災害戦争 其の壱
「さて…そんじゃ防衛兼、災害戦争といきますか。やるぞ、グラ、スペルビア」
「あぁ、今度は本気でやるから二の前にはならねぇさ。借りはキッチリ返してやる」
「二日間だが、少しは力をつけたはず。更に今回はオブザーバーが近くにいる、簡単には負けないことを約束しよう」
「そこは負ける全体無くそうな? エレノアとアケディアもいいな? お前らが砦にして切り札なんだからしっかり頼むぞ?」
エレノアの城から数キロメートルの山の山頂。
誠也の宝石とエレノアの魔術による念話とビジョンにやる完全な通信手段を前に表し、防衛基地である城の内部の風景とエレノア、アケディアが映る。
「えぇ、成功すれば災害であろうと勝利をもたらせてあげるわ! だから、キッチリ守ってね? 騎士様方々」
「主人の護衛はお任せください。足止めはお願いします」
「おう、任せてくれ。さて…そろそろだ」
絶対契約が切れる数分前。
午後三時頃、災害が眠りについたのは遠方の街であることは調べにより承知している。なら、そちらの方面への注意を促すのが、普通にして当たり前だろう。そう、普通なら。
「そう、普通ならのぅ?」
「あぁ、普通じゃないよなお前は…!」
恐らく、既に約束の時刻となったのだろう。
相手が普通の敵であれば、その注意で良いだろうが今回は違う。あいつは災害だ。災害はいつ起こるのか、いつ現れるのか、そしていつ死を迎えに来るのかが不明である…故に、それ相応の対応が必要となる。
誠也は読んでいた、
災害なら…アイツなら…
「絶対に真正面ではなく、真後ろに現れるってな?」
「っ! オブザーバーっ!?」
「ッチ、危なげだがよく耐えた_________『勇姿と王への試煉」』
真後ろに現れた災害、村雨の攻撃を絶対回避領域で回避し、その隙をついたスペルビアの岩石の渦が村雨を閉じ込めた。グラもまた誠也を回収し、星装を展開、射手座による弓で岩の隙間から撃ち込み、スペルビアの魔力と反応して大爆発を起こし始める。
「全く…何故我々に奴の考えを伝えない? オブザーバー」
「三人で警戒してたら奇襲にならないだろ? 俺にはさっきの技があるし、何より奴が狙って来るならまずオブザーバーだろうさ」
「…理に叶ってるから責め辛いな。まぁいい、スペルビア! 私と共に攻めるぞ、遅れるなよっ!」
「誰に言ってやがる、蛇女! てめぇがだろーがっ!」
あの程度の攻撃では仕留められないのは明白だ。
そのことを理解した上で、上空の岩石の渦へ向けて追撃の為に跳躍する。
「ふむ、力は上がっているようだが…まぁ、この程度よな_________ヌルい」
「「っ?!」」
閉じ込めたはずの岩の渦が一気に吹き飛び、その風圧でグラとスペルビアが地面に落下させられる。しかし、二人とも即座に反応し受け身を取って反撃へと移ろうとする。
「反応も良し、状況判断も良し、ふむ…そこのオブザーバーといいフェイカーといい、二日前とは比べ物にならんくらいの成長じゃのぅ」
「俺はお前とは、ほぼ初対面なんだが?」
「妾の見える範囲をそこらの輩と同じにするではない。同じ都市にての生命であれば、力量くらいは測れようぞ?」
あの都市…つまり街で戦闘を繰り広げたフェイカーの情報は筒抜けということになる。グラやスペルビア、誠也、そしてフィアでさえもそうだろう。
流石に災害の名は伊達じゃないということだ。
「誰と話している、貴様の相手は我々だっ!」
浮遊していた災害の背後を刹那の速さで取ったグラが回し蹴りで大地へ叩き落とす。砂埃と瓦礫が一気に噴き出したのも束の間、今度はスペルビアの如意棒が災害を捕らえ、山の壁へと衝突させた。
「ノーガードの二撃、こいつぁ効いたろ? てか、効かなきゃ後々しんどいぜ…」
「安心せい、少しは効いとる」
「ハッ、嘘こけや。これならどうだ_________乱打せよ、如意棒っ!」
その名の通り、伸びた如意棒が災害の手前で無数に分散し、回避のルートを消していく。そしてそれに合わせたグラが空中からの追撃の矢を放ち、連携を繋げていく。当然のように走りながら如意棒を交わし、グラの矢を腕で弾き返すが、近接と遠距離戦闘を繰り返している。いい流れだ。
相手が強敵である。相手が一人では叶わぬ強敵である。なら、やることなど一つしかないだろう…簡単だ。
攻撃をさせるな。
「魔石よ、発光せよっ!」
「むっ?!」
村雨のスピードに合わせて目の前に現れた誠也が魔石を投げつけ、それが眩いほどの光となって輝き出す。
「グラ! スペルビア! 叩き込めっ!」
「獅子座よりきたれ_________星砕く獅子座の咆哮」
「撃ち砕け、如意棒っ!!!」
誠也が作り出したチャンスに喰らいつくよう、グラが獅子座の星装を纏った一撃とスペルビアの大地を抉る如意棒か村雨を吹き飛ばし、今一度壁に激突させる。
