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seventh  作者: nyaha
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間違えし物語の集結

大気に漂う血潮の香り。

魔力の霧に紛れた微かに知っている魔力で、それは判明した。


紛れも無い。今目の前で倒れている血だらけの青年は、フィアのオブザーバー、湊だ。


「…他に気配は無し。お前に何があったよ、フィアのオブザーバー」

「マスター…ま、またいなくなるの?! またなの?! また、私の前から貴方・・が消えてしまうの?!」

「フィア、落ち着け。湊は恐らく死んで無い」

「な、なんで…だって、マスター…は」


その通りだ。この目の前の死体は明らかに湊である。服装、魔力の残り香から判明する用途は十分だ。ただ一つを除いては。


「お前が消えてないのがいい例だろ?」

「……あ」


我を失いかけていたフィアが一気に正気に戻る。


「なら、マスターは何処に…」

「わからねぇよ。取り敢えず、グラの元へ戻るのが先決だ。今回の戦争は何か嫌な予感がしてならねぇ…一緒に来るかはお前が決めろ」


少なくともフィアが消えてない時点で湊が生きていると断言できた。なら、湊を探すのも同行するのもフィアの自由である。勿論、本音は同行してもらいたいがそこは尊重を優先すべきと考えた。


「いきます…共に、マスターは、きっと生きて…ます」


誠也は小さく頷き、振り返った。


なんだろうか…何故振り返ったのだろうか?


俺はこの子を知っている…知るわけない。


________________リリ。







※※※







「無事で何よりだ、オブザーバーよ」

「お互い様だな。ボロボロなことで」


日が落ち、かれこれ数時間後たっただろう。

誠也とフィア、グラとスペルビアは合流し、町外れの湖の畔に休息を行なっていた。


既にスペルビアとの停戦協定も成立しており、フィアの魔力パスは誠也へと繋ぎ直している。グラもまた魔力回復に専念する為、喋りながらではあるが精神統一をしていた。


「それ精神統一になるのか?」

「我を誰と心得る? 会話如きで集中力が途切れるわけないだろう?」

「あ、そう」

「それよりも、先程の言葉は真実か?」

「確定じゃない。けど、恐らく予兆は見えてる。この戦争は________________大罪災害になってる」


大罪戦争。

基本、この箱庭において行われる戦争は二人一組がチームとなり最後の生き残りを賭けて争い合うシンプルなものだ。勝てば、曲がってしまった物語へ戻ることができ、その物語は定着する。皆、それを求めて争うのが毎回行われてきたものだ。


そして、この自体。

大罪を持ち、フェイカーではない『災害』が出現する世界は今回が初めてではない。過去に数回、なんの予兆もなく災害は現れ、戦争を終結させたという。そして、その戦争において偽物が勝利した世界は一回のみだ。


「なるほど。何故貴様はそれを知っている? 勝利した世界に参加していたのか?」

「いや、俺は参加していない。俺にも友人がいたんだ…そいつがその世界の参加者だった」

「ふむ…斉天大聖よ、どう思う?」


湖にて釣りをしていたスペルビアが急に問いかけを投げられ、「あぁん?」と不機嫌そうに此方を見る。


「何を不機嫌そうな顔をしている?」

「不機嫌だが?! あったりめぇだろ、確かに命を助けてくれたことには感謝してる…が、無理矢理停戦協定組ませるのはどうかと思うんだが?! 俺達は敵同士だぞ?!」

「先程も言っただろう? 災害が出現している時点で我々が争う必要は無くなっていると」


そう。これは最早戦争ではなく災害である。

大罪災害となったフェイカー達の勝利条件は一変し、出現した全ての災害に勝利することとなっている。つまり、数時間前に対峙したあの災害も倒さなければならないということだ。


「そっちのオブザーバーの了承も得た。フィアのオブザーバーは行方不明だが、フィアとは俺がパスを繋いだから戦闘は参加できる」

「マスターに会う為…やれることは、するわ」

「となると、まずは全てのフェイカーと合流するのが先決か?」

「そりゃそうだろ。お前と俺が敵わなかった相手だぞ? まともにやりゃ殺されるのがオチだ」


とは言っても、情報からわかるのはスペルビアと対峙した嫉妬インヴィディアのみ。そいつを探すのが先決になるか。


「よし、フェイカー探しは明日の朝だ。災害は夜は行動できないらしいから回復に専念してくれ」

「ほぅ、夜は動けないのか。日の光などの関係があるのであれば…いや、我が射手座の一撃は太陽神の恩恵もある。光は関係ないか」

「動けないんじゃなく、動かないのかもしれないな。一応見張りは順番にやるか」


皆が眠りに入る時間。見張り役である誠也は火を管理しながら、ずっと疑問に思っていた。


「なんで隣にいるんだよ、グラ」

「貴様が襲われでもしたら、我も死ぬだろう? 我の知らないところで敗退は流石に不本意だ」

「…理に適ってる。はぁ、それで何かあるんだろ?」

「問いが三つほどある。答えよ、奴らは何者だ?」


不意な問いに一瞬真顔になるが、すぐに火の管理に手を伸ばす。グラは気づいている…奴ら災害が何もなく参加者を消すはずはないと。そして、災害もまた大罪である理由を。


「確認とは律儀だな…いや、慎重と言うべきか」

「答えよ、三度目はないぞ?」

「お前も死ぬからな?。奴らは災害。大罪を持ち、お前達偽物を排除する為に創造された_________本物だ」


そう、強欲の大罪の災害…奴でさえ物語を正しく噤んできた本物である。曲がることを一切せず、書き上げられた物語の上をただひたすらに進んでいく列車に乗車した存在だ。


「何故、本物が偽物を襲う?」

「それはわかんねぇ。世界の理なのか、誰かの差し金なのか不明なまんまだ」

「ふむ…二つ目だ。我々の勝利条件は『全ての災害を倒すこと』と言ったな? 災害は大罪を当てはめるのであれば、七体でいいか?」

「それは問題ない」

「なら、最後に_______勝てるか?」


今までにない真剣な表情でグラが問う。


そうか、そうなのか。

全てを喰らった蛇遣い座の化身でさえ、言い切る世界ではなくなっているのか。なら、素直になるべきだ。


…これは答えられない。


「俺らの仕事はお前らを勝たせることだ。お前らが勝ちたいのなら全身全霊を尽くす。何より勝利した履歴があるだけ、まだマシだ」


そうだ。まだマシだ。

それに今回の箱庭に呼ばれた偽物達は、今までに行ってきた戦争のレベルを遥かに凌駕している。


まだ三人だけであるが、

暴食グラ】蛇遣い座の化身『アスクレピオズ』。

傲慢スペルビア】斉天大聖『孫悟空』。

そして恐らく【憤怒イラ】大釜の魔女『○ン○ル○グ○○○ル』。


残り。

確認できているのは【嫉妬インヴィディア】。

未確認なのは【怠惰アケディア】【色欲ルクスティア】【強欲アワリティア


出来れば、この四人も有名な物語であってほしい。

何より敵は災害なのだ…少なくとも戦争になればなるとかなる。


そう、戦争になれば。







※※※








正しい物語なんてなかった。


あれは醜い、醜かった。


従うだけの人生を物語を大きく変化させた魔女がいた。


知ってる。


この存在を間違った方向に使ってしまったから、私はあの世界に招待された。


そして私は見事勝利し、己が願いを…自分の物語を叶えた。いや、違う。私は結果を、終結を悔やんだからあそこにいたんだ。だから、やり直そうとした。


ボロボロの服で掃除をする私。

魔女に出会い、願いを叶える私。

深夜、饗宴と舞いが巡る世界へ行く私。

時が過ぎ、願いが溶けていく私。

そして_______見つけられ、ることない私。


何処が、何が、何をもって違う?!

私は辿った。あの人に言われたから。復讐の炎を掻き消して、何度も何度も争い続けた。なのに何故だ?! 何故、幸せで終わるハッピーエンドではない?!


ふざけるな!

これが私の物語か? 否だ! 断じて否だ!

誰もが知っている私の物語だ! なのに何故…。






「なんで見つけてくれないんですか…王子様」







※※※








「ろ…きろ、起きろ、オブザーバーッ!」


グラの声で目が覚める。

周囲には既に日が照っており、丁度早朝といえよう。どうやら見張りの途中で眠ってしまったらしい。


「悪い…俺としたことが情けないな…」

「ふん、償いは後だ。日が昇ったのなら、朝と認識していいはずだ。なら、奴が動き出す可能性もある」

「だな。一刻も早く他の大罪を見つけなければ、俺達に勝ち目はない。急ぐぞ」


既に起きていたフィアとスペルビアを連れ、急ぎ森を進む。しかし、他のフェイカー達の手がかりがない…無闇矢鱈に探しても、災害に見つかるのがオチだ。


なら、やることは一つ。


「逃げの一手、ということかよ」


索敵能力はないが魔力感知には鋭いグラを警戒として置き、攻守優れたスペルビアを護衛に。最後にフィアの錬金術による視覚妨害の魔術を貼る。


どうやらフィアの魔術全般は魔力を感じさせなくすることができるらしく、今ここで魔術が使えるのはフィアのみということになる。今は最高の主軸と言えよう。


森を歩き続けること数十分、あれからグラの連絡はない。どうやら災害と言えど、大罪持ちの魔術は通用するようだ_______と、大きく安堵した瞬間にスペルビアが誠也を庇うような構えをとっていた。


それを察知したのか、グラも合流し戦闘態勢を取る。

ようやく誠也も理解した。災害でないならなんでもいいと思い込んでいたせいかそれ以下のものは安心と勘違いしていたのだ。


紛れも無い…目の前にいるのは、フェイカーだ。


「てめぇ、どっから湧いて出やがった?」


スペルビアの問いに首を傾げる紫紺の少女。

何処と無くグラに似ている気がするが、グラの様子からして関係はないと見える。グラと同じ紫紺の髪に瞳、ボディスーツのように張り付いた服装に頭の上で浮遊している謎の物体。そして何より…何故今気づく?! と疑問に思いたくなるほどの膨大な魔力。


スペルビアの言う通り、こいつは湧いて出たのだ。

そして、スペルビアの問いに答えるよう…いや、言うべきことを言うように口を開いた。


「我が主人あるじの命により名乗る。フェイカー、真名『エクスマキナ』。マキナの罪は『怠惰アケディア』と」




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