12.魔獣退治(2)
二人が北の森へ入って数分も経たないうちに、目の前に魔獣が現れた。
獅子のように四足歩行するタイプの魔獣。毛の色はベージュで柔らかな印象であるものの、立派なたてがみを持っており、頭部の側面からは大きく太いつのを生やしている。
「い、いやぁぁぁぁぁぁ!」
フィオーネは思わず逆方向に走り出した。
逃げ出したのである。
その時の彼女は冷静さを欠いており、レフィエリシナに言われたことも忘れてしまっていた。
「えー! なんで逆に走るのー!」
「無理ぃぃぃぃぃぃ!」
仕方なくフィオーネを追うことにするリベル。
「待っ――って、危ない!」
リベルがフィオーネの手首を掴もうとした瞬間、フィオーネは地面にあった木の根につまづいて転倒した。
「……いったぁーい」
肌を晒さない格好をしているフィオーネであったが、それでも転倒の痛みはあったようだ。
「ああもう……」
「ごめんなさい師匠でもあれは無理ぃ……」
フィオーネは既に心が折れていた。
今にも泣き出しそうになっている。
「それでもレフィエリシナ様の護衛?」
「そう、です……」
「でもなー、僕、あれにびびるんじゃ護衛は無理だと思うなー」
リベルはまだ立とうとしないフィオーネの目の前にしゃがみ込む。
「死ぬ気ないなら無理だよ」
目の前のリベルに冷ややかな声でそう言われたフィオーネは言葉を失う。
雰囲気がそれまでとあまりに違っていることに彼女は気づいていた。
「死ぬ覚悟してるなら戦えるはずだよね?」
「……でも」
「なんで逃げるの」
「……すみません」
「謝れとか言ってない」
その時、先ほどの魔獣が二人の前に現れた。
リベルはいつになく不快そうな顔をしたが、その場で立ち上がり右手を前へ出す――すると手のひらの近くに一瞬図形のようなものが出現し、次の瞬間魔獣は眉間を撃ち抜かれて倒れた。
「一撃……!?」
フィオーネは転倒した地点に座った状態のまま目を大きく開く。
「ほらね、あまり強くないよ」
「それは……師匠が強いから、です」
「そんなことないって」
「そうですよ、私じゃ……」
「あーもう面倒臭いなー。何なの? いつまでそんなこと言って――っ!」
リベルの右側の茂みから出現した一体の魔獣。彼は先ほどと同じ魔法を放ち一撃で仕留めた。が、刹那、反対側からも魔獣一体が飛びかかるようにしてリベルに迫る。
「やめて!!」
フィオーネは思わず剣を手に飛び出した。
両者の間に入り。
剣を魔獣に突き刺す。
目を開けることもできず運任せに剣を出したフィオーネだったが、たまたまその剣先が魔獣の眉間に刺さっており、運良く魔獣を倒すことに成功した。
しかしフィオーネはそのことをすぐに理解できない。彼女はただその場に立ち尽くすことしかできなかった。
そんな彼女の肩に軽く手を置くリベル。
「ほらね、やればできる」
そう言って微笑むリベルの顔を見て、ようやくフィオーネは起こったことを理解できたようだ。
「は、はい……!」
少しだけだが自信がついたフィオーネは強く数回頷いた。
涙が出そうになっていた瞳には僅かに希望の色が見え始めている。
「ま、その調子でさー、ぷちぷち潰してこ?」
「はい!」
その後二人は多くの魔獣を片付けた。
最初こそ緊張気味だったフィオーネも、一体一体倒していっているうちに段々慣れていっている様子で、次第に表情も良い意味で固さを失っていっていた。
◆
「お帰りなさい、リベル。……そしてフィオーネ」
神殿に帰った二人を迎えたのはレフィエリシナ。
彼女は厳しい顔をしていたが。
「怪我は?」
「そんなのないですよー、僕も彼女も」
リベルがそう答えた瞬間表情を緩めた。
「良かった。無事戻ったことを嬉しく思います」
「ありがとうー」
「ですがリベル、もうフィオーネを巻き込むようなことをしないでくださいね」
そこへ慌てて口を挟むのはフィオーネ。
「お母様! 今回はとても良い経験ができたのです! ですから師匠を責めないでください!」
レフィエリシナは暫しフィオーネを見つめてからふっと口もとを緩めて「ま、それもそうね。たまには危険も必要かもしれないわね」と目を閉じた。
◆
その後リベルには報酬が出た。
そしてフィオーネはというと、リベルにそのお金でかきごおりを食べさせてもらった。
もっとも、そのようなアイデアが出た理由は、リベルがレフィエリのかきごおりに興味を持っていたからなのだが。
「良いのですか!? かきごおりなんて!!」
「ま、ちょっと意地悪言っちゃったしねー」
「トマトかきごおり最高です!」
「好きだなぁトマト」
戦いを終えた後のかきごおりは最高!
しかもトマト味!
大好きな野菜の味のかきごおりを食べることができたフィオーネはとても嬉しそうに頬を染めていた。




