯を吊るすようにくくり付けられているのだ。頭は項垂れていて、てるてる坊主のようにゆらゆらとしていた。

「大丈夫ですか?!」

必死に吠える愛犬と共に声をかけるが、姿がはっきり見えるところまで来た時にはこれは生きていないと確信した。青黒い顔色、折り畳まれた四肢の異様な方向。四肢は背中の方に纏められ胴体からはみ出ないようにきっちりと縛られてある。四肢を乱雑に扱うのと反比例して縄は均等な間隔で結ばれている。大きな提灯を模すように形作られたのが分かった。

「救急車… いや警察か」

震える手で携帯電話を取り出す。

「今帰り?」

後ろから声がした。

振り返ると、祭りの法被を着た人が立っていた。

「あっあの、良かった。あのあそこに… 」

思わず駆け寄って提灯の方を見ないように指差した。

「ああ。田所さん?」

その平坦な声に背筋が凍るようだった。

「た、田所…さん?」

彼の顔を見上げると、無表情でこちらを見下ろしている。近所のお兄ちゃんだ。

「何で…」

田所さんはうちのマンションの管理人だ。

彼は汚れた軍手をしていて、縄の束を持っていた。声にならない悲鳴を手で押さえ、後退りする。

「田所さん、夏祭りは今年も中止とか言うんだよ」

彼はゆっくりと提灯の方向へ歩き出す。

「今年は僕が班長で主催者なんだよ。だからだと思わない? 僕にやらせたくなかったんだよきっと」

彼は年齢で言えば30歳に近い頃だと思う。それより遥かに幼い話し方をする。

「近所の人は皆僕を除け者扱いするんだ」

母親に言われていた。帰りは寄り道しないこと。真っ直ぐ家に帰ること。近所のお兄ちゃんとは話さないこと。

「どんなに反対されたって夏祭りは開催するよ僕」

近所のお兄ちゃんはずっとどこかに行っていて、それが病院だったとか刑務所だったとか、噂だけが飛び交っていた。

「君は夏祭り、したい?」

お兄ちゃんは笑顔で聞いてくる。

尻尾を巻いて震え始めた愛犬を抱き抱え、どう答えるのが正解なのか頭を回転させた。強張る顔をどうにか愛想笑いに変えながら寄り道なんてしなきゃ良かったと心底思った。




ショートショートになってしまった。箸休め程度にお楽しみいただけたらと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無敵の方に喋り続けられる、真綿で締められるような時間 でも最後の文見る限り主人公さん少し余裕があるのかな?頑張れっ
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