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死に神は「美少女」に限る。  作者: 芹澤
第二章 鳩の血社での『審判』

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適性試験⑤ さっさと脱ぐべし

「サバ? おはようございます。棺ベッドの寝心地はいかがでしたか?」


 ライラさんの声で目が覚めたとき、ぼくは