46.下手でもいいけど……
フィオーネはあわあわなっていた。
書類へのサインやら何やらが忙しかったからだ。
これらは女王となってしまったために増えた仕事である。一つ一つは小さなもので、けれども、積み重なると何かと忙しくなってしまうものだ。
「これして、これして、えとえとえとえと、これしてこれして……あぅう……多いぃ……」
一人作業に取り組んでいたフィオーネの前に一人の女性が現れる――それは見慣れた顔――エディカであった。
「大丈夫か? フィオーネ」
「あ! エディカさん」
「忙しそうだな、手伝ってやるよ」
「え……」
戸惑ったような顔をして。
「いえ、これは私の仕事ですので……」
断るフィオーネ。
しかしその程度で引き下がる気の弱いエディカではなくて。
「この書類、ちょっと字書くだけだろ? 手伝うよ」
「あ、は、はい」
「あまり重要な書類でもなさそうだし、いいだろ?」
「はい、そちらは私の字でなくても大丈夫です」
「なら手伝うよ」
その後、手伝ってもらって出来上がった書類に書き込まれている文字を見て、フィオーネはひっくり返った。
「えええ!?」
エディカが代わりに書いておいてくれた文字。
それがとても汚いものだったのだ。
一応読めないことはない、が、不自然なくらい大きく形も整っていないというかなり残念な仕上がりとなっている。
「どした?」
「あ、あの……これ……エディカさんの、字、ですか……?」
「ああそうだけど」
「さすがに雑過ぎないですかっ!?」
フィオーネは思わず本音を口から出してしまった。
するとエディカは少し気まずそうな面持ちで「仕方ないだろ、こんな字なんだよ」と返した。
これでもいい。この字でもいい。フィオーネだってそうは思う。エディカは武人だ、その面で活躍してくれればそれで良い。それ以外のことは求める気はない。文字が上手かどうかなんて戦いには関係のないことだし。国を護ってくれるなら、皆のために戦ってくれるのなら、それだけで十分なのだ。
だが!!
書類に書く時くらいもう少し丁寧に書けないものか!?
それがフィオーネの本心だ。
「ま、べつにフィオーネのせいになるわけじゃねぇし。誰の字って聞かれればアタシの字って言うよ、ちゃんとね」
言って、エディカは文字を書く作業に戻る。
「そ、そうですよね……あはは……」
その姿を眺めながらフィオーネは密かに思った――文字を書くような作業は彼女には二度と頼まないようにしよう、と。




