【幕間 ライオンさん食べて】
「サバ? ライオンさん、お願いですから食べてくださいー」
ライラは移動動物園を訪れていた。檻の向こうにいるライオンに必死に手紙を見せる。
昼寝していたライオンはちらっとライラを見たものの、ふたたび目を閉じた。
「困りましたねー。ライオンさんにぜひとも食べていただかないと」
ライラはできる限り腕を伸ばし、ライオンに手紙を近づけた。
「どうしても処分したいんです。食べて消化してください。そうしないと奥様に怒られます」
がんがんと檻を叩く。するとライオンも立ち上がって臨戦態勢に入った。
いまにも飛びかかりそうな剣幕でライラと対峙する。
「こら、なにしてるんだッ」
係員らしき男性が慌てて駆け寄ってくる。
「許してください。上司からの命令なのです、食べてもらうまで帰れないんです」
羽交い絞めにされながらライラは懸命に訴えた。
「ライオンは肉食だし紙なんか食べないよ」
「でもでもー」
と押し問答するライラの背後に、人影が立った。
「ライラちゃん、なにしているの?」
ぱっと振り返ったライラは、そこにもう一頭のライオンの姿を見た。
「エリアーデさん、ライオネルさんッッ」
係員の男性をあっさり払いけてふたりに駆け寄ったライラは、ライオネルの鼻先に手紙を突き出した。
「困っているんです。ライオンさんがどうやったらこの手紙を食べてくれるか一緒に考えてくれませんかー?」
「「――――は?」」
顔を見合わせるふたり。
「……ふぅん、テディがライオンに食べさせろって?」
事情を聞いたエリアーデはピンときたらしい。
場所を移すとライラが持っていた手紙に素早く目を通した。
「Chrome F0QHDKMKW#R……X」
(クロムはわたくしのものです。X『運命の輪』)
その後に、ル・ルーの文字で追記がある。
「Chrome KUTI "XXI" T#E. Chrome 0-B#DW……XⅢ」
(クロムの中に『世界』がいる。クロムを保護して……XⅢ『死に神』)
「本物のライオンに食べさせなくて良かったわね、正解はこっちのライオンみたいよ?」
親指で隣のライオネルを指し示した。ライラはいま気づいたとばかりに手を打つ。
「あ、ライオネルさんがライオンだということをすっかり忘れていましたー」
一方のライオネルはうつむいて不服そうだ。
「ぼくのライオンっぷりを忘れるなんて……。どんなに暑くても臭くても文句云わずにかぶっているのに」
「がんばれ、ライオン。がんばれ、中の人」
エリアーデがてきとうなエールを送る。
「そうです。元気出してください。ライオンさん」
ライラもてきとうなエールを送る。
この数時間後。
事務所に戻ったライラは何者かに気絶させられて宙づり。
クロムの保護に向かったエリアーデとライオネルは、ルフのリターンの力を受けて一時的に精神が幼児化し、その場にいた公安部隊と世にも恐ろしい鬼ごっこを始めることになる。




