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タナベ・バトラーズ レフィエリ編  作者: 四季
2部

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56.撤退、そして

「あれが……すべてのコアになってたとでも言うのか……?」


 アウディーは目を大きく開き瞳を震わせている。まるで信じられないものを目撃したかのような目つき。僅かに震えながらではあるが時が止まっているようにも見えるくらい、彼は今、告げられた言葉に驚いていた。


「アウディーおじさま、大丈夫ですか?」

「え――あ、ああ、大丈夫だ。わりぃぼんやりして」


 フィオーネはアウディーに目を向け眼球に少し不安げな色を滲ませる。それに対しアウディーは少しばかり申し訳なさそうな顔をした。が、それでも、二人の関係が良好であることに変わりはない。


「とにかく、一旦神殿に帰るか」

「そうですね」


 幸い付近に敵はいない。

 今は自由に動ける。

 フィオーネとアウディーはひとまずその場から離れ神殿へ戻ることにした。



 ◆



「ただいま戻りました!」


 神殿敷地内に戻ったフィオーネはレフィエリシナに遭遇。

 明るく挨拶しておく。


「ああ良かったフィオーネ……無事で良かった」


 レフィエリシナは胸を撫で下ろしたが――。


「というより! どうして勝手に出ていっていたの!」


 ――きっちり注意もする。


「勝手な行動は慎むようにと言ったでしょう!」

「う……ごめんなさい」


 フィオーネは視線を横へずらす。


 やらかした自覚はあった。自分だけの判断で勝手に外へ出て好きなように行動したのだ、怒られるかもしれないということは分かっていないわけではない。もっとも、それを分かっていてもなおじっとしていられなかったのだが。


「まったく、貴女は女王なのよ? その身に何かあったらどうするのよ」

「女王だから、です」

「……何ですって?」

「女王だからこそ、民のために戦いたかったのです」


 フィオーネは想いを真っ直ぐそのまま伝えることにした。

 事実を捻じ曲げて伝えても意味がないと思ったから。


 レフィエリシナにはレフィエリシナの女王の道があるけれど、フィオーネにはまた別の像がある――そこはたとえなんと言われようとも変わらない。


 フィオーネはそれを伝えたかった。


「じっとしてなどいられません」


 目の前の女性を真っ直ぐに見つめるフィオーネ。


「人々を護るために戦うのが今の私の使命です」


 どこまでも揺らぎのない言葉、それに圧されたのか、レフィエリシナは一度溜め息をついてから呆れたように言葉を紡ぐ。


「……結果的に上手くいったから良かったけれど」


 レフィエリシナは呆れ顔でフィオーネを見つめ返し、それから、一歩近づいてその身を抱き締める。


「無事で良かった」


 母と呼び敬愛する人が耳もとで囁いた言葉。

 それにフィオーネは涙ぐんでしまいそうになる。

 そこに理由なんてなかった。


「ありがとう」


 静けさの中、レフィエリシナの一言を最後に言葉は途切れた。



 ◆



 あの日をもって、オヴァヴァ鋼国による侵略は停止した。

 国内には敵兵の残りが複数いたため、それらは、レフィエリの警備隊によって駆除作戦が行われ。その成果もあり、国内の敵兵はやがてほぼすべて狩ることができた。


 また、現在、街は復興作業に追われている。


 街へ敵が突入してからの期間はそれほど長くはなかったものの、犠牲は小さくはなかった。多くの建物が被害を受け、石畳が破壊されるなどという現象も街の多くの箇所で起きてしまった。これから、それらをどうにかしなくてはならない。


 一方、フィオーネはというと、オヴァヴァ鋼国の現統治者であるIUI――イーウィと読むが――その者との初会談に臨んだ。


 会場は国境付近。

 当然レフィエリシナも同行した。


 その中でフィオーネらはIUIから侵略は南部組織による勝手な行動であったことを伝えられた。また、それでも一国の代表として、と、謝罪を受けた。また、IUI及びオヴァヴァ鋼国より、復興のため金銭的に支援をするという申し出もあった。



「良かったですね、お母様。会談、無事終われそうで」

「そうね」


 会談の日の夜、宿泊する客室内でフィオーネとレフィエリシナはお茶を飲みながら言葉を交わす。

 二人が口にしているお茶は既に毒見が不自然な点がないかと確認したものだ。


「これから……レフィエリはどうなるのでしょう」


 フィオーネは茶色いカップを手にしたまま意味もなく天井を見上げる。


「わたしにできることはわたしがするわ」

「……お母様」

「女王の位を貴女に渡したのは混乱の中でわたしに何があっても良いように、よ」

「といいますと?」

「生き延びたのなら、できることは引き続き行います。――そういうことよ」


 瞬間、フィオーネは瞳を煌めかせる。


「本当ですか!!」


 フィオーネは子どもみたいな顔で喜んでいた。


「良かった! 不安だったのです! 馬鹿な私に何ができるだろうって! ですが! お母様が力を貸してくださるなら安心です!」

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