第3話
「とりあえず西洋鎧に刀は不格好だな」
防具を切り替えると、鎧から袴の軽装備に変わる。
これはさすがにSランクじゃないけど、十分レアなAランクだ。
防御力は紙に等しいけど、自動修復機能付きで耐久力が自然に回復する。
更に上下セットで装備すると素早さがアップする特性と、『居合い抜き』というスキルが使えるようになる、まさに刀を装備した侍になり切りたい人向け装備だ。(一応ネタ装備という枠ではない)
見た目は大事。
「お、着いた着いた」
歩きながら戦い方を考えていた俺が目指していた場所、それは闘技場。
フィールドエリアで最もポピュラーなPvPステージだ。
毎日5回参加可能な勝ち抜き戦で、その成績に応じて、初級、中級、上級、最上級とランクが上がる。
最上級ランクはその時点の半数の同ランク者を連続で倒すことでフィールドマスターへの挑戦権が得られるが、一週間以内に10勝できないとランクダウンする。
俺がこれから目指すのはそのフィールドマスターだ。
まずは中級への昇格条件の10連勝が目標だな。
これはちょっと強い武器かスキルを手に入れれば割と簡単にクリアできるらしい。
ただ、その次の中級は20連勝が必要でなかなか難易度が高く、一番人数が多いみたいだ。
ああ、一応、勝った後に連勝を継続したまま中断することもできる。
参加回数は消費するけど休憩してから再開する、というのも可能ということだ。
というか、20連戦はさすがにしんどいだろう。
それをクリアした猛者の集まる上級は日曜締めで一週間の勝利数上位者五名が最上級に昇格できる。
この勝利数ランキングと最上級ランカー、そしてフィールドマスターはメニューウィンドウから確認できる。
――が、始めてもいない俺にはまだ関係ないな。
迷宮攻略してたときも縁がなくて見ることもなかった項目だ。
俺なら普通にやれば上級まではすんなりいけると思うけど、今回は敢えてこの逆刃刀の峰で戦っていきたい。
所謂縛りプレイだ。
緊急メンテの暇つぶしのつもりだったけど、始めたらやってた頃の楽しさが完全に蘇ってきた。
ちなみに、フィールドエリアには迷宮とは違ったレベルアップ施設として訓練場があり、模擬戦によって経験値を得ることができる。
レベルカンストでスキルも『剣技』をほとんど覚えてる俺にはもう必要がない施設だけど。
あと、闘技場の戦闘でも経験値は得られる。
それとここでの基本的な金策は闘技場だ。
初戦で負けてもファイトマネーが貰えるし、勝てば勝つほど、ランクが上がれば上がるほど金額も増える。
その金で迷宮組が得たアイテム等や生産職が作った武具を買って自己強化していく。
当然、迷宮組の金策はその売り上げだ。
あと、初心者向けにはNPCのショップもある。
そして、もちろんネタプレイ用の施設も存在するけど、割愛する。
というか、するつもりがなかったから全然知らないんだよな。
公式が謳ってたのは「魅せて稼ごう!」というものだった。
そんなわけで、これから闘技場初級の初対人戦だ。
30分能力値が下がるデスペナルティが終わっているのを確認するとすぐに申し込んだ。
初デスペナだったからちゃんと解除されてるか不安だったのは秘密だ。
マッチングが終わると控室からリングに飛ばされる。
リングというか、半径10メートルくらいの円柱の空間にいる感じだ。
戦いの様子は闘技場の観戦スペースに入るとメニューウィンドウから好きなリングの戦闘を観ることができる。
また、最上級ランクの試合は闘技場内あちこちにある大ビジョンで流される。
初戦の相手は片手剣に盾の戦士スタイル。
ピー! 《戦闘開始!》
開始の合図が鳴り、相手が突っ込んでくる。
俺は納刀したままの刀の柄に右手を添えて構える。
「よし、『居合い抜き』っ!」
俺は敢えて相手が間合いに入る前に右人差し指にセットした『居合い抜き』を使う。
「うわっ!」
相手は声を上げて慌てて止まる。
いや、闘技場のリング内は通話オフだから実際に聞こえたわけじゃないんだけど、相手の顔がそんな感じだった。
よし、狙い通り。
突進系スキルに分類される『居合い抜き』で刀を振り抜きながら接近した俺は刀をそのまま返す。
「えっ?」
相手はそれを盾で受けようとするが、逆刃刀はあっさり切り捨てる。
だが盾は消えても、相手は健在だ。
左腕には当たったらしく、肘から先がなくなっている。(戦闘後に戻る)
くそ、距離が足りなかった!
