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タナベ・バトラーズ レフィエリ編  作者: 四季
2部

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48/61

47.その時は近づき

 北の森付近でのみ行われていた戦闘行為は収まらず、レフィエリの力では食い止めることはできなかった。オヴァヴァ鋼国軍は数日かけて徐々に南へと下る。


 そして、一般市民にも、緊急時に備えるよう通達が出された。


 これまでにも街の様子は変わり始めてはいた。多くの民がいつか来る戦火を恐れていた。が、それでも、皆が暮らす地にまで被害が及ぶようなことはなかった。

 しかし、もはや何が起きてもおかしくないという状況に移り変わりつつある今、穏やかな日々という海に浸かっている余裕はない。

 だが、すべての人が恐怖に慄いているだけかといえば、そうでもなく。


「レフィエリは俺たちの手で護るんだ!」

「そうだよ! ここには踏み込ませたりしない!」

「棒持ってきて!」

「敵が来たら全員で襲いかかってこてんぱんにしてやろうよ!」


 年齢性別問わず、威勢のいい者もいる。

 そういう人たちはその時に備えて使えそうな物を集めたり大声で団結を叫んだりしている。

 危機を目の前にして生まれる結束。

 レフィエリの民同士の絆は確かに生まれつつあった。



 ◆



 フィオーネはまだ神殿にいる。

 けれども落ち着かない。

 住み慣れた場所にいてもなお、そわそわしてしまう――こうしている今にも何かが起きているのではないか、などと考えてしまって。


 今すぐに外へ出ていって様子を確認したい。

 何か起きていないかその目で確認したい。


 そんな気持ちでいるのだけれど――女王という立場ゆえ、好き勝手に出歩くことも難しい――特に、身の危険というものがあるこの状況下では。


 そんな時、扉が開いた。


「フィオーネ、来たよー」


 入ってきたのは相変わらず笑みで顔を固定したリベル。

 開いた右手を左右に振っている。


「呼んだんだよねー?」

「は、はい! そうなんです!」

「そっかぁ、良かった。知らない人から言われたから騙されたかと思ったよー」


 少し間を空け「それで?」と本題に入るよう促す。


「はい、実は……その、明日以降数日、時間をいただきたいのです」


 リベルは己の時間を大事にする人だと知っている。だからこそ、こういうことはとても言いづらくて。けれども女王である自分が頼まなくては、と考え、フィオーネは時折詰まらせてしまいながらも言葉を紡ぐ。


「国民の避難などに協力していただきたいのです」

「協力?」

「はい、これから少し忙しくなると思うので……すみません、師匠の時間を奪ってしまって……申し訳なく思いはするのですが」

「一日中働けーってこと?」


 少し怪訝な顔をするリベル。

 その顔を見たらフィオーネは非常に申し訳ないような気持ちになった。

 そして、それと同時に、拒否されるかもしれないという恐怖感もあって、何とも言えぬ思いが胸の内側で渦巻く。


「……報酬は別に出します」


 数秒の沈黙の後、フィオーネは付け加える。


 すると。


「ああそう! じゃ、いいよー。すること言ってくれるんだよねー?」


 リベルの表情が急に明るくなったのを目にしフィオーネは安堵する。


「本来無関係の師匠に頼るなんて駄目なこととは思うのですが、どうか、お願いします」


 フィオーネが頭を下げると。


「いいよいいよー」


 リベルは下げられた赤い頭を数往復撫でる。


「明日からでいいんだよねー?」

「は、はい!」

「じゃあ今からおじさんに伝えてきてもいい?」

「もちろんです!」

「オッケー。じゃ、また明日ねー」

「はい! お願いします!」


 リベルがご機嫌な様子で出ていって、フィオーネは一人安堵の溜め息をこぼした。


 レフィエリで生まれたわけでも育ったわけでもないリベルにこの国の戦いに参加させることには罪悪感もあった。が、今は、それも何かの縁だろうと捉えている。それに、経験豊富な人には味方としてレフィエリ側にいてもらった方が良い。人として好きとか嫌いとかそういう以前の問題で。いろんな世界を見てきた者がいるというのは心強い。


「アウピロスさんには申し訳ないですが……」


 フィオーネは独り言をこぼして天井を見上げる。


 そろそろ本格的に動きがありそうだ。


 戦況が大きく動けばフィオーネもこれまでのように神殿内でじっとしてはいられなくなるだろう。

 彼女の胸には――初めての経験やよく分からない出来事――そういったものへの不安感は確かにあった。


 それでも彼女は折れはしない。

 不安を抱えていても、それでも、もう下がれないからただひたすらに前を見据える。

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