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タナベ・バトラーズ レフィエリ編  作者: 四季
1部

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20/61

19.視察への同行(1)

「フィオーネ、今日はよろしくね」

「はい! きちんとお守りします!」


 今日はレフィエリシナが視察のため街へ出掛ける日。

 フィオーネは護衛として彼女に同行する。


 日頃は積極的に出掛けないレフィエリシナの外出、それは、レフィエリにとっても特別な日だ。


 だからこそ警備は万全体勢で。

 万が一にも備えておかなくてはならない。


「力み過ぎないでね、アウディーも来るから」

「は、はい! 見て学びます!」


 レフィエリシナの言葉に、フィオーネは何度も大きく頷いた。



 ◆



 神殿の敷地内を出てレフィエリシナらが最初に向かうのは神殿に比較的近い位置にある博物館跡――ここは現代では民のための施設となっているのだが、一部ギャラリーとなっており、現在は優秀とされた子どもの絵の展示が行われている。


「こちらは海の絵画賞の大賞を受賞した作品『船から流れ出た油が海を汚す無邪気な罪』です」


 レフィエリシナは担当の者から作品について説明を受けているのだが――まさかのタイトルに付き添いのフィオーネは噴き出してしまった。


「……どうかなさいましたかな?」

「気にしないでください。彼女、フィオーネは、少しくしゃみが多いのです」

「寒かったですかな?」

「いえ、問題ありません。では次の紹介をお願いしますね」


 フィオーネは小さなことではあるがやらかしてしまった、が、レフィエリシナの穏やかなフォローによって何とか大事にならずに済んだ。


「ではこちらの紹介を――こちらは、優秀賞『海産物を奪い合う女神』と『ぼくちん海が大好きでアイシトールしか言えなくなっちゃったんだす』です。そして、こちらの小さい画用紙のものは――」


 担当の者はすらすらと言葉を並べ説明を継続する。レフィエリシナはそれを軽く頷くようにしつつ聞いていた。興味がない、などという感情は一切見せず、常に丁寧に耳を傾けている。


 ――が、フィオーネは段々眠くなってきた。


「お、おい! しっかりしろフィオーネ! 寝かけてるぞ!」

「……っ、はっ」

「大丈夫か、意識保てよ」

「……は、はい、もちろんです」


 居眠りしそうになっているフィオーネは同じ護衛役のアウディーから小さな声をかけられて意識を取り戻す。


 昨夜はあまり寝られなかった。

 そのせいか非常に眠く。

 静かな空間で一定のリズムで続く説明の声を聞いていると自然と寝そうになってしまうのである。



 絵画展の説明は長かった。

 そして次に向かうのは平和公園。

 いつかの時代に終戦宣言が行われた場所らしい――といってもあくまで伝説であってこれといった詳しい情報が残っていないようだが。


 フィオーネは幸せな気持ちだった。

 公園は眠くならないからだ。

 風を浴び、日射しを受ける、それだけでも目が覚めるような気がする。


「美しいところ……」


 石碑を見ている時、フィオーネは思わず呟いた。

 海と空が重なる場所が広く見える――その様はとてつもなく美しく、まるで幻想世界を描いた絵画のよう。


「フィオーネ、貴女もレフィエリの平穏を願いなさい」

「はいっ」


 レフィエリシナから指示されたこともあり、フィオーネは手を合わせて祈った。


「さ、次ね」

「お母様お疲れではないですか?」

「今はレフィエリシナと呼びなさい」

「すみません……」

「で、問いの答えだけれど、このくらいどうということはないわ」

「それは良かったです」


 ここからはしばらく徒歩での移動となる。

 フィオーネはレフィエリシナの左側に立ち周囲へ目を向けつつ歩く。

 行く道は神殿へと真っ直ぐ続くルートへと戻る。少し脇道へ逸れていたが正道へ戻ってきた、とも言える。それからも三人は歩き続けるのだが、途中、レフィエリシナは急に足を止めた。


「おか……ぁ、れ、レフィエリシナ、様……どうかしましたか?」


 フィオーネもまた立ち止まった。

 振り向けば、遥か遠くに神殿が見える。


「懐かしいわ」

「え?」

「フィオーネ、貴女と出会った場所よ」


 いきなり告げられた初耳の話に驚く――のはフィオーネだけではなかった。


「そうだったんですか!?」


 アウディーもまた驚いているようだった。

 目をぱちぱちさせている。


「ええそうよ、ここで彼女を拾って」

「そうでしたっけ?」

「え――」

「確か別な風に聞いていたような」


 レフィエリシナとアウディーの視線が重なる。


「……そうだったかしら?」


 少しの沈黙、その後に、レフィエリシナは軽く握った拳一つを口もとに添えて眉頭を僅かに寄せた。


「伝え間違っていたのかしら……」


 数秒空けて、続ける。


「ま、いいわ。進みましょう」


 三人はまた歩き出す。

 これから向かうのは街だ。

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