今ので相手ごと斬るつもりだったのに。
「ああっ!買ったばっかの盾!ちくしょう、修理代になれ!」
怒った相手が何か叫びながら剣を振り下ろす。
「やべっ」
なにこのデジャヴ感。
思わず刀で受けようとした俺はまたこの逆刃刀に殺されてしまった。
このゲーム、ステータスはもちろん高い方が堪えられるんだけど、『体勢』も重要でレベルカンストの俺でもこうやってあっさり押し切られる。
「あれっ?」
勝った相手も拍子抜けしている。
そりゃそうだ。
逆刃刀じゃなければまだ戦闘は続いていただろうからな。
そしてロビーに戻される。
《1000マネー を 手に入れた》
まさかの初戦敗退。
くっそー! 剣と同じ長さだからって油断した!
斬り返す方が間合い短いのか。
もう一歩踏み出さないとダメだったな。
「こう、か?」
少しずつ冷静になり、体だけで動きを試す。
居合い抜きで振り切った状態から、そのまま斬り返したのがさっきの動き。
そこに、右の親指で一歩前進を入れて斬り返す動きをしてみる。
「うーん、やっぱり持ち替えないと難しいな」
『居合い抜き』からの斬り返しは振り切った位置的に左手に持ち替えて引く方が早く振れる。
いくらステータスが高くても関係ない。
スキルの動きは力や素早さの数値の影響を受けるが、それ以外は自分の実際の動きが反映される。
だけど、峰を向けて斬る、という動作が思いの外難しい。
さっきは持ち替えずに斬り返してみたけどだいぶ遅かった。
とにかく当たればなんとかなるのはわかった。
盾も防具も一切無視できる。
まぁ、Sランク装備の俺が死んだくらいだしな。
必要なのはスピードと正確性だな。
「模擬戦・・・やるか」
そう呟いた俺は闘技場を後にして、必要ないと思っていた訓練場へと向かった。
「ぐぬぬ、まさか模擬戦でも死ぬなんて」
デスペナがあったとはいえ、いきなり突っ込まれて、またしても逆刃刀を押し込まれてしまった。
あ、そうそう、闘技場は連続して挑戦できないように負けるとデスペナルティを負う。
まぁ、リングの独占防止だな。
模擬戦にデスペナがなくてよかった。
ちなみに模擬戦は回数制限のない対人戦で、フィールドエリアで戦闘を極めようとするプレイヤーはほとんどここに篭っているらしい。
模擬戦はリングも実質無制限で空き待ちみたいなことにはならない。
「30分待つかぁ」
デスペナの能力ダウンは思った以上だった。
それに、下がった状態のスキルの動きを覚えても意味がないことに気付いた。
しばらく戦術を考えて時間を潰し、模擬戦にどっぷりとハマるのだった。
「何回死んだかわかんねぇ。前はデスペナ0って自慢してたのにな」
思わず自嘲する。
結局デスペナがなくても死にまくった。
約半分が逆刃刀での直接事故死。
残りは逆刃刀の峰を当てることに集中しすぎて隙を突かれて死んだ。
まぁ、防具が紙装甲だしな。
でも、おかげで感覚は掴んだ。
イメージは拳の親指の付け根を相手に向けて振る。
そしてコツというか、最初の大振りの『剣技』からの返しの峰打ち、というのは間違いじゃなかった。
連打系の『剣技』じゃなくて一撃系の『剣技』が有効だろう。
こと逆刃刀で戦うということに関しては。
相手の反撃も防御も無視できる峰打ちはやはり強い。
如何に相手に回避させないか、それが重要だ。
あとは刃を当てないようにしてたけど、よくよく考えたらそれだけで倒せることは稀なんだから「当てちゃってもいい」と思うようにした。
むしろ防御させて動きを止められるならその方が楽だ。
その後の峰打ちの振りやすさを考えなきゃだけど。
とにかく『剣技』で相手の行動の選択肢を狭める。
あとはその相手の行動に対する反応を突き詰めていく。
それで最後の方はだいぶ勝てるようになってきた。
あと、明らかな初心者に一撃死は申し訳ないので刃で普通に戦ってみたりもした。
そして、模擬戦の中で一人、異常に強いプレイヤーがいた。
プレイヤーネームも印象的だったスライム氏。
思わずその強さにツッコんだ。
隙を突かれて死んだことには違いないんだけど、彼はこちらのスキルを全て回避していた。
スキル頼みのプレイじゃ絶対に勝てないという確信がある。
彼はスキルによる固定の動きは全て把握している、そんな気がする。
ふと絶対いるだろうと気になったので、メニューウィンドウから闘技場上位者一覧を見てみると、一番上、フィールドマスターのところにスライム氏の名前があった。
「あれが頂点か。遠いな」
と、呟いたその時、システム通知が届いた。
《新着メッセージがあります》
《タイトル:はじめまして、スライムです》
お読みいただきありがとうございます。
初実戦、からの死亡。
主流じゃないけど多対多ステージやバトルロワイアルステージなんかもあります。
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