プロローグ
バリカタは小麦粉齧ってるかんじが最高ですね。
処女作です。
よろしくお願いします。
初めてそれを食べた日本人と言えば、黄門が目に入らないことを許してくれないあのお爺ちゃんで有名な水戸光圀だったという。
札幌、函館、浅草にルーツがあったり、とそれの歴史を遡ると、本当のところはどこが始まりだったのか、よくわからないうちに定着した日本料理である。
ただ大切なのは、幼稚園に入りたてのがきんちょから部活帰りの少年、毎日残業続きのサラリーマンに孫が可愛くて仕方ない老夫婦まで幅広く好んで食べる料理であることだ。
俺も小さい頃は、月1度、それを出すお店に連れて行ってもらえる日が楽しみで仕方なかった。
それだけ、日本人のそばに寄り添う料理なのだ。
そして、早いもので俺も中年を少し越えた歳になった。今、俺の目の前には、行儀よくカウンター席に座り、注文した一杯の料理を今か今かと待ちわびる『お客様』がいる。
『お客様』の肌の色が違っていたり、目の色が違くても関係ない。耳が多少尖っていたり、頭から角が飛び出ていたり、口から牙が覗いていたりもするが、そんなことは些細な問題だ。
俺はただ『お客様』を満足させる極上の一杯を作り出すためだけに、彼らの目の前に立っている。
「麺、あがりますよーっ!」
従業員の威勢のいい声に反応して、『お客様』の喉がごくりと鳴る。
計算された秒数で茹で上げられた麺を、黄金色の液体に満ちた器の中へ優しく放り込む。一度箸で持ち上げ、綺麗にならしたら何種類もの具材で美しく器を彩る。
あとは俺の手で『お客様』の目の前までそれを運ぶ。
あわよくば俺の一杯が『お客様』の思い出の一杯になればいいな、などと思う気持ちもあるのだが、完成された料理に、余計な感情や言葉はいらない。
「異世界らーめんです。ごゆっくりどうぞ。」