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人間みたいな  作者: レオ・ギブソン
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私は私の仕事を誇れない

第一話 私は私の仕事を誇れない


「人間みたいな化け物がいるな」

ボソリと誰かが言ったのが聞こえる。他の者は言葉にはしないものの、こちらをジロジロと見ながら通り過ぎていく。それでも、見られている二人は無表情で何事もなかったかのように座っているのだ。なぜならそれが何時もの事だから・・・・・


 十九世紀も後十年ほどで終わるという頃、アーロンとメアリーは好奇の目にさらされながらも、ロンドンの交番にお巡りとして勤めていた。二人が好奇の目に晒されるのには理由がある。二人共全身に水玉模様が浮かび上がっているのである。大粒の見ようによってはオシャレな水玉模様が皮膚の一部としてくっついている。

「何時も通りの災難だね。アーロンさん」

誰も話しかけないし、やってこないが、俺だけは違うと言わんばかりに少年がやってきて言った。十二歳ほどの少年は、名前をマイケルと言い、このあたりでは有名な煙突掃除屋である。朝早くに家を抜け出してここに来るのが日課なのである。クリクリした目とカールした金髪を持った真っすぐな少年だ。

「マイケル君。しょうがないさ、この全身に浮かび上がった水玉病は気持ちが悪い」

アーロンは諦めた様に言った。顔を三分の一ほど隠した大きな丸眼鏡をしているが、どんな目をしているかは、簡単に想像がつく。孤児院に居たため、正確な年齢はわからないが、二十歳ほどである。今までの苦労が顔のしわとなっており、+十歳は老けて見える。

「マイケル君。お茶でも出す?」

メアリーが優しく言った。アーロンと同じくらいの年齢であるが、対照的にしわ一つない、美人である。美人であるがそれ故に、水玉模様に悲壮感がある。

「いや!もう行かなきゃ!友達が待ってる!」マイケルは元気よく走り出した。

「ちょっと待って!」アーロンが引き留めた。マイケルはピタリと止まり直ぐに戻ってきた。

「なに?」

「今日ロンドンにサーカス団がやって来るんだ。そこに、ちょっとした知り合いが居て、招待券を貰ったんだけど、仕事で行けないから君が行かないかい?」

「え?いいの?サーカス団の知り合いなんて居るんだね!」

「昔、スカウトされてね。その時に」

「あ・・・・(フリークショーか)」

「広場で待っていれば、ピエロが特別に案内してくれるってよ。友達つれて行ってきな」

「うん!」

マイケルは貰った招待券を十枚ほど握りしめて、元気よく友達の場所に向かった。マイケルはロンドンで煙突掃除をしている少年を集めて地下の下水道を基地にしている。マイケルはそのグループのリーダーだ。

十九世紀のイギリスの煙突掃除の仕事は過酷を極めたものであった。細い煙突の中で子どもが掃除途中に出られなくなって死ぬなんてことはよくあることで、子どもの骨が現代になっても煙突の中から出てくるほどである。過酷な状況下が、ギャングの様な固い絆を作っている。今日も彼らは、ロンドンの地下下水をたまり場として集まっている。

「マイケル!遅いぞ!」

マイケルの親友であるマーティが言った。マーティはグループのナンバー2みたいな存在である。太い眉毛と整った鼻立ちのハンサムな顔とすぐれた頭脳を持ち合わせているが、どれもマイケルの方が一段上である。

「悪いな!お巡りさんと話してたんだ」

「水玉のお巡りか、僕、気持ち悪くて嫌いなんだよな」

親友まではいかない友達のジョンが言った。ジョンはドジでマヌケだ。仲間の中で最もやせていて肋骨が浮き出ている。何をやってもダメな奴だが、パチンコだけは異様に上手い。

「俺は見た目で判断する事は嫌いなんだ。ジョン二度というな!俺はあの人達、好きだよ。この町で子どもを殴らないのは、あのお巡りさんだけだからな」

「うん・・。まぁそうだけど。水玉病がうつったら嫌だし」

「水玉病は性病だからうつらねぇよ。ばか!」

「それでも、そこら辺の危機管理がなっていない人だろ!」

ジョンは言った。馬鹿のくせにそういう事は知ってやがる。

「水玉病は産まれた子どもにも感染するんだよ。親が悪いのさ。それにいいのか?お前の言うお巡りが、ギブソンサーカス団のチケットをくれたんだぜ。しかもピエロの特別案内付きだ」

