『浮気性の相手にどうだい?』
この薬は元々、満腹を気にせずいっぱい食べたいと思った研究者達が数年の年月をかけて生み出された「満腹気まんぷくきにならない薬」と言う名付けセンスを問われるような可笑しな名前がつけれた薬だった。
それだけを見れば、名前が可笑しいだけの素晴らしい薬となっただろうが、もちろん、そんな事にはならなかった……発売されてすぐ、研究者達に電話が殺到……とはならず、それ所か逆に、薬に絶対の自信を持っていた研究者達が「売れ行きはどうだ?」っと買ったお店に電話をかける始末であった。
その度にお店側は「順調に売れております」と、引き攣った表情で答えていたと言う。その言葉に気を良くした研究者達は更なる「満腹気にならない薬」を量産し続ける。
そんな時だ。ふと、研究者の一人が言った「なあ、完成品。まだ一回も使った事が無かったよな?」その言葉に他の研究者達も「確かに……」っと頷き始めた。
「あっ!そうだ!この薬を飲んで食べ放題のお店を驚かせて見ない?フードファイター見たいにさ」
「それは良いな!!」「薬の凄さもアピール出来て、私達の腹も膨れる一石二鳥の作戦!!」「久しぶりにまともな料理が食べられる……」「食べ放題……」「仕事終わりの一杯に良いな」「腹減ってきた……」
「よし!今日の分を仕上げたら食べに行くぞーー!!」
「「「「「「おおぉおおおーー!!」」」」」」
楽しみが出来た研究者達の作業スピードは先程まで以上に早くなり、あっと言う間に終わる。
「薬を飲んで食べに行くぞ!!」
「「「「「「おう!!」」」」」」
言い出しっぺの研究者の言葉に誰もが楽しみで仕方無いと言う表情で叫ぶと、皆一斉に「満腹気にならない薬」を飲み込んだ。
ゴクッ
そんな音がしてすぐ、
「「「「「「「ッ?!?!?!」」」」」」」
研究者達を突如として襲った激痛と、胃が別の生物の如く、活発に動いてるのが感じられ、それが気持ち悪さを研究者達に齎す。しかし、それはまだまだ序ノ口だった。
「うぷっ……胃酸が溢れだして来る」
「腹が減った……」
「ビール……」
「苦しい……」
「…………」
「さっき食べたサンドイッチが凄い勢いで消化されるのが感じられて気持ち悪い……」
それぞれで症状が違うが、一つ共有してるとすれば、
「「「「「「トイレがしたい!!」」」」」」
なんとも可笑しな症状だが、兎に角トイレがしたい研究者達は一斉にこの研究所に一つしか無いトイレ目掛けて走る。
「私が先だ!!」「わ、私だ!!!」「ビール!!」「理想の嫁が居るんだ!!」「トイレ!トイレ!トイレ!トイレ!トイレ!トイレェエエ!!!」「ぅぷ」
鬼気迫る表情でトイレに向かって行く研……男達はとても、獣じみていた。言い争いしつつもトイレまで後一本まで来た男は自分が入らんと手を伸ばすが、他の男達に邪魔をされ、その間に入ろうとした男を一緒に襲ったりして、その様子はまさに混沌……醜い争いがどのくらい続いたか分からないが、その後、男達はチームを解散したようだ。
だが、解散する少し前に薬の名前を変えたようで、その名前が男達の心にどれだけの傷と、薬の危険さを物語ってるように感じる。
その名前は、「浮気性の相手にどうだい?」……名付けセンスは何も言うまい。この薬が、男達の最初にして最後の薬となったのだった。