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seventh  作者: nyaha
9/10

裏切り(ジョーカー)と救世主(キリフダ)

「それで…私の相手は貴女ってことでいいっすかね?『大釜の魔女』さん」


災害が目覚めた都市にて。

これが因果なのだろうか…と思うほど、ここに来てしまっていると内心思いながら、フィアは目の前のフェイカーに敵意を向ける。


嫉妬インヴィディアのフェイカーを前にして、フィアは無言のまま民家の壁画を弾丸にして牽制するが、読んでいたかの如くインヴィディアは槍を回転させ弾いていく。


「何故、その名を知っているって感じの洗礼っすねぇ。ま、私嫉妬インヴィディアなんで羨ましいのは全て知ってるんすよ? 勿論、貴女の結末まで?」

「なら…黙らせる_________いいえ、黙れ」


フィアの逆鱗に触れたインヴィディアが何も出来ずに地面に跪かされる。この状況には流石に予想してなかったのか、目を大きく開き、歯を食い縛って何とか起き上がろうとする…が、その様子はピクりとも動いていない。


(おぉ、これはヤバイっすね…これが大釜の魔女の側面っすか)

「大地の質を変換、硬化、盛り上がれ…!」


フィアの魔術である錬金術が大地の物質を変換させ、一気に鋭いタワーが無数に天へと上がっていく。


「うぐっ…重力と高気圧とサンドイッチっすか…!」

「砕けて混ざれ」


鉄のタワーと化した大地の塔がフィアの言葉で砕け、台風が巻き起こるような動きで混ざり、打撃と圧縮がインヴィディアを苦しめていく。


「がはっ…!」

「質問。貴女の目的はなに?」

「ニャハハ、拷問の間違いじゃないっすかね?」

「答えて。次にそらしたら容赦はしないから」

「いただだっ…わかったっす、答えるっすよ!?」


見せしめの圧縮に耐えかねたインヴィディアが涙目で叫ぶ。フィアは解放されない程度に少しだけ緩め、一つ目の質問を投げかけた。


「目的はなに? 貴女も私達と同じフェイカーのはず。何故、邪魔をしようとするの?」

「うん? 心外っすねぇ。私は何もやってないと思うっすよ?」

「そう? グラのオブザーバーさんが言ってたわ。あの霧、貴女がやったのでしょう?」


確かにあの霧が現れたのは災害前、普通の戦争を行なっていただろう時だ。その事に関しては別にとやかく言うつもりはない…が、誠也は言っていた。


「あの霧は術者がいないと消えるはず…災害が現れても、貴女はこの街にいたのよね?」

「災害が現れても、戦争内容が変わるなんて全員が知るわけないっすよ?」

「えぇ、確かに。グラさんがいい見本だわ。なら、スペルビアさんと対峙した時の『お願いしますっすよ、強欲アワリティアさん』と言うのは何かしら? 確か、あの災害もアワリティアなはずなのだけれども」

「…あいつ、死んでなかったっすか。なるほど! あー、もう言い訳は無理っすねぇ。しゃーなし_________もういいっすわ」

「_________っ!?」


そう言い切ったインヴィディアの言葉と同時に、フィアの作り上げたタワーが砕け散っ…いや、これは溶けたと言うべきだろう。そして、インヴィディアより流れる白い煙が自身を隠し、フィアの世界を塗り潰していく。


「これは…霧…?」

霧の蜃気楼ミストバレーの派生、『死滅の霧デスミスト』ってとこっすかねぇ。触れた生命以外の物質を任意で溶かすらしいっすわ」

「らしい…即席で魔術を組み立てたの?」

「ま、使用人なんで? 仕事が速い越したことはないっす。さて? この空間じゃ貴女の魔術は使えないっすよー『大釜の魔女』さん?」


生命以外の物質を任意で溶かす霧…確かにこの空間はフィアにとって最悪の相性だ。もし生成したとしてもすぐに排除される…。


(それに、今の私じゃ『フィア』になれない…向こう側ならこの局面を打破できるのに)

「…興が冷めたっすねぇ。古来より勇姿を無くした者は勇者じゃない_________魔女を殺し、兄を助ける、【魔女フィアは落雷を落とした】…誰に? 魔女に、本シナリオの張本人に」

「っ…! それ以上喋るなぁあっ!!!!」


インヴィディアの言葉に反応したフィアが大地を糧に大量の鉄の竜を生成し、ぶつけようとするが一瞬でドロドロになり消滅していく。だが、激怒していたとしてもフィアはフィアだ。