「え?本当に!僕も水玉お巡り好きだ!」

調子のいいジョンはニコッと笑い、マイケルの握っているチケットを無理やり引っこ抜いた。他の仲間たちも我先にとチケットを取り合いあっと言う間に手のひらからチケットが無くなった。皆、見た事がなかったけれどサーカス団は大好きだ。夜になる広場から漏れ出る細い光だけがサーカス団の存在を証明するもので何をする集団なのかすら知らない連中もいたが、兎に角憧れの存在なのである。

「ああ。だけどその前に仕事をやらねぇとな」マーティがポンポンと手を叩いて解散させた。

「あ、マイケル君。お礼にあげる。モンタギュー先生からクッキー貰ったんだ」

ジョンがクッキーの入った袋をマイケルに手渡した。

「モンタギュー先生か。孤児院が懐かしいな。有難くいただくよ」マイケルは他の子供に見られない様に少し苦いクッキーを食べながら仕事場へ向かった。


 親方の所に行くと何時もの三倍は機嫌が悪かった。親方のジェイコブは白くて長い髭を蓄えており、機嫌の悪い時は毛が逆立っている。きっと奥さんにまた、何か言われたのだろう。

「マイケル!遅いぞ!」

ジェイコブ親方が怒鳴り、拳骨を五発も食らわせやがった。朝のマーティと同じ事を言っているというに何で、こんなにも違うのだろう。不思議と痛くなかったので、すぐさま起き上がり急いでモップやバケツなどの煙突掃除道具一式を揃えてジェイコブの隣に立った。

「行くぞ」

とだけ親方は言いドカドカと子供の歩幅なんか考えずに先に歩いて行った。マイケルも送れない様についていく。これ以上の拳骨はごめんである。

親方は煙突掃除の仕事を募集する看板を掲げて民間を練り歩き仕事の依頼を待っている。親方はマイケルには拳骨をお見舞いするほど強気なくせにいざ街で商売をすると無言になる。ムスッとした強面の髭顔が無言で煙突掃除の依頼を只待っている。そんなものに誰かが依頼をするわけもなく、一・二時間ほど街を練り歩いた挙句、誰の依頼もないことはザラで、客も何も考えていない馬鹿か何を考えているか分からない変人かがやってくるのみである。

「煙突掃除道具を良いかな?」

と、話しかけて来たのは後者の変人の様だ。スーツを着ているのだが、着ていればいいわけでは無い。肩にはふけが雪のように積もっており、全体的にヨレヨレだ。着る物を選ぶのがめんどうくさいから、スーツを着ているような着こなしである。

「分かりました。家は何処です?」

親方が黙っているので、仕方なくマイケルがにこやかに答えた。

「私の家は直ぐそこですので」

変人の動きはとても可笑しい変に力が入っているのか両肩が常に上がっており、歩く速度も急に早くなったり遅くなったりと一定でない。大通りから少し外れた所に変人の家があった。

「どうぞ」

変人に案内された家は、一階が時計屋で二階が民家になっており、壁掛け時計や懐中時計などの多岐にわたる時計が大量に壁に掛けられている。どうやらあの変人は時計屋のようだ。時計やの時計は全ての時間がズレており、部屋にいると正確な時間が全く分からない。デロンデロンに時計が溶けていたり秒針の音が不規則なリズムを描いていたりと、デタラメな時計屋である。

「こちらの煙突ですので」

そう言って奥にある作業部屋に時計屋の変人は入っていった。紹介された煙突は煤で真っ黒だ。煙突掃除歴七年のマイケルから見ても歴代一位の真っ黒さだ。

「とっとと中に入れ!」

あまりの真っ黒さに少したじろぐマイケルだったが、直ぐに親方に無理矢理押し込まれた。元は広めの煙突だったのだろうが、煤がつもりに積もっているため、少し狭い。今日はいつもより苦しくないし、痛くもない。

煤を振り払う作業は好調に進んでいくが、量が多い分時間がかかる。下では親方が足踏みしながら待っているのがわかる。せっかちな親方だ。作業量の事など考えずに遅かったらマイケルの事を殴るだろう。

「いそがなきゃ」

マイケルは手を早めて煤を落とすがいっこうに終わる気配がない。サーカス会場にいくためにも早く終わらせねば。三時間たった頃遂に親方は「帰る!」と言い始めて一人で帰ってしまった。親方にしては待った方である。親方が居ない方が仕事やりやすいので、マイケルはホッと一息ついて仕事を始める。

