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タナベ・バトラーズ レフィエリ編  作者: 四季
2部

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36/61

35.夜空の下で

 青く澄んでいた空が明らみを帯びつつ陽を見送りやがて暗くなる。

 幾度となく繰り返された自然の営み。

 レフィエリシナはテラスから高い空を見上げ片腕を伸ばす。


「わー、レフィエリシナ様だー」


 一人夜空に浸っていると背後から聞き慣れた声がして、レフィエリシナは少し不快そうに振り返る。


「……リベル」


 煌めく星、その輝きは小さくて、地上へは少ししか届かない。


「わー滅茶苦茶嫌そうな顔してるなー」


 苦笑してから、リベルは彼女の隣まで歩み寄る。

 その足取りは軽やかで。

 楽しい気分でいる時と何ら変わりない。


「綺麗ですよね! 夜の空って」


 そう言って嬉しそうに笑うリベルを見て、レフィエリシナは頬を緩める。


 それはある意味で心の緩みとも言える。


 彼女は考えていた――レフィエリの未来、そして、フィオーネの行く先について。

 それでどうしても明るい気持ちにはなれずにいた。

 だが、だからこそ、楽しげなリベルを目にすると脱力するような感覚があったのだ。


「空、見てたんですよね?」

「……貴方って、本当に、呑気」

「ええー? そうかなぁ」

「貴方はいつだって明るい……尊敬するわ、ある意味、ね」


 夜風が吹けば、水色の長い髪が旗のようになびく。

 かつて髪の一部を巻いていた赤いリボンはフィオーネに女王就任祝いとして贈ったのでもうないが、だからこそ、一色となった髪が美しく闇に煌めくのだ。


「レフィエリシナ様はここで何をー?」

「考え事をしていただけよ」

「あ! 分かった! 隠し事の話ですよね?」


 思いついたことをすぐに言ったリベルはレフィエリシナにばしっと叩かれた。


「執拗に探るなと何度も言ったわよね」

「分かってますよー」

「ならそういうことは言わないで」

「で、考え事って? 何ですか?」


 レフィエリシナはまだ少し不快そうで、溜め息を一つついて「言わないわ」と発する。

 それから暫し間を空けて。


「ああ、でも、貴方に話したいこともあったのよ」

「何ですかー? わー気になるなーって、まさか、クビ!? ……ドキドキ」


 拳を胸に当ててわざとらしくドキドキしているふりをしてみせるリベルはなぜか楽しげだった。


「いいえ。ただ、仕事に関することではあるわ」


 一人芝居をするリベルを見ているレフィエリシナの表情は冷めていた。


「フィオーネを護ってほしいの」


 リベルは目の前に背筋を伸ばして立つ彼女の顔をじっと見つめてから数回目をぱちぱちさせる。


「魔法の指導、それが前の依頼だったわよね」

「ですねー」

「でも……改めて頼みたいことがあるのよ」

「何でもどうぞー?」

「この先もフィオーネの力になってやってほしい――それが頼みたいことなの。……どう? 受けてもらえそうかしら」


 レフィエリシナは燃ゆるような瞳で目の前の男を強く見つめる。

 冷え始めた空気が風によって二人へ襲いかかっても、どちらもその場から離れはしない。


「報酬が出るなら、何でも」

「ええ、払いましょう」


 リベルはにかっと笑う。


「では受けまーす!」


 軽やかな、翼を得たような、声が夜に飛ぶ。


「では改めて。よろしくお願いします」


 レフィエリシナは片手を差し出す。

 リベルはその手を握り返す。


「こちらこそー」


 結ばれた手と手。

 その遥か上空で、たった今、一つ星が流れた。

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