第4話
《タイトル:はじめまして、スライムです》
《本文:先程は対戦ありがとうございました。もしよければトークルームでお話ししませんか?》
まさかのお誘いだった。
というかどうやって――あっ。
完全にスルーしてたんだけど、模擬戦の後にフレンド申請するコマンド出てたな。
ああ、やっぱりだ。
システム通知がメッセージで上書きされてたけど、スライム氏からフレンド申請来てた。
「ま、いいか。承認、と。折角フィールドマスターの話を聞ける機会をくれるってのなら行ってみようか」
ちなみにトークルームというのはログイン中のプレイヤー同士で周りに聞かれずに会話ができる機能で、最大20人まで招待することができる。
「とりあえず返事するか。この空中キーボード慣れないんだよな――って、先に招待来ちゃったよ」
《スライムさんからトークルームに招待されています。(現在参加1名)》
返事をするまでもなくフレンド承認を受けてスライム氏からトークルームへの招待が来た。
誰かと待っているわけでもないらしい。
《スライムさんのトークルームに参加しますか?》
はい、と。
「どうも、先程ぶりですね。エニーです」
トークルームに入り、まずは挨拶。
「スライムです!よろしくお願いします!」
そこには先程と同じ軽鎧姿のスライム氏がいた。
そこそこイケメンで20歳くらい?で年も近そうだ。
というか、なんかテンションが高いな。
「こちらこそ。招待ありがとうございます」
「いえっ!あのっ!エニーさんって、迷宮を全制覇したあのエニーさんですよね!?」
誰も言ってこなかったけど、スライム氏は俺のことに気付いたらしい。
そしてやっぱりテンションが高い。
「そうですね。そのエニーです」
なんか恥ずかしくなって変なおじさんみたいな返事をしてしまった。
「おおお!お会いできて光栄です!あの、自分に敬語は結構ですので!」
「わかった。じゃあ、折角フレンドになったんだし、そっちも敬語はやめてよ」
「いや、僕は普段からこうなんですよ」
「いいよ、その感じで。さっきみたいのは慣れてないから」
敬語でも暑苦しいのはやり辛いと思ったけど、素のスライム氏は好青年って感じだ。
「ああ、すいません。テンション上がっちゃいました」
正直悪い気はしない。
俺に寄って来たのがこんな人ばっかりだったらずっと続けてたんだろうな。
「よく俺がそのエニーってわかったね」
「そりゃあ、あの『王斬り』みたらわかりますよ。未だに習得者ほかにいませんからね」
「ああ、なるほど」
『王斬り』とは唐竹割りからの上中下段横薙ぎ三連斬のまさに"王"の字の軌道を描くスキルで、発動中は無敵というあからさまにチートな技で、スライム氏の強さに思わず使ってしまったんだった。
・・・躱されたけどな。
「アレって教えちゃいけない感じなんですか?」
これに関しては運営から直接習得条件を漏らさないよう言われたくらいなので広まっていないらしい。
そもそもあのNPCはうんえ・・・おっとやめておこう。
ただ一つ言えることはこっちのフィールドエリアにもいるはず、ということだ。
「そうだなー。運営から直接口止めされてるんだよ」
「ああ、やっぱり!僕らにも通知来ましたよ。「自力で見つけましょう」って」
「どーりで!迷宮制覇したときもこの技に関しては誰も聞いてこなかったわけだ」
俺は習得した側だからかそんな通知は来てない。
「ていうか、その通知だけで従うなんて意外とみんな素直なんだな」
「いえいえ、ちゃんと脅し文句も入ってましたよ」
「ああ、そういうこと」
何かしらの警告はあったらしい。
まぁ、実際俺も情報を洩らしたらスキル剥奪って言われたもんな。
「ところで、インされるの久しぶりですよね?」
「ああ、迷宮制覇してからクレクレがひどくてね。そっちもフィールドマスターになったらそうだったんじゃないか?」
「あ、僕のことご存知だったんですね!嬉しいです!」
またテンションの上がるスライム氏。
どうしよ、ついさっき知ったなんて言い出せない雰囲気だ。
「そうですね、僕のときも凄かったですよ」
ハッと落ち着いて質問に答えてくれる。
うん、いい人だ。ここはスルーしとこう。
わざわざ落とすこともない。
「それどう切り抜けたんだ?」
「弟子を取るってことにして、がっついて来なかった人から選んだんですよ」
賢い。
顔を晒してるこのゲームならそれで過激なことをするやつはいないだろう。
「何人くらい?」
「男女一人ずつ、ですね」
「はー!それならみんな納得しただろ」
本当に頭良いな。
思わず感嘆の声が出た。
「はい。あ、ちゃんと二人とも教えてますよ」
こっちの疑問にも先んじてくる。
「俺も教わりたいとこだな」
おっと、本音が漏れてしまった。
「こっちはこっちのやり方がありますからね。そうですね・・・エニーさんはここでも上を目指すんでしょう?」
それを真剣に考えてくれるスライム氏。
「そうだな。君を倒すのが目標かな」
そう言って笑うと、向こうも笑う。
「ふふっ、なんか嬉しいです。じゃあ、弟子の片方をつけましょうか?お互いあまり手の内を知らない方が楽しそうですし」
気が合うな。
教わりたいとは言ったけど、その通りだ。
「確かにそうだけど、勝手にそんなこと決めていいのか?」
「ああ、もちろん弟子にも聞きますよ。今一人インしてるみたいなので呼んでもいいですか?」
この人いい人すぎるだろ!
