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タナベ・バトラーズ レフィエリ編  作者: 四季
2部

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43/61

42.不安を越えて

 フィオーネは剣を振る。

 女王のため用意されている部屋にて一人寂しく。


 特に何をするでもない時、何をするかというと――大抵、剣を振る、ということをしている。


 フィオーネにとってそれは何よりもの救いなのだ。


 剣を振っている間だけはすべてを忘れることができる。黒いものも、痛みや辛さも、未来への不安も。その時だけはどこかへ去ってしまう。


 そんなフィオーネのもとへやって来る一人の女性。


「よっ」

「あ! エディカさん」


 橙のポニーテールが特徴的な女性、彼女はエディカ。


「剣振ってんのか?」

「はい!」


 部屋へやって来たエディカは少し驚いたような顔をしていた。

 フィオーネが剣を振っていることなどまったくもって想像していなかったのだろう。


「びっくりした、まさかそんなことをしてるなんて」


 言いながらエディカは慣れた足取りで部屋の奥へ進んでいく。

 フィオーネに近づいていく。


「えへへ……。すみません、変ですよねちょっと」


 フィオーネは一旦剣を振る手を止めて会話へ意識を向ける。


「いや、でも気持ちは分かる。すっきりするよな」

「分かってくれますか!」

「分かる」

「良かったです……」


 フィオーネ自身、女王という身分でありながら暮らしの中で剣を振っているというのは不自然なことだと気づいてはいる。普通女王はそういうことはしない、それはよく分かっているのだ。なんせ、女王であるレフィエリシナを近くで見てきているから。女王とはどういう暮らしをしているものなのか、という情報は、フィオーネの脳にもきちんと刻まれているのだ。


 でもだからといってやめようとは思わない。

 大人しくしていようとも思いはしない。

 レフィエリシナにはレフィエリシナの、自分には自分の、女王像がある――フィオーネはそう考えている。


「それでエディカさん、何か用でしたか?」

「いや、見に来ただけだ」

「ええっ」

「どうしてるか気になってさ」

「そうでしたか」

「元気そうで良かったよ」

「あ、は、はい! お気遣いありがとうございます!」


 刹那。


 誰かが扉をノックした。

 フィオーネが柔らかな声を作って「どうぞお入りください」と述べれば、軋むような音を立てて扉がゆっくりと開く。


 扉を開けていた若い男性は深く一礼してから室内へ足を進める。


「報告です」

「はい」

「北の国境付近にて不自然な動きがあるとのことです」


 フィオーネは真面目な顔で一度だけ小さく頷く。


「やはり、例の件かと」

「そうですか」

「現地も既に備えてはおりますが、念のためご報告しました」

「そうでしたか、ありがとうございます」


 若い男性は最低限の報告だけを済ませると速やかに去っていった。

 扉が閉まってから、フィオーネはエディカと顔を見合わせる。


「本格的に勃発しそうな感じか?」

「そうかもしれません、分からないですけど……」

「かもな」


 エディカの短い言葉にフィオーネは顔を曇らせる。

 さすがのエディカもその変化には気づいたようで、両手を伸ばしてフィオーネの両肩をがっしり掴む。


「大丈夫! 心配すんな!」


 真正面からフィオーネの顔を真っ直ぐ見つめるエディカ。


「アタシも一緒に戦ってやる! どんなことになっても!」


 色々考えてしまい明るい顔つきにはなれないフィオーネだが、エディカから励ますような言葉をかけられ少しだけ頬を緩める。


「……ありがとうございます」


 若干俯くようにしながら目線だけ持ち上げるフィオーネ。

 赤い瞳は目の前の逞しい人を捉えていた。


「フィオーネは一人じゃない!」


 エディカはにかっと笑みをこぼす。

 乾いた暑さのある快晴の夏の空のような――見る者の心の内まで自然と爽やかにさせてしまうような笑み。


「……はい!」


 フィオーネは頷く。

 その時の彼女の心の内は直前までよりかは晴れやかになっていた。


 たとえ険しい道だとしても、それでも、歩む外ない――だから、覚悟を持って突き進む。

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