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死に神は「美少女」に限る。  作者: 芹澤
第二章 鳩の血社での『審判』

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採否結果 謹んで、お断りします

 数日後、ぼくはミリアの埋葬に立ち会った。ル・ルーさんも一緒だ。

 広大な墓地の一角に佇む墓標に、まっしろな薔薇を捧げた。生前のミリアには会ったことがないけど、棺を囲んだ結婚式の写真を見ると、案外お似合いだったかもしれない。


「フェロー家は、爵位こそないものの、国内に多くの不動産を所有する富豪よ。ご両親も若くはないし、そろそろ一人娘のミリアにすべてを相続させようと考えていたところ、不慮の病で命を落としてしまったの」


 ぼくに続いて花を供えたル・ルーさんが裾を揺らして隣に並ぶ。フリルに複雑な模様が描かれた喪服を着ているけど、ちらりと覗く鎖骨との対比が色っぽい。


 フェロー家の内情をぼくに明かすル・ルーさんの意図はわからない。独り言かもしれないと頷いておいた。そういえばまだ合否を聞いていない。結婚式は無事に終わったし、捕まえた男たちを苦情つきで警察に突き出したから百万ペルカの足しになる褒賞金も入っているはずなんだけど。


 夫人のすすり泣く声が響く中、しめやかに埋葬が行われ、参列者がひとりふたりと立ち去る中、ぼくはミリアの両親に呼び止められた。


「先に行っているわ。ごゆっくり」


 ル・ルーさんはぼくを置いて背中を向けてしまう。


「クロムさん、この度はお世話になりました」


 深々と頭を下げる旦那さんの髪には、白いものが交じっている。娘を無事に送り出した安堵と淋しさがない交ぜになったような潤んだ目を、ぼくに向けてくる。


「あなたのことは伺いました。孤児で、いまは養父の元にいらっしゃるのだとか」


「……はぁ」


「年老いた我々にとって、ミリアはたったひとりの娘。先立った娘ときみが結婚式を挙げたのも、女神のご縁かもしれない」


 夫婦は互いに目配せし、意思疎通をはかっている。切り出したのは、旦那さんだった。


「よろしければ、我々の養子に……息子になってもらえないだろうか?」


 突然の申し出に、言葉が出なかった。


「実はそれも含めて、事前に引き合わせていただいたんです」


 夫人も同意するように頷く。


「アルカナの祝福もまだだとか。我々の息子となれば、百万ペルカは用意しましょう」


 信じられない。こんな幸福って、あるんだろうか。

 孤児で、瀕死のぼくが、たった一度の花婿役を引き受けただけで家族も祝福も得られるなんて。そこまで計算していたとしたら、ル・ルーさんは……。


 ル・ルーさんは、ひどい。


「ありがたい申し出ですが、謹んで、お断りします」


 心からの感謝の意を込めて、ふたりに頭を下げた。

 当然受け入れられるものと思っていたらしく、夫婦も戸惑いを隠せない。


 こんなチャンス、もう二度とないってわかっている。

 だけど嘘はつきたくない。ル・ルーさんにお膳立てしてもらった幸運にぶら下がるほど、ぼくは飢えていない。心は死んでない。


 まだ歩ける。自分の足で。ぼくはまだ生きていける。


「では、ぼくはこれで。失礼します」


 いそいそと頭を下げて逃げるようにその場を後にする。

 呆然と立ち尽くすふたりの姿が見えなくなったところで、ようやく息をついた。近くに植えられていた木に寄りかかる。


「いいの、それで」


 寄りかかった木から声が聞こえて、びっくりして体を強張らせた。反対側からル・ルーさんが姿を見せる。

 挑戦的な、それでいて綺麗な瞳がぼくを捉える。


「まだ合否を聞いていませんから」


「……」


「人手が足りないんでしょう。百万ペルカを返済するまでは、ちゃんと働きます。だから、ぼくを鳩の血社へ入れてください」


 ほんの一瞬。ル・ルーさんの瞳が憂いを帯びた。

 たぶん彼女自身は、自分の心の内がこれほどまで瞳に現れているとは思っていないだろう。

 ぎゅっと固く引き結んだ唇ですべてを隠せていると信じているに違いない。

 だからぼくは敢えて指摘しない。


「後悔するかもしれないわよ」


「自分で決めたことですから」


「死にたくなるかもしれないわよ」


「そのときは、だれにも迷惑かけずに死にますから」


「……ばか」


「それは余計な一言だと思います」


 と云い返す間にも、ル・ルーさんはさっさと歩き出している。小さな背中はほとんど揺れない。天使の羽が生えているのかもしれない。

 立ち止まったままのぼくを促すように、ル・ルーさんが振り返った。高慢で威圧的ないつもの眼だ。


「ぼさっとしないで。帰るわよ、新人。まだまだ仕事はいっぱいあるんだから」


「はいッ」


 もしかしたら見つかるかもしれない。ぼくの、帰りたい場所が。

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