でも実際ありがたい。
「構わないよ。というか、そこまでしてくれてありがとう」
言い出すきっかけを失う前にお礼を言っておこう。
「ふふふ、僕もエニーさんと戦ってみたいんですよ」
模擬戦ではなく闘技場で、ってことか。
「なら早いとここの刀を使いこなさないとな」
「そういえば変な動きしてましたよね。それって――いえ、聞かないことにします。楽しみが減ってしまいますからね」
そう言いながらメニューウィンドウを操作して、弟子にメッセージを送っている。
「まぁ、戻ってくるキッカケになった武器、とだけ言っておこう」
スライム氏はその答えで満足してくれたようだ。
「あ、大丈夫みたいなんで招待しますね」
弟子からはすぐに返事が来たようだ。
そしてその弟子はすぐにやってきた。
「はじめまして、メニーです!よろしくお願いします!」
やってきたのはスライム氏に似た軽装備の女の子だった。
見た感じ同い年くらいっぽい。
「よろしく、エニーです」
ちょっと待てスライム氏、めちゃくちゃ美少女じゃねーか!
ズルいぞ――ん?メニー?
「まさか、俺とネームが似てるから弟子にしたとかじゃないよな?」
「ソンナコトナイデスヨー」
視線を逸らすスライム氏。
「もう一人の弟子のネームは?」
「エース、です!」
俺の疑惑の視線を孕んだ質問にはメニーちゃんが答えた。
スライム氏はこっちを見ようとしない。
エース君か、語感は似てないけど文字だと3分の2一致。
「スライム君?」
「師匠!この方が師匠の言っていたエニー様ですか!?」
「エニー、様?」
スライム氏の顔がどんどん青ざめていく。
いや、ゲームだからそんなことはないんだけど、そう見える。
「すいません!僕はずっとあなたに憧れていたんです!」
突然スライム氏は告白を始めてしまった。
最初にテンションが異常に高かったのはそういうことらしい。
「まぁまぁ、落ち着いて。俺も嬉しいよ」
凄い勢いで褒め称えるスライム氏の言葉を一通り聞き終えた後、宥めるように声を掛ける。
「すいません、師匠はエニー様のこととなるとどうしても・・・」
メニーちゃんも苦笑いだ。
「そのエニー様っていうのはやめようか。メニーちゃんもフレ申請していい?」
あっ、思わず"ちゃん"付けで呼んでしまった。
馴れ馴れしいと思われたかな。
「はいっ!是非!あ、わたしのことは"メニー"でいいですよ」
「じゃあ、メニーで。メニーは話聞いてる?俺が教わる立場になるんだし、俺のことも"エニー"でいいよ」
この子も良い子だなぁ。
ただこっちが呼び捨てなのに教わる相手に様とかさんとか付けられるのはよろしくない。
「わかりました!それじゃあエニー!なんでも聞いてくださいね!」
「スライム君にも言ったけど、敬語もなくていいよ」
「おっけー!こんな感じ?」
指でマルを作って返事をして確かめるメニー。
「そうそう。それじゃ、改めてよろしくメニー」
「こっちこそ。よろしくエニー」
流れで右手を出したけど、このゲーム握手できるんだな。
いい感じで話はまとまったけど、スライム君がなんかプルプルしている。
「エニー様ぁ!僕のことも是非"スライム"と!」
「スライム君はまずエニー"さん"から始めようか」
「ぷっ、あはは!ごめんね、師匠は普段はちゃんとしてるんだけど」
「ああ、さっきまでの姿はちゃんとしてたよ」
「師匠の残念なところを見てるのもアレだし、移動しよっか?」
「だな。訓練場でいいかな?そこにいるけど」
「うん。すぐ行くから待ってて。あと設定で模擬戦中の通話オンにしといてね」
「わかった。じゃああとで」
そう言ってトークルームを退室した。
名残惜しそうなスライム君はスルーだ。
いずれ挑戦者としてまた会おう。
お読みいただきありがとうございます。
初期案ではスライム氏に教わる予定でしたが、ヒロイン出してそちらに教わることにしたら、なぜかスライム氏のキャラが崩壊しました。
手の内を知らずにガチでやり合う方にしたらこうなりました。
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