ここにいる誰も彼もが油断などしていないのは当たり前であり、三人全てが負けるつもりなどさらさら無い。隙があれば殺す、作られれば仕留める…簡潔に言えば、全員が最高点の集中状態にでも入っているようだ。
(全員が考えるよりも、体が動いているように見える…いいチームワークだ)
(だが、恐らくこれでも奴には効いてねぇだろうよ)
(二つ目の星装だが、まだいけるな…最悪は同時星装も考えておくか)
スペルビアの予想通り、村雨は即座に瓦礫を吹き飛ばし立ち上がる。埃を払うように腕を振り、砂埃を吹き飛ばした刹那_________反撃を感じさせぬ速度でグラを飛び蹴りで吹き飛ばした。
「あまり頭にのるなよ? 偽物共」
「っち、少しは堪えやがれっ!?」
「…ふむ、そうじゃの。貴様らは十分に我ら災害と渡り合うに達したものじゃし_________そろそろ本気でやるかのぉ?」
「なにっ?」
スペルビアの言葉を挑発と受け取ったのか、村雨は魔力を有り得ないくらいの速度で上昇させていく。風向きが変わり、周囲の瓦礫が竜巻の如く空へ巻き上がる程の魔力の渦が村雨を包み込む。
本気…と、村雨は言った。
そして誠也は思い出した。封印される絶対契約の時、奴は今とは違う姿にあったはずだ。
一つ、その一つだけ違うだけで、これ程違うというのだろうか。
刀を抜いただけで。
「何を驚いておる。妾を名は『村雨』。刀、この妖刀あってこそじゃろうて」
わかっている。だけど…
「恐怖…か。ふむ、そこのオブザーバーは仕方ないとして…貴様まで立ち竦むか、傲慢の戦士よ」
「のやろ…この格の差は卑怯だろ、クソがっ!」
「吠えるだけの猿か、もしくは威勢だけでも保っておるのか。無論、どうでもよいがな」
刀を横に構えた村雨がゆっくりと誠也達に近づいていく。
駄目だ。目は動いても、手足が完全に固定されたかのよう停止している。まるで脳が動くことの意味の無さを植え付けられているように。
終わりだ…これで。
「沈むがいい、貴様らは十分に奮闘したじゃろうよ」
第一戦争は_________終わりだ。
「エレノアッ!!!!!」
『はいはーい! やっと出番がきたエレちゃんが通信魔術で登場、そしてはつどーーーーーう。エレノア式魔術要塞_________『主法空間魔法陣』
村雨が斬りかかる瞬間、エレノアの魔術が発動し、山に擬態していた要塞が姿を現わす。そしてそれとほぼ同時に発せられる膨大な魔力の糸が大地と大空に流れ、一つの巨大な魔法陣を作り出した。
「ふぅ、ギリギリだな」
辛うじて村雨の刀を避けた誠也が即座にスペルビアと距離を取る。
「急に動き出したかと思えば、そういうことじゃったか。よもや現代にも高位魔術をも凌ぐ術式を組み立てる天才がいるとはのぅ…これは流石に驚愕じゃ_________まさか、【魔術を無効化する空間】を組み立てる魔法陣とはな」
『ご名答、流石は災害ね。そう、これは私の魔術式…私が指定した対象者以外がこの空間で魔術を使用することができないの。つまり、今の貴女は丸腰ってことっ!』
「宝石よ、破裂せよっ!」
不意をついた誠也が宝石を投げ、爆発が命中する。
それに合わせ、復帰したグラの矢が天から降り注ぎ、更に大爆発を起こした。
しかし魔術が封じられど、災害は災害。タフさに変化はないようだ。
村雨は爆風を払い、心眼による眼を開く。
「なるほど…妾とスペルビア以外は対象者か。スペルビアの魔術を無効化したところを見ると、対象に取れるのは二名までということかの?」
『察しが良くて困り者ね…ご想像にお任せするわ』
「ふむ…中々頭の回る娘じゃな。さて、魔術は確かに無効になったがどうする? それでも貴様らでは妾は倒せぬと見えるが?」
確かに村雨の言う通りだ。
あの刀を抜かれた瞬間、誠也達が掴むだろう勝利の確率が皆無となった。つまり、あの時にエレノアの魔術を使用しなければ誠也は死んでいた…いや、最悪全滅だっただろう。
実際、エレノアの魔術は決められた範囲にしか効力が無い。だからこそ、誠也達は災害と戦闘する反面、誘き寄せる役を担っていた。範囲内であれば、先程の不意打ちにより魔術発動などする暇が無かっただろう。逆に範囲外であれば、誘き寄せるだけでいい。
(ここまでは作戦通り…と言っていいか。上手く違う方向へ思考を向けてくれたようだし、さてと…こっからは)
「もう少し遊んでもらうぞ、災害っ!」
獅子座を星装として纏ったグラが豪傑の爪で災害を勢いよく叩きつけ、大地へ深く沈める。
「あんま変わんないのな射手座と時同様」
「主に爪とマフラーが増えただけだが、立派な星装だろう? さて、第二ラウンドといこうか、オブザーバーッ!」
「あぁ、もう少し頑張りますかねぇ!」