もう三時間もすれば、後ちょっとの所まで仕事が進んだ。やっぱり親方が居ない方がはかどる物だ。上部に少し残った煤を取ろうとレンガに指をかけようとしたその時。

「あ!」

今までで始めてのミスだった。親方が居なくなって気を緩めたのがいけなかったんだ。手を滑らしたマイケルは煙突から落ちたのだ。

ドシン

と深く低い音が部屋中に響き渡る。

「大丈夫かな?」

と、聞いて来たのは時計屋の変人であった。煙突から落ちて気絶していたらしい。マイケルが起き上がろうとすると腰に激痛が走る。骨折というのはまだ経験して居なかったが分かる。間違いなく折れている。

「どうしよう」マイケルは立つことすらままなりそうもない。煙突掃除の少年の大けがは、死に直結する。きっと誰も助けてなどくれないからだ。

「誰かに言うなよ」

時計屋の変人の右手が光始めた。まるで蛍が集まったかのように右手が発光している。その光った右手をマイケルの腰に当てた。腰にくすぐったい様なムズムズする感覚が五秒ほど続くと腰の痛みは全てひいていた。

「え!」

仰天した顔で時計屋を見つめた。

「魔法が使える」

とても胡散臭いことを言ってはいるが、他に説明がつかない。魔法について聞きたいことは沢山あったが、これ以上迷惑を掛けてもいけないと変に気を使ってマイケルは口を閉じた。変な髭をはやした変人であると思っていたけれど、中々いい奴である。娯楽のないマイケルにとっては胡散臭さよりも面白さが先にたった。

「他にも何か出来るの!」子どもらしさを一切見せないマイケルが嬉しそうに笑って言った。

「無暗に見せる物じゃないさ」

と言いつつも嬉しそうな時計屋の変人は、マイケルの身体についた煤を魔法で取った。「見せてるじゃないですか」なんて無粋な事は言わずにマイケルはペコリと頭を下げた。

「名前は何と言うのです?」マイケルは恐る恐る聞いた。

「ウォルターだよ。お、マイケル君、何か困った事があったら何時でもおいで」

最後にウォルターはそう言って見送ってくれた。マイケルは、時計屋を出ようとした時、名乗っていないのに何故、自分の名前を知っていたのか気になって振り帰って見る。しかし、そこにはもうウォルターは居なかった。薄っすらとウォルターが居た所に煙が残るばかりである。魔法が使えるのだ。名前くらい分かって当然かと勝手に納得して、いつもより早く仕事が終わったマイケルはサーカス会場に走って向かった。会場に着くころにはすっかり夜になっており、家に帰ったら帰りが遅いと殴られるだろうが、そんな事はどうでもよかった。だって憧れの光景がそこにあるのだから。

「わぁ!」

マイケルは息を飲む。普段こんな時間に遊びに行くことなどないマイケルにとってサーカス会場が新鮮な光景であった。飲食店やおもちゃ屋が立ち並び、これから始めるサーカスの宣伝のためにピエロが踊っている。ピエロは、衣装の水玉と同じ様な水玉模様を全身にメイクしており、他のピエロと一風変わった風貌をしていて目を引く存在である。

「そこの少年、何か買わないかい?」

おもちゃ屋のおじさんが話し掛けてきた。たっぷりの髭にサバンナみたいな頭がまるで親方の様あるが、笑顔とその立ち振る舞い使う言葉の全てが親方と違って優しい。広場で案内してくれるというアーロンの知り合いを待つついでにマイケルは、玩具屋を眺めることにした。おもちゃ屋に並ぶ玩具の数々は見たことのないものばかりである。人形の中に生きた鳥を閉じ込めて、ジタバタと動く玩具やとても古いギロチンの玩具で、隣に置いてある人形の首を跳ねると赤い液体が飛び出る玩具など、欲しいものがいっぱいあって天国の様である。特にマイケルの目を引いたのは何の変哲もないブリキの戦車である。只の玩具だが、何となく見てしまうのだ。当然、玩具を買えるお金など持っているわけもなく、自分がその玩具を使って遊んでいるさまを想像するだけである。物悲しく見えるかもしれないが、マイケルはそんな事を微塵も感じていなかった。只々、その玩具を見ているだけでも楽しかったのだ。しばらく見ていたというのにマイケルが何も買わずに立ち去ると、先ほどまで優しかったおじさんが「買わねぇのかよ」と呟き睨んだような気がするが、きっと気のせいであるだろう。

