第6話
メニー先生のターン。
「さーて、どこから話そうかな」
トークルームに入るとメニーはどこから指摘するか悩み出した。
そんなに気になるところがあったのか。
「あ、そうだ。今手元に飲み物とかある?」
「ん? あるよ」
「じゃあ、ちょっと待ってね。休憩モードに切り替えるから」
「休憩モードって?」
そんなものあったかな?
やってない間に実装されたのかも。
「えっ? 知らない!? これは最初からある機能だよ」
マジか。
「迷宮攻略してたときもソロだったからな。トークルーム自体ほとんど使わなかったんだ」
「じゃあ、疲れたらログアウトしてたんだ?」
「そうだなー。やる予定のところまでやって止める感じだった」
「あーそれだと知らないのも無理ないね。コレ一人でもトークルーム立てれば使えるから覚えておいて損はないよ。こっち来て」
メニーの隣に立ち、メニーが表示させているメニューウィンドウを覗き込む。
と、急にメニーが震える。
「ん? どうした?」
「あはは、さっきのエニーの気持ちが少しわかったかも」
俺も自分からは案外あっさり行けたけど、やっぱり隣に立たれると緊張するよな。
「こういうの苦手か?」
「もー!いいから見てて!このトークメニューにモードってあるでしょ?」
誤魔化されてしまった。
「ああ」
「コレを押すと今は『通常』になってるでしょ。それを長押しするとほら、『休憩』って出るからそこにスライドさせるの」
メニーがモードを切り替えると、ただの白い個室だったのが中央に背景と同じく白いテーブルとイスが現れる。
「おお!」
「すごいでしょ!? イスに触ってみて」
元々ある機能に驚く俺が面白いようだ。
言われるままイスに触れる。
《座りますか?》
「はい、でいいんだな?」
念押しのようなものなので返事を待たずに選択する。
すると自動的にアバターがイスに腰掛ける。
「おお」
「その状態で『バック』したら固定されるから。そしたら"外"で座ったり飲み物飲んだりして平気だよ。あ、また動くときは右ね」
座ったまま手を動かしたりするとちゃんと動く。
そして言われた通りに左の親指のボタンで『バック』するとイスの手すりに手を置いて顔も手も動かなくなった。
「会話はできるんだな」
「そりゃあ『トークルーム』だもん。あ、もちろんヘルメットは外しちゃダメだよ」
メニーも向かいのイスに座りながら答える。
このVRヘルメットは口元を開けることができて、ストローを使えば飲み物を飲むことはできる。
ただ、通常時だと色々誤作動――ボタンの暴発だったり、指操作だったり――を起こすので基本やらない。
「ふーとりあえず座らせてもらうな」
そう言って、操作している"俺"もその場に座り込む。
これも通常時だと、座る、というのを認識できず、エラーを起こしたりするからできない。
「あはは、どーぞどーぞ。どれくらいやってたの?」
「今4時間超えたくらいかな」
「うわー、ごめん。先に休憩すればよかったね」
「いや、やる気があるうちは全然問題ないよ。まぁ、そろそろヤバかったけどな」
用意していたジュースを飲みながら答える。
「それじゃ、話終わったら一旦休憩する? まだやりたいでしょ」
「まだ会ったばかりなのにお見通しか。そうだな、折角の土日だからガッツリやろうかと思ってたところだ」
「ふふふ、なんとなくね。じゃあそっちに合わせるよ」
「悪いな。でもメニーは遠慮されるの苦手そうだもんな」
「よくわかったね。でもわたしもあんまり遠慮しないからね」
「なんとなくだ。それに悪いところはズバッと言ってくれ」
「ふふっ、やっぱりそーゆーとこ、いいよエニー。そうだねー、指摘よりまずはこっちの常識とかからいこうか」
「そうだな、頼む。じゃないな、お願いします」
動かないんだけど、しっかり頭を下げる。
なんとなくだけど、それがメニーにちゃんと伝わってるような気がする。
「えへん。じゃあ、まず、回復アイテム持ってきてる?」
「え? ああ、ちゃんとショートカットにもセットしてる」
いきなり予想外の方向から来たな。
「やっぱりね。今は回復使わないのが暗黙の了解なの」
「えっ、嘘っ?」
「本当。エニーがやってた頃はたぶんまだ回復モーションの隙を上手く作るのがテクニックの一つだったと思うんだけど、その暇があるなら攻めちゃえ、って流れになって、いつの間にかそういう風になったんだ」
「はぁー。なるほどなぁ」
そういう変化もあるのか。そこはちょっと盲点だった。
当時のwikiの知識だともうだいぶ遅れてるな。
「それでその空いたスロットにスキルを増やすのも狙いだね」
「うん、それは予想できた」
「なかなか優秀だね。じゃあ、次はおさらい。防御するときはどう動く?」
「武器では受けない、だったな」
「そう。つまりは回避優先だね。ということは?」
ん? どういう意味だ?
