下駄箱に…
下駄箱に白い角封筒。宛名は無い。差出人の名前も無い。封を丁寧にはがし、白い便箋を取り出す。
『あなたが好きです』
僕は下駄箱を見やり、もしかして入れ間違いではないかと、隣り合った段、隣り合った列をぐるりと見回して、そこが誰のだったか思い出そうとする。が、思い出せない。たぶん、そもそも知らないんだ。興味無いから。そしてたぶん入れ間違いでも悪戯でもないんだろうと思う。何の根拠も無いけれど。
誰からのラブレターなのか知らないが、誰かの想いを僕が捨てて良いわけがない。便箋を元に戻し、角封筒を元あった場所に戻す。
しばらくの間、ぼんやりと、馬鹿みたいにその場に立ち尽くし、それから僕は自分の書いたラブレターをそこに残すことなく立ち去った。
━━━━━
下駄箱に白い角封筒。宛名は無い。差出人の名前も無い。見覚えは、ある。真っ白な角封筒なんて見分けは付かないだろうが、なぜか僕には確信があった。どうしてこれが僕の下駄箱にあるんだろうと、立ち眩みのような浮遊感を覚えながら、封を丁寧にはがし、白い便箋を取り出す。
『あなたが好きです』
茫然と立ち尽くす僕の背後から、女の子の声がした。
「それ、君がくれた手紙だよね?」
振り返ると、彼女がいたずらっぽい笑みを浮かべて、そこにいた。
「あ、勘違いしないでね。突き返すつもりで入れたんじゃないから。ちょっとびっくりさせてやろうと思って。名前が書いてなかったからさ。ちゃんと名前書かなきゃわかんないじゃない。」
「え、なんで…」
「昨日君がそれを私の下駄箱に入れるのを見ちゃったから。ねえ、どうして名前を書かなかったの? まさか書き忘れたの? それとも…これって悪戯なの? 悪戯だったら怒るよ?」
「いや、あの、違うんだ。これ、僕が書いたんじゃないんだ。」
彼女の眉がピクリと動き、急にむっとした表情になった。下手な言い逃れだと思われたに違いない。僕はうろたえてしまい、鞄に入れっぱなしだった僕自身の手紙を慌てて取り出した。
「僕が書いたのはこっちで、下駄箱に入れようとしたらこの手紙が先に置いてあって、誰のなのか僕は知らないんだけど、その…」
彼女はぽかんと僕の顔を見つめ、2通の手紙を交互に見やった。
「え、どういうこと? それ、君の手紙じゃなかったの? そっちのが君の手紙? え? 君が書いた手紙?」
彼女はだしぬけに僕の手紙を掴み、
「頂戴! 読ませて! あの、返事はもう決まってるんだけど、読みたい!」