「マイケル!俺らも間に合ったよ」

マーティとジョンが言った。もうすぐ夜になろうとする時間であるが何とか間に合ったらしい。走ってきたのか二人共息を切らしている。もう殆どの人が会場に入っているのか広場の人通りが減っている。

「もう入る?」マイケルが言う。

「うーん。広場で待っていれば、アーロンの友達が案内してくれると言っていたからなぁ。でも、だいぶ遅いな。入ってしまうか!」

「すまない。遅くなったね。君たちがアーロンの友達かな?」

丁度やって来たのが、水玉模様のピエロだった。百九十以上はある高身長の男で威圧感がある。マイケルがビクついているのに気づいたのか満面の笑みでこちら見る。

「ピエロが怖いかい?でも大丈夫さ。僕は優しいピエロだよ」

「ごめんなさい。大きかったから」マイケルはまごつきながら答える。

「いいさ。案内するからついてきて」

「やったぁ!夢だったサーカスが見れるよ」

ジョンは飛び跳ねて喜んだ。マーティも笑っている。マイケルだけがチョットだけがピエロを怖がっている。

「せっかく案内してくれるのに、失礼じゃないか」

ボソッと独り言を言ってマイケルも後をついて行った。サーカスのテントの裏手に周り、観客が入る入口とは別の場所から中へ入っていく。

「君たちはマジック好きかい?」

薄暗いステージの準備室の様な所でピエロは止まり言った。

「マジック?知らないな」マーティは目を輝かせて言った。

「例えばね」

ピエロは何もない右手からいきなり鳩を出現させた。王道と言えば王道の手品であるが、彼らにとっては魔法である。ただ、事前に本物の魔法を見ているマイケルだけが一歩ひいた所で見ていた。

「どうやったの?」ジョンが聞く。

「私はね。小さな小瓶にどんな大きい物も入れられる秘密道具を持っているのだよ」

ピエロは懐から小瓶を取り出す。ジョンとマーティは覗き込む様に小瓶を見つめる。中には小さな虫の様な者が入っている。

「た・・すけて」

薄暗くて気がつかなかった中には人が入っている。瓶に音が遮られて小さな音であるが、確かに中の人は「助けて」と言った。

「え?」

ジョンもマーティも何をされたのか気付かない程早く二人は瓶の中に居た。少し離れて見たマイケルもパニックである。

「只の手品だよ。そんなに怯えないで」

ゆっくりとピエロは近づいてくる。不敵な笑みが明らかにヤバイ。一瞬停止したが直ぐにハッとしてその場から逃げ出した。何で怖いか、今分かった。ピエロだからじゃない。大きいからじゃない。どんなに笑っていても目が笑ってないんだ。

 子どもは結構チョコマカ動くもので、動きが早いわけでは無いピエロからは簡単に逃げる事ができた。テントを出ると夜なのに少し明るい。少し遠くに見覚えのある人物が見える。知っている人が居ると安心するものだ。少し冷静になって話しかける。

「アーロンさん!僕の友達が瓶に詰められちゃったんだ!」

必死に訴えるマイケルを見て只事ではない事を察知したアーロンはゆっくり頷いて、優しく頭を撫でた。

「どうしたんだい?」

「わ、分からない。友達が捕まったんだ」

「・・・・案内してくれるかい?」

と、アーロンは優しく聞いた。マイケルの知らないアーロンの仕事をしている人の目だ。マイケルはテントまで案内する。

「マイケル以外に逃げられた人は居るのかい?」

テントの裏口に入った丁度の所でアーロンが言った。

「僕しか逃げられなかった」

「そうか、それは良かった」

「・・・・え?よかった?」

「すまないね。これも仕事だ」

ピエロの持っていた瓶をアーロンも持っている。

(何で気が付かなかったんだろう。チケットをくれたのはアーロンじゃないか)

こういうのを思う時は大抵もう遅い。マイケルはマーティたちと仲良く瓶の中に閉じ込められていた。

「しょうがない。これも家族のためだ」

アーロンはボソリとそう言った。


これは面白いのだろうか?という不安の中完成した第一話。中学生の頃から考え続けて、去年一度は完成したものの、何処にも出さなかった物を今ここでアップしてみました。一度完成しているはずなので、伏線はすべて回収できるはずだ!おそらくきっと多分。。。。。

本当は一話完結の簡単で分かりやすい一話を作りたかったのだが、どうしても後半の事を考えると入れなくてはならない複線が多くなってしまった・・・・・・後半から面白くなるはずです


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