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死に神は「美少女」に限る。  作者: 芹澤
第三章 『塔』の葬儀

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楽園の青(エデン・ブルー)の預言

「民間人を威嚇しただなんて、どうしよう。また減給かな。ね、ライオネル」


 人々が立ち去った後、エリアーデさんはがしがしと髪をかきながらボヤいた。先ほどまでの気迫はどこへやら。オフモードだ。

 訴えるような眼差しを向けられたライオネルさんは、さぁ、と首を傾げる。


「襲撃してきたのはあちら。正当防衛を主張することもできるでしょう。それに、きょうは休日です。少将も、わたしも。だから上へ報告する義務はありません」


 その言葉に、エリアーデさんは手を叩いて喜んだ。


「あー、そうだったわ。きょうはお休みじゃん。公人じゃないんだわ、あー良かった」


「云っておきますが、たとえ休日でも公人の私闘は禁止です。これ以上減給されたら本当に生活できなくなりますよ」


「そうね。美味しいお酒が飲めないのは困る」


「酒樽ごと飲み干す莫迦なんてあなたくらいですよ」


「えー」


 うん、完全にオフモードだ。酔っ払いとしか思えない。


「それで、これからどうなさいますか?」


「いまさら延期なんてできないわ。防腐剤も使っていないし、休みもとれない」


「司祭長の到着も遅れているようです。妨害を受けているのかも」


「あぁもう、こんなはずじゃなかったのに。静かにルフを見送りたかっただけなのに」


 口惜しさをにじませるエリアーデさんは、本心で『塔』を送りたかったようだ。


「ライオネル、ちょっと司祭長を迎えに行きながら地元警察に寄って警備を依頼してきて。あなたの脚なら数分もかからないでしょう」


「承知」


 さすが少将。指示が的確で早い。軽く頭を下げたライオネルさんは瞬く間に走り去った。


「さて、どうしようかな。素直に諦めてくれたならいいんだけど」


 腕を組んで試案するエリアーデさん。ぼくもなにか力になりたい。


「ぼくは? ぼくはなにをしたらいいですか?」


 勇んで詰め寄ったぼく。その瞬間の「え?」という顔を、ぼくは生涯忘れないだろう。


「あー……、そうか、ボーヤはね、うーん」


 戦力に数えられていなかったらしい。当然と云えば当然だけど。


 そのとき、ドン、と音がして窓が揺れた。


「爆弾ッ?」


 体を翻し、エリアーデさんが窓に駆け寄る。真っ白な煙が上がっていた。


「まずい、さっきの騒ぎで仕掛けられたのかも」


 走り出すエリアーデさんを、ぼくも追いかけた。しかしくるりと反転してぼくを見つめる。


「ボーヤはここで待機して」


「でも、ぼくだって」


「悪いけど、いまキミにできることはなにもない。なにも、ね」


 口調は優しいけど、苛立ちと焦りがにじみ出ている。

 だったらぼくはなんのためにここにいるんだ。


「わかりました。……謹んで待機させていただきますッ」


 握りしめていた拳を開き、びしっと敬礼した。

 ここで意地を張ったところで困らせるだけだ。


「ごめんねクロ。なにかあったらすぐに叫んで」


 そう云って、エリアーデさんは窓から飛び出していった。

 残されたぼくは自分の無力さを痛感する。

 鳩の血社の社員だというのに、ぼくはなんの役にも立てない。泣きたくなった。


「ぼくだって本当は……」


 そのときだ、祭壇に安置された棺から楯が落ちた。

 ぼくはすぐに駆け寄り、落下した楯を手に取って棺の上に戻した。

 半分ほど開いた蓋の隙間から、『塔』のアルカナの顔が見えた。


 びっくりした。あどけない顔立ちの子どもだったのだ。

 生まれてこの方、一度も切ったことがないかのように髪は長く、爪先までうねるように伸びている。銀色のきれいな色だ。目蓋を閉じているので瞳の色はわからないけど、整った顔立ちは眠っているみたいに穏やかで、とても自殺した人間とは思えない。


 膝をついてじっと顔を覗き込んでいたぼくは、かすかな靴音で顔を上げた。ぼくの背後に、真っ白なローブで頭から爪先までを覆った人物が佇んでいる。いつの間に。


「ごめんなさい。驚かせたかしら?」


 声は、女性のものだった。ローブの隙間から真っ赤な唇が見える。


「どちらさま、でしょうか?」


 立ち上がろうとした瞬間、女と目が合った。

 吸い込まれそうな青い瞳。『楽園のエデン・ブルー』だ。ル・ルーさんとどちらがキレイだろう。


「司祭長として、憐れな子羊の魂を救うために」


 エリアーデさんが遅れていると云っていた司祭長だという。


「それは失礼しました。いま、人を呼びに」


 唇に乗った言葉は、彼女の人差し指に押さえられる。

 ぞっとするほど冷たい指先に。


「――『預言』します。あなたはここで死ぬのです。自らの首を絞めて」


 『楽園の青』は一瞬にして血走ったような朱い色をたたえた。

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