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死に神は「美少女」に限る。  作者: 芹澤
第三章 『塔』の葬儀

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犯人は『X』

 帰りの馬車の中は、息が詰まりそうだった。

 事後処理をするというライラさんを残し、ル・ルーさんとエリアーデさんが向かい合って座る。

 必然的にぼくとライオネルさんが膝をつきあわす形になったけど、ライオンの眼は失望をもってぼくを見据えていた。


「なぜすぐ少将を呼ばなかったんですか」


 反論できない。ぼくのせいだ。ぼくがすぐにエリアーデさんを呼ばなかったから。


「よしなさいライオネル。あたしの責任なの。聖堂内に何者かが侵入したらわかるよう術を施してあったけど、相手はそれを易々と突破してしまった。迂闊に場を離れたあたしが悪い」


 かばってくれるエリアーデさんの言葉も、いまは胸に痛い。

 ぼくは弱い。なんの役にも立たない。


 身を小さくするぼくの傍らで、ル・ルーさんがスッと息を吸った。


「ふたりとも勘違いしているわ。クロは鳩の血社のペットよ。そう、ハムスターみたいなもの。吠えることもできないペットになにかを期待するほうがそもそも間違っている」


 ル・ルーさんの言葉に、ショックが倍増。なにもそこまで云わなくても。

 しかしル・ルーさんは構わず続ける。


「わたしたちは時として自分がふつうじゃないことを忘れ、力があることが当たり前だと思い込んでしまう。だからこそ、無知で無力なペットの存在は重要なの。弱いものや、守るものがあるんだってことを思い出させてくれるから」


「「……」」


 エリアーデさんとライオネルさんが顔を見合わせた。

 ぼくは殴られるのを承知でル・ルーさんの取り澄ました横顔をまじまじと見てしまった。


 感激したんだ。軍神と恐れられるエリアーデさんとその副官(たぶん相当な実力をもつ)にとって、民間人(特にぼくのような最弱)の存在は、ともすれば意識の外に置かれがちになるだろう。それをル・ルーさんは指摘した。


「なによ」


 じろりとぼくをにらむル・ルーさん。頬がすこし赤く染まっていて、可愛い。

 どうしてル・ルーさんがぼくを雇い入れてくれたのか、ようやく腑に落ちたような気がする。


「弱いものは弱いなりに反省して行動を慎めって云ってるの。それだけよ」


 ぷい、と顔を背けてしまう。まずい、可愛い。抱きつきたい(殴られるだろうけど)。


「そういえば、テディは棺なんてそっちのけで、真っ先にクロに駆け寄っていたわね」


 にやにやするエリアーデさん。


「うるさいわね。余計なお喋りするくらいなら、この時間を有効に活用したらどうなの?」


「はいはい。じゃあ、屍体を盗んだ犯人の目的を考えましょうか」


 脚を組み直したエリアーデさんは、ぼくにウインクを投げて寄越した。

 大事にされているのね、という意味に受け取れた。


「あたしはね、この事件が偶発的なものだとは思ってない。何者かが計画し、実行したものと思う。だけど、目的がわからない。屍体検分書に署名した医師は信頼のおける人物だから、死んでいたのは間違いない。死者を蘇生させる――なんて不可能よね。だとしたら血を抜いて人為的に後継者を造る……とか?」


「血を抜くためだけに屍体を盗むなんて非合理的よ。その場で盗むほうがリスクは少ない」


「他に考えられるとしたら、屍体を信仰の対象にする、とか」


「その人は知らないでしょうけれど、屍体防腐剤を入手するには、それなりのコネが必要になるのよ。もちろんわたしの知り合いばかり。なにかあれば連絡が来るはず」


「うーん。じゃあ古の方法でミイラにして保管?」


 曖昧な云い方からすると、ふたりとも明確な理由を見つけられないみたいだった。ぼくも専門的なことはわからない。


「そういえば。ぼくが棺に近づいた理由って、楯が落ちたからなんですよ」


 ふと思い出して、口にしてみた。


「風があるわけでもないのに、カタン、って落ちて。それを拾うため近づいたんです。間近で見たルフさんの顔は、とても屍体とは思えませんでした」


 ふたりが息を呑んだのがわかった。


「ライオネル、ルフが死亡する直前に面会に来た人物はいなかったはずよね?」


「報告書には記されていません。しかしながら、ルフがどうやって自害用の短刀を持ち込んだのかは不明です」


 ル・ルーさんが前のめりになる。


「クロと同じように、何者かが見張りに術をかけた可能性があるわね」


「そうねぇ、屍体検分書を書いた医師に近づいて、術で改ざんした可能性も」


「短刀には毒が塗ってあり、仮死状態になっただけかもしれない」


 ふたりの間で、どんどん答えが見つかっていく。

 ぼくは置いてきぼりで、まったくついていけない。


 だけど、考えることを放棄したくない。ぼくのせいなんだから。

 失態を犯した分、ぼくは挽回しようと必死になっていた。自分の中に、犯人の痕跡が残されているかもしれないと思ったのだ。そして気づいた。ぼくの手の甲に刻まれた手掛かりに。


「……すこし思い出しました。ぼくを襲った人、腕に刺青があったんです」


 馬車内の場の空気が緊迫する。三人がぼくに注目している。


「意識を失う直前、自分の手に爪で傷をつけたんです。『X』と」


 その瞬間。ぼくは「よくやった」と褒められると思っていた。

 だけど実際に目にしたのは、怒ったようなル・ルーさんの顔だった。くしゃくしゃに歪んで、いまにも泣きそうだ。


 ぼくは失敗した。云ってはいけないことを云ってしまったのだ。


「……ねぇテディ。懇意の花屋から花が届かなかったのよね? それは偶然だと思う?」


 エリアーデさんは、親しみとは程遠い目つきでル・ルーさんを見た。


「どういう、意味」


 ル・ルーさんの顔つきが険しくなる。


「クロの話を聞いて思ったの。花屋は『塔』の葬儀場所を知っていたのよね。そして花が届かなければ、テディたちが奔走して警備が手薄になることも予想できた。そこへあの襲撃」


「疑っているの?」


「事実を確認したいだけ。花屋が本当に発注していたのか調べたっていいのよ。だけどテディだって引っかかっているんじゃない? あの店……しいては『あの人』が、こんなミスを犯すなんてありえない。信じたくないって」


「――……」


 ル・ルーさんの肩が震える。花屋をかばおうとしているのだ。ぼくの手に重ねられ、揺れる手がそれを証明している。


「教えて、テディ。花屋の名前は」

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