境界線の警告音
何も考えずに歩いていた。
青々と茂っている草木に覆われている。
街灯はなく、空は灰色の雲がかかっている。
道はアスファルトで、垂れ流しているラジオと同じように人間味を感じられる物だ。
逆に言えば、ここが緑道で他のものには人の手の介入が感じられない。
真っ暗な夜の自然公園。
私以外に人はいない。
こういう場所の方が気が楽だ。
学校のこととか、将来のこととか考えなくていいから。
懐中電灯は持ってきてないし、スマホは電源すら入れる気になれない。
背負っているリュックは高校で使っている物だけど中に学ぶ為のものなんて入ってない。
電源の入ってないスマホ、財布、ICカード、鍵、実印、それくらいしかない。
ズボンのポケットの中にも手の中にも何もない、腕時計は付けてない。
家を出る前になんとなく持ってきたラジオはリュックの横に入れてある。
手持ちサイズのラジオだ。
時報が流れた。
24:00
を知らせた。
高二にもなって夜中に外にいるなんて初めてだった。
ワクワク感は無かった。
ドキドキもソワソワもしなかった。
ラジオに耳を傾けてみると誰だか知らない人が昔話をしようとしていた。
話を始める前に一言
立ち止まって聞いて下さい
と
周りを見渡してもよく見えないしアスファルトに直接座る。
その人は高二の時、人間関係に悩まされていた。
異性とは上手く喋れない。
同性には劣等感をいだく。
後輩には追い越されてく。
先輩とは疎遠になってく。
勉強が追いつけなくなって。
趣味が苦痛に感じるように。
家族に相談しにくくて。
友達が恋人をつくって。
小六の時に買ってもらった腕時計が壊れてしまって。
色んなことがやるせなく感じてしまった。
そんな夏の夜。
少し家出でもしようかと思った。
必要だと思った物だけをリュックに入れて、ふと目に止まったラジオを持って家を出る。
人間味を感じたくなくて近所の緑道を歩いた。
不思議だ、私と同じ人がいる。
そんなことを思いながら続きを聴く。
ラジオをつけたまま歩いていたので時報が耳に入った。
24:00
を知らせた。
目的もなく歩き続けていた。
誰だか知らない人の昔話だった。
立ち止まって聞いて下さい、と言っていたが無視して歩いていた。
すると、どこからか唸り声が聞こえた。
どこから聞こえたのかわからない。
周りを見ても真っ暗でよく見えない。
明かりも無いので照らすこともできない。
背筋が凍った。
足がうまく動かない。
呼吸が早くなる。
蚊やハエの飛ぶ音が聞こえない。
カラスや鳥の鳴き声も、聞こえない。
パキッ
小さな音でも体が反応してしまう。
音がしたのは背後から。
体の向きを変えることも首を回すこともできない。
いつだかわからないがラジオの音はもうすでに聞こえてこなかった。
また唸り声が聞こえた。
やはりどこから声がするのかわからない。
後ろから首元に腕が回された。真っ白で細い腕。
耳に吐息がかかる。
一緒にあそぼ
体が震えて動けなかった。
そのまま森の中に連れ去られる。
そして私は死にました。
だから、どうか。
合図がくるから。
もう少し、そこで待ってて。
話が終わり、
時報が流れる。
24:00
を知らせた時報だった。
スマホの電源を入れる。
画面に出たのは
0:00
ラジオは砂嵐が流れていた。