「なるほど、消滅する煙が目的っすか…!」

「一定時間だけど、煙の中なら霧は当たらない…それにこの煙でさえ」


一瞬にして煙を槍の刃へと変化させたフィアが四方八方から発射させる。だが、インヴィディアもこれは読んでいたのか槍を地面に突き刺し、霧が大地より吹き上がった。


霧壁ミストウォール…! ちがっ、これもフェイクかっ?!」

「燃ゆる遊炎ゆうえんの焔。木々を焦がし、生命を頂く糧として汝らを示せん。我とこの陣の食を代償にその命を繋ぐものとする_________


インヴィディアが気づく頃には既に遅く、フィアは魔法陣に描かれた文字に自分の血を流し、魔法陣を起動させる。あの時は湊に魔力を貰い、周囲の民家を素材にしたがそれでは足りない。この相手を倒すには、自身さえも素材にしなければ。


「この、魔女如きが…調子にのるなぁぁあっ!!」


霧を更に展開し、フィアの描いた魔法陣を消していこうとする…が、それは消えなかった。


「時を紡げ、『死紡ぐ兄が為の食材ヨハネス・ライフライン』っ!」


魔法陣が起動し、燃え上がる炎が疾風迅雷の如く渦となり巻き上がっていく。以前は見えなかった炎が、今はフィアの血が混ざったように荒々しく、色彩を取り戻した極炎が巻き起こった。


「終わり。そして死人はもう口を開かないでっ!」

「死の炎…ハハ、ニャハハハハッ! 我が主神と同じ光を放つか、小娘っ!」

「燃えろ! 何もかも! 塵一つ残さない!」


復讐者の如く怒号を上げたフィアの言葉に共鳴して、炎の豪風が更に激しさを増していく。この魔術を展開して生き延びた者を見たことがない。


生前も…あの魔女でさえ。なのに…


「五月蝿いっすよ」


その一言で戦況は一変した。

消えなかったはずの復讐の炎は消え_________フィアの手足は消滅し、それに気づいた頃には霧が首を掴み上げ、白い鎖が身体中を巻き上げていく。


何が起こった? など考えている暇も無く、追い討ちの槍はフィアの腹部を貫いていた。


「………かはっ…」

「これが失敗した未来っす。私は嫉妬。全ての物語を見て羨ましいと思い、それが偽物の世界でも私は嫉妬する。貴女が描いたこの物語もまた私の対象内…いい夢見れたっすか? 」

「ゆ、め…」


霞んでいく瞳に見えるのは、周囲の状況。

魔法陣の食材に使ったはずの民家に損害は無く、錬金に使った大地にも変化はない。


夢…まさか、今までの戦闘はフィアの思い込みだったのだろうか。本来は何もできていない…ただ突っ立っていたのか、時間を止められていたのか不明だが、一つだけわかることがある。


(魔力…が、減ってる…?)


少なくとも何もしていないわけではないということだ。


「ぐっ、が………」

「考えている暇があるんすか? 今すぐにでも首を捥ぐっすよ?」

「……かはっ…」


遠退く意識。徐々に訪れる白い世界。

そんな死の直後だろう中、何故か様々な思考が頭を過る。時間が止まっているかのよう…全てがスローモーションになっていく。


何故、魔力のみが減った? 本当に何もしてない?

そもそも何故トドメを早く刺さない? この霧より自分の力の方が早く終わるだろうに_________違う、出来ないんだ。理由はわからないが、インヴィディアは動けない。何故? わからない。


『簡単だろ、フィア。これも夢ってやつなんだ』

(でも保証がないわ。それに、この夢から覚めるトリガーも…)

『なるほどなぁ。なら、覚めなきゃいいのかもな?』


「そっ……か。目覚めなければいいのか」

「_________っ?!」

「夢…なら、夢、で………」


夢とわかれば無茶できる。夢でなければやるしかない。


「なっ…霧を錬金分解してるって、マジっすか?!」

「元々、魔力…なら、錬金も可能……」

「可能って、普通無理っすよ?! 他人が練り上げた魔術を分解して錬金に回すなんて!」


夢なら死なない。夢でなく、フィアならやれる。


『あぁ、フィアなら関係ない。壊せ、そんな幻想を』

「うん…マスター!」


フィアの触れていた霧が一気に散り、その霧が文字となって真下に魔法陣を完成させる。


本来、大気に存在する魔力の素【エーテルナノ】を自分の魔力に練り込むことにより魔術が成り立つ。だからこそ、そんな複雑化した魔力を分解し錬金すること自体不可能だった…が、フィアは錬金術師であり魔女である。


こと、混ぜる事においては誰にも引けを取らないエキスパートの物語の持ち主だ。


「触れた手がある。無いはずの手がある…つまり、これは夢…霧と空間を同調_________分解すれば…!」


錬金が発動し、空間が素材となり捻じ曲げられ弾け飛ぶ。すると、目の前には元の焼け崩れた街並みが広がっていた。素材に使った民家も大地も無い…戻ってきた、のだろう。


肝心のインヴィディア本人がいない。

しかし、フィアは誇らしげな表情で空を見上げる。やれた…一人でもなんとかなった。


なったよ…お兄ちゃん。


「任務完了でいいのかしら…取り敢えず、後は祈るのみ…ね」


フィアは少し眠くなった。

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