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死に神は「美少女」に限る。  作者: 芹澤
第五章 『太陽』を求めて

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ディオンとサン・ローズの香水

「どうされました? 導師」


 馬車の中、フォルトゥナから借りた鏡に映る姿を見て、ボクはため息をついていた。

 クロム・クロナ。儀式の失敗の原因であるこの体にしがみつき、奪うことに成功した肉体。

 改めて見るとなんとダサいことか。


 重たげな黒髪はろくに整えもせずテキトウに伸ばしていて、目は寝不足のように腫れぼったい。体つきは悪くないが、いかんせん関節が固い。


「新しい肉体がご不満なのですね」


「やむを得ないとはいえ、大いに不満だ。おまえもそう思うだろう? フォルトゥナ」


「そうですね。以前は、すれ違った通行人が最低でも三回は振り返るほどの美貌でした。ですがわたくしは、いまのお姿も嫌いではないのです」


「どういう意味だ。この男にどんな魅力があるというんだ」


「敢えて申し上げるとすれば、隙、ですわ。無防備で頼りなくて覇気もない。そういうダメな男に誘われる女もおりますの」


「おまえのように、か?」


「ふふ、だれとは申し上げておりません」


 フォルトゥナはボクの三つ下だ。

 学院にいたころから優秀で、気高く、美しい。ルカ先生も一目置くような存在だった。

 数多の男からの求婚を断り、二十九歳になったいまもまだ独り身を貫いているという。


「まだ処女ということはあるまいな」


 冗談のつもりだったが、フォルトゥナは思わせぶりに笑った。


「確かめてご覧になりますか?」


 と上掛けを脱ぐ。純白の肌がきらめいた。


「この肉体では少々不便だ」


「お任せいたしますわ、すべて」


 と肌をすり寄せてくる。ふわりと香水が漂った。


「……同じ匂いがする」


 ルカ先生がつけていた香水だ。フルーツのように甘く、匂い立つ。

 抱きしめようと力を込めたものの、逆にフォルトゥナは体を引いてしまった。


「百種、です」


「なにがだ」


「自分に見合う香水を探し、百種の香水を試しました。けれど回り回って、どうしてもこの香水に戻ってきてしまうのです。導師が好きで……わたくしも好きな匂いはこれだけです」


 サン・ローズ。太陽の薔薇という名のついた香水は、ルカ先生の人柄そのものだった。


 ルカ先生は『太陽』だ。

 だれにでも優しく、だれにでも暖かい。

 だれにでも。


 車窓に教会が見えてきた。人だかりができている。

 ボクの再来を待ち望んでいた信者たちだ。


 もうすぐ儀式が執り行われる。

 現世で惑う千人の命を一度に絶ち、輪廻転生を行う秘術。


 他者によって命を絶たれた者は、女神によって救われ、よりよい来世へと生まれ変わる。千人を殺め――いや、救った術者は、すでに天国の門をくぐった魂をひとつだけ取り戻せる。


 『千人輪廻回帰術』


 もうすぐ、ルカ先生に会えるのだ。

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