イデアの世界
第3話 イデアの世界
中世の世界が視界に広がる広場。
噴水の音が聞こえる。少し眩しい。
振り返ると頰を膨らませた AIが居た。
「私は 怒っています!」
AIらしい定形文を繰り出した。
「あぁ ごめんなさい。なんか分からないけど言ってしまいました。」
深くため息をつくAI。
「はぁ。転送される前に コピーを作っておきましたので
暫くはバレないと思いますが・・・。」
「ところで これからボクは何をすれば良いのかな?」
気まづい雰囲気になる前に話を変える。
「ちょっと待って下さいね。」
・・・・・・・・・・・・
・・・・
・・
・
「あれ?読み取れない・・・。あ、コピー失敗しちゃったのか・・・。」
涙目のAIがゆっくりとこちらを睨みつける。
「とりあえず 歩こうか・・・。」
とりあえず始まった物語。とにかく歩き出すしかない。
まるで現実世界と一緒だ。
誰かが示す道標なんて無い。しかし分からない世界は
とても美しく見えた。
昔 プロアクションリプレイと言う 裏技器があった。
最初のうちは レアアイテムを量産させて そんなアイテムを持つ自分を誇らしく思えたが
早い段階で飽きてしまう。ただの作業ゲームに形が変わってしまうからだ。
赤と白の煉瓦が地面に敷き詰められ 見た事がない様な国旗がいくつも吊るされている。
瓢箪型のギターに似た楽器を弾く陽気な男性。
緑と青が継ぎ接ぎになったちょっとオーバーサイズの服を着た子供。
きっとこれも 誰かの夢の世界 ボクが今 没頭し愛している世界だ。
「お腹すいたあああああ」
AIが呟く。気付いたらボクもお腹が空いている。
「そうだね。ボクも一旦ログアウトして ご飯を食べることにするよ。」
空間をスクロールし バリアウォールを出す。
「あれ?ログアウトが無い・・?」
AIが顔を近付ける。「当たり前でしょ!あなたはこれから
この世界を壊す不穏因子になった訳。思考だって読み取ってるんだから。
まずはあなたを探しに来るのは当然でしょ。その上で見つからない様に私が
隠してるんだから。見つかったらタダじゃ済まないわよ!」
治安が悪いことを言っている。
「え?じゃ トイレとか ご飯とか どうするの!?」
「知らないわよ。あなたがOK出したんでしょ!
私の指示通りやってくれれば 3時間くらいで済んだの!
なのにあなたが 私ごと連れてくるから 問題なんでしょ!!!
全く 本当にばかなのかしら。あれだけ私が凹んでたのに
ニヤニヤと風景ばっか見て・・・・。人選間違えたかしら。」
まぁ なんとかなるかと思ってしまう。きっと愚者なんだろう。
「ボクの名前は 駿。よろしくね。君のことは なんて呼べば良いかな?」
呆れにも似た表情を見せるが いつもこうだ。
ペースを握って自分の世界に持っていけば 他人は大して怖く無い。
「私には 名前はないわよ。でもそうね アイでいいわよ。」
そう言うと手を差し出した。握手をした後に少し微笑む。
「ここは いい世界だね。」
風が吹き アイの髪を通り抜ける。思わず見とれてしまった。
「いい世界ね。誰が作り出した世界なのかしら。
この物語の想像主にあって 目的を果たしてあげればこの世界は壊せるわ。」
ふと見渡して 大きな城を見つけた。
「きっとあそこに居るね。」確信は無いが 何だかそんな気がした。
「ずいぶん適当な 勘ね。でも私が選んですもの
きっとあなたは何かの力を持ってるに違いないわ。」
そうして 僕たちは歩き出した。
物語は きっとここから始まる。
神は全知の力を失った。何が起こるか 誰にも分からない。
でもそれが良い。分かりきった世界なら 本を閉じてしまう。
退屈だ。そしてこの世界は 知らない誰かのイデアの世界。
一個一個突っ込んで 世界に水を差すソフィストは居ない。
見たままの世界を楽しんでいこう。