28.信じてくれないからって怒りはしないよ
「へー、それで、情報は何一つ得られなかったんだ?」
「ああ」
リベルとアウディー、二人は花壇の脇に立って会話している。
「やっぱ駄目かぁ。レフィエリシナ様、さすがに守り固いなー」
やれやれ、というような動作をしてから、リベルはその場に座り込む。それからゆっくり顔を上向け、まだ立っているままのアウディーへと視線を向けた。アウディーから「よくそんなところに平気で座るな」と言葉をかけられれば、リベルは固定化されたいつも通りの笑顔で「何それー、綺麗好きなの?」と問いに似た返答を放っていた。軽やかなやり取りだ。
「あんた、他人に興味あるんだな」
「んんー? 何それ何それ?」
「レフィエリシナ様の秘密を知りたい、なんて、少々意外でな」
「どういうことかなー」
アウディーを見上げたまま首を傾げるリベル。
二人の真上、遥か上空には、爽やかな青で塗られた面が広がっている。それはどこまでも続く空だ。
「なんていうか、他人なんてどうでもいいよー、とか言いそうでさ」
「ま、どうでもいいことなら放っておくかなぁ」
「レフィエリシナ様の秘密はどうでもよくないってことか?」
「そうだよ」
「何でだ? ……っ、あ! まさか! あんた、敵国のやつらと通じてんのか!?」
あぁまたそれか、というような顔つきになるリベル。
「そんなのじゃないよ」
彼は一言短く答える。
そして目を伏せる。
「でもべつに、信じてくれないからって怒りはしないよ」
憂うように伏せた目もと、睫毛が男性にしては長く思えて――アウディーは座ったままのリベルをじっと見つめてしまった。
「レフィエリの人たちって、余所者への警戒心が強いみたいだもんね」
それからリベルは「ま、これから行動で証明するよ」と続けた。
アウディーは申し訳なさそうな顔をした。
なぜなら、レフィエリには人種を重視する人間がいるからだ。しかも悪質な輩も多い。魚人族の末裔ではないからというだけでリベルらを虐めようとするような者だっている。
ただ、誰もがそんな風に考えているわけではない。
そういう者がいるというのは彼らと同じ先祖を持つアウディーにとっても不快なことだ。
「……無礼極まりない輩にはこれからも都度注意と罰を与える」
するとリベルはぱぁっと表情を明るくした。
「なーんて! ね、べつにレフィエリの人たちを責めてるわけじゃないよ! 過ぎたことは気にしてないし!」
中性的な面に浮かぶ色はくるくると変わる。
それこそ自由自在に。
器用だな、と、アウディーは心のどこかで思った。
それが嫌というわけではない。そういうことをするな、なんて言う気はないし、リベルという人間はそういうものだとさすがにもう分かってきている。リベルはいつだって笑みを上手く作る、が、時には他の表情もこのうえなく生々しい形で作り上げる。それが普通のリベルだ、だから、そういうものと理解している。
だが。
そんな彼を見ていると、どうしても、ついていけない気分になる。
アウディーはリベルというものに馴染みきれないのだ。
「ま、ありがとねー。聞いてみてくれて。助かったよー。……でも、ちょっと残念でもあるなー」
「どういうことだ?」
逸れてしまっていた話題はいつの間にかきちんと元のものに戻っていた。
「アウディーでも駄目だったらそりゃ僕じゃ無理だなぁ、って思ってさ」
リベルは立膝の一番上の部分に肘を置き手のひらを顎にあてがって頭部を支えるような体勢をとる。
「そういうことか」
「うん、レフィエリシナ様ってかなり口固いよねー」
「そもそも秘密なんて本当にあるのか?」
「あると思うよー」
「根拠は?」
「うーん、それは、勘だね!」
はー、と呆れたように溜め息を吐くアウディー。
「今馬鹿みたいって思ったでしょ」
「ああ……まさにその通り」
「やっぱりね。――ま、その通りなんだけどさ」