回避、つまり見るってことか。
「後の先。基本様子見、か?」
「おお! やるじゃん。正解!」
「なるほど。俺みたいにガツガツスキルで攻めるのはいいカモか」
「それなんだけど、迷宮の時の癖だよね? クールタイムがあるから使えるときはすぐ使う、っていう」
「そうだな、そう言われればそうだ。もしかして、一戦に同じスキルを使うことがない?」
「うん。訓練場もだけど、闘技場は一戦ごとにクールタイムもリセットされるんだよ。だからバカバカ打つより、隙をじっと待ってここぞってときに使うの」
「そうか、スキルで隙を作ろうとしてた俺は真逆のことをやってたのか」
「残念ながら、ね。まぁ、エニーの場合は狙いがその先だから最初は上手くいくと思うよ」
「ああ、そういや戦闘は見られるんだったな」
「そ。だから狙いがわかってたらとことん回避されちゃうだろうね」
「そうしてるうちに手の内を暴かれるんだな」
「みんなすごいよ? さすがに全員が見てるわけじゃないけど、参加するつもりの人は見てると思って。それでどの指がどのスキルか使ったらバレてるから。だからなるべく毎回一戦ごとに入れ替えること。同じ配置でやるのは最初はやめた方がいいよ」
「そうか、変えてると知られてからなら変えないというのもアリだな。というか、そんな時間あるのか?」
「そうそう。時間はあんまりないからある程度は組み合わせ決めておいて入れ替えるだけでいいよ。それでも覚えるの大変だろうけど。エニー、迷宮じゃ使いやすいようにセットしてたでしょ? 斬る方向の指に、とか」
すごいな。そこまで見られてたとは。
「顔にバレたって書いてあるよ?」
「動いてないだろ?」
「ふふ、引っかからないかー」
「まぁ、正解だけどな」
「あら、素直」
「隠してどうする?」
「ううん、なんか嬉しい」
「バカ、それで喜んでどうする」
「うー! もうちょっと気がある素振りとかできないのー?」
「素振りじゃだめだろ・・・」
「わかった、メロメロにしてやるんだから!」
「違う、そうじゃない」
「はっ! ごっ、ごめん。わたしったら何言ってんだろ」
「顔赤いぞ?」
「動いてないもん!」
「ぷっ」
「「あははは!」」
「いや、揶揄って悪かった。メニーは可愛い。ただそれだけだ」
「ありがとう。素直にその言葉だけ貰っておくね。エニーといると面白くて飽きないよ」
「俺もだ。気があるのなんだのはちょっと置いておいてくれ。まだ今日会ったばっかなんだ」
「うん、変なこと言ってこっちもごめん。うん、うん。じゃあ、次、いこっか」
「ああ、よろしく頼む」
「じゃあ、次はスキルだね。何がいい、っていうのはないから、選ぶのは自由。ただ、あの『回し斬り』からの『剣舞』みたいな組み合わせで選んでもいいけど、なるべくなら単体完結のほうがベターだね」
「もうわかる。見せるスキルは少ないほうがいいってことだろ?」
「うん、さすが。ショートカットの8つのスキルは手札なの」
「的確な例えだな。つまり切り札も持って、隠せ、だな」
「あはは、もうあんまり教えることなさそうだね」
「いやいや、まだ実戦で教わりたいぞ? さっきも結局一度も触れられてないからな。エニーにも当てれないなら最上級なんて雲の上だろ?」
「あー、やっぱりランキングちゃんと見てないんだね」
「え?」
言われて右親指のボタンを押して動けるようにする。
そして、メニューからランキングを表示した。
「どう?」
「ははっ、なんだ上級のトップかよ」
メニーは確かに「自分はまだ上級」と言ったが、上級のどの位置なのかは言っていなかった。
ランキングのメニーは昇格圏外の6位に大差をつけて、来週の昇格がほぼ確実なダントツの1位に君臨していた。
「へっへーん。今週は調子良くて。実は来週には最上級なのでした」
わざわざ動き出してドヤ顔をキメている。
正直、やられた。
「なら、メニーともっとやり合って自信を付けさせてもらおうか」
「へし折っちゃうかもよ?」
「ふっ、どんとこい!」
「とまぁ、気合いを入れたところで、一旦抜けて休んだら? 目も疲れてるでしょ?」
「そうだな。ああ、一眠りしてくるよ」
「あっ、ホームポイント登録忘れないでね!」
「おお、危ねぇ、助かった。また30分以上かけて歩く羽目になるとこだった」
「ふふっ、どういたしまして。じゃあ、今夕方5時だから・・・」
「10時くらいでいいか?」
「うん、わたしも寝とく」
トークルームを退室し、訓練場に戻る。
そしてすぐに忘れないようにホームポイントをフィールドエリアに変更する。
「それじゃ、またあとで。あ、わたしのVRメールこれだから。そっちも教えてくれる?」
「ああ、俺のはこれだ。インできなくなったりしたらこれで連絡する」
フレンドのメッセージ機能で連絡先を交換した。
「絶対寝坊しないから! そっちもちゃんと来てよ!?」
「わかった。約束だ。またな!」
そう言って、約5時間ぶりにログアウトするのだった。
お読みいただきありがとうございます。
既に予想していた終了時の文字数は超えてます。
前回長編書いていた癖で一話が長くなってきました。
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