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seventh  作者: nyaha
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剣鬼


「……これは予想外の来客だ。白髪コンビよ、今すぐ我がオブサーバーの所まで使いを頼む」


濃い霧が晴れ、その中に垣間見たのは日本風の美しい女性。動きやすく改造された着物に日本の腰にかけられた刀。美しい顔には勿体無いかもしれないが、頬には斬られたバツ印の傷痕がある。そして何より……美しく立つ狐耳娘だ。


だが、容姿などどうでもいい。グラが言うよう、この女性は予想外の来客なのだ。本来なら、このホムンクルスと結界を生み出した張本人が現れると予測していたのだが、そういう類い系ではないことは見るからに明らかである。


「……わかった。フィア、行こう」

「はい、マスター」


グラの意図を汲み取った湊とフィアが颯爽とその場を立ち去る。それを待っていたかのよう女性は少し欠伸をし始めた。


「余裕だな。今なら討てただろうに」

「無論じゃが、妾の仕事は貴様の抹殺としか言われておらんからのぉ。ふぁ……ぁ、若い者共を斬るのは些か興に乗らん」


かなり訛りのある口調で鞘に手を触れる。しかし刀は抜いていない。かといって居合の構えにしては雑すぎる……つまりあれが彼女の戦闘体勢という訳だろう。グラもまた闇から弓を造り上げ、射手座の力を解放した。


「……っ!」


先手を仕掛けたのはグラ。

勢いよく踏み込んだ瞬間、敵の間合いを無視して一気に目の前へ現れる。弓を見せてのこの近距離戦法……いくら修羅場を潜ってきた剣士でも、これだけは回避される事はない。


いや、なかった。


「なっ……!」


半開きだった目を大きく見せた瞬間、グラ体は空中で止まりその場に着地させられた。


気迫だけだ……気迫だけで勢いを完全に殺した。


驚愕したのも一秒。グラは即座に後方へ跳躍し、弓を構える。生半端な攻撃では必ずと言っていいほど通らないだろう。ならば……


「射手座の怒りを思い知れ____________『射手座より(サジタリウス受け継がれし太陽の矢アポロテンペスト』」


太陽の輝きを宿した一矢は星装となり、全てを覆い尽くす一撃となって敵の存在を狙う。箱庭の球体でさえ撃ち抜き、その後に高山を半壊させた技だ。


(悪いな、オブサーバーよ。こいつは消さなくては後々響くタイプだ。かってな魔力消費は多目に頼むぞ)


一撃は確りと剣士の足元に着弾し、大爆発を起こす。

大地を抉り、周囲の民家ごと吹き飛ばす威力。砂煙が晴れようとも熱量は失われず、一部の地面は溶けている。跡形もなく粉砕した……そう思えた。


「貴様……何をした?」


完全に砂煙が晴れ、粉砕された地面は何故か影響を受けてない部分が見える。まるで、その場所のみ避けたかのよう……剣士は無傷だった。


「ふむ……中々の威力じゃが、まぁ。妾には効かぬな」

「星をも砕く一矢を睨み付けただけで弾いたのか? 馬鹿げてるな、貴様。さて……今の私は貴様に勝てないのだが……見逃してくれる期待はもっていいか?」

「良いぞ、星喰いの星座よ。誰しも期待を持つことは大切、それも強欲じゃからな」

「貴様、やはりフェイカーか。大罪は強欲、アワリティア……そして、この馬鹿げた強さ……さぞかし有名な逸話なのだろうな貴様は」


日本風の衣装に獣の耳。更には剣士ときた。

少なくとも十分に解析できる情報量は存在しているはずだ。誠也がいれば、わかるかもしれなかったが先程から通信はない。衝撃で魔術回路ごと燃やされてしまったと見るべきだろう。


「ふむ……戯言はそれくらいにせい。挑発しても名は名乗らぬぞ? 最も、名乗ったとしても意味をなさぬがな」


呆れたようにグラの挑発を無視し、強欲……アケディアの剣士はゆっくりと進行を開始する。


今、背を向ければ即死。

待っても死。

立ち向かっても返り死に。


グラがどの選択を取ろうが敗北は揺るがない。

それほど実力の差が存在していた。


「ま、ちょっと待てや。獣耳娘」


死の風圧を切り裂いて現れたのは、一人の男の影。

グラの知っている誠也ではなく、図体も筋肉質で少しでかい。しかし、初対面という訳ではなかった。


「貴様、何をしに来た……聖典大聖」

「お、やっぱバレてんのか。かぁー、人気者は辛いねぇっ! っと、冗談言ってる場合じゃねぇな。おい、暴食グラよ、単刀直入に言ってやる____________こいつは、参加者じゃねぇ。強欲アワリティアの大罪もフェイカーも間違いだ」

「なにっ……?」


どういうことだ? これほどの実力持ちがフェイカーではないというのか。確かに周囲にオブサーバーの気配はなく、通信を行っている形跡もない。しかし、それなら現状のグラと同じであり、この聖典大聖もそうだ。


「ほぅ、何故気がついたのか聞きたいのじゃが……ま、良い。そこの猿ごと消してやればよいことじゃからな。では、バレたのなら自己紹介____________妾は災害、大罪『強欲アワリティア』の師祖、『剣鬼ハードズ・レイン』……ふむ、やはりカタカナはダサいのぅ。神名『村雨むらさめ』とでも、名乗っておこうかのぉ」


そう名乗った剣鬼はまだ抜いていなかった剣を抜き、一振り……その刹那、鬼神の如く空を切り裂いた斬撃となり聖典大聖の胴体から血が吹き出る。


「あがっ……!」

「聖典大聖っ! っち、空を裂いただけでこの威力だと?! 化け物か……!」

「ふむ、じゃから災害だと言うとろうに。その猿はもう終わりじゃぞ? 我が刀は一刀一死、斬れば殺す刀じゃ。よもや、知らぬ事はなかろう?」

「残念ながら世間制には疎くてな……聖典大聖よ、動けるか?」

「お、おぉ。身体中麻痺してるが、感覚は少しある。もって後、数分ってところだ。お前さんにとっちゃ脱落者が増えて大助かりだろうがよ」


確かに聖典大聖が落ちればグラ達が勝利する確率は段違いに上がるだろう。しかし、この場でそれをしたところで消されるのがオチだ。なら、協力してこの場から立ち去る他ない。


「少しでいい、奴の何か注意を反らす行為をしろ。その隙さえ出来れば私達は逃げられる」

「ほぉ……? 本気か?って突っ込みたいが、それにかけるしかねぇ現状だしな。のったぜ、蛇女っ!」


身体中麻痺してるとは思えないほどの速度で、一気に剣鬼の真後ろを取った聖典大聖が長い棒を振り回し乱打を狙う。しかし、掠り傷一つ負わせることもできず、全てが回避される。更には剣鬼は聖典大聖を見ていない……完全に奇襲を警戒されている。


「どこ見てやがる、獣耳娘っ! てめぇの相手は俺だっ!」

「ふむ……阿呆め。死を急ごうとするとはのぅ」


聖典大聖の怒号で少し注意が反れたが、まだ足りない。

何か決定的な……派手じゃなくてもいい、何か何かあれば。そんな時、聖典大聖が機転をきかせたように如意棒を地面に押し込み、力を解放するように声を上げた。大地が震え、盛り上がり、天変地異の如く岩が反転していく。


「こいつならどうだ、災害様よぉ____________『勇姿と王への試煉ビコウオウ』」

「む……? これは……!」


流石の災害も危険だと察したが、既に遅い。

災害の周囲には無数の刺々しい岩が浮遊し、それが固まりとなって一つの渦となっている。これが聖典大聖が王への試練が形となったもの……大地が滝のようになり、それを乗り越えさせようとする絶対の威圧。回避は不可能だ。


「ほぅ、流石は聖典大聖と呼ばれ神の領域まで達した猿じゃのぉ。天変地異まで引き起こすか」

「くらいなぁぁあっ!!!!!」

「じゃがまぁ……脆すぎるぞ、その試煉ゴミは」


その絶対回避不可の一撃さえも一振り……刀を軽く振っただけで、岩の滝は崩壊し、無に帰す。聖典大聖でさえ予想していなかった出来事に一瞬、硬直を覚えるがそれはすぐに笑みに変わる。


確かに必勝の必殺技は破れた。容易く、脆く、本当にゴミのように散っていった_____________が、今、奴は、一度だけを見た。


「……逃げた、か。ふむ……流石に諸に喰ろうことは避けたかったのじゃが、少々派手すぎたか……いや、それも奴の狙いということか。ククッ、クハハハハッ! 良い! 良いぞ、物語を外れた偽者イレギュラーども! この災害から逃れたのじゃ、それなら____________次も逃げ切るが良いぞ、我ら本物からな」










***









「……あー、なんだ。なんかすまねぇな美少女様」

「……フィアで、いいわ。停戦協定中なのでしょう?」


光を閉ざした空間。巨大な岩の壁が四方形に囲まれた箱のような場所に、誠也とフィアは閉じ込められていた。何故こうなったのかなど一言で説明がつく。


「マスターが私達を閉じ込めた……考えられないことね」

「……本当に口調変わるんだな、お前」

「ふふっ、関係ないこと言う口は燃やしてしまおうかしら?」

「おーこわ、そんな口がきけるなら心配はいらねぇな。んじゃ、この堅すぎる壁をどうするかねぇ」


試しに魔力攻撃をしてみたが、一切びくともしなかった。反響しないことを見て、音も無効にされているようだ。


(マスター、こんな魔術使えたのね……恐らく何かの危険を察知して閉じ込めたのは確かなのだけれども)

「それはないだろ。この箱庭ではオブサーバーが消えれば自動的にフェイカーも敗北になる。つまり、基本的に単独になりたがらないはずだ____________と、答えあってますかね?」


的確な言葉に少し驚いた顔をするフィア。確かにそうだが、フィアはその言葉を口にしたどころか顔にすら出していない。

なのにこの男は心情を読み取ったというのだろうか? 考えても仕方ない。フィアは切り返すように返答した。


「なら、なぜかしら?」

「そっちのことは知らねぇさ。だが、そうだな……俺なら『自分の見られたくないものがでてきた?』とかな」

「…………!」

(さて、グラとの連絡も切れてるし繋がることは無さそうだ……どうするかな。にしても、音だけじゃなく魔力まで無効にするなんて凄いなこの魔術____________ん、魔術?)


自問自答だが、なにかを閃いた誠也が壁に手を当て、魔力を流し始める。やはり無効にされている……流れた魔力が全て空気中に溶けるよう消滅し、意味を成していない。


「なるほど、これ幻術の類いか」

「……どういうことかしら? 私には実体はあるように見えるのだけれども」

「いや、そう思い込んでるだけだ。実際はもっと遠い場所に壁がある……つまり____________ほっ!」


壁を貫かんとする誠也の拳が炸裂し、目の前の壁が壊れる……のではなく歪み、その先の壁が崩れ落ちた。この壁はなんの魔術もかけられてはいない人工的に作られた壁、そして幻術。無効にされていたのではなく当たっていなかったが正しいのだ。


「よかった…マス…ター…?」


やっと解放された世界。

そこで見たのは何故か…見るに耐えなくなった湊の姿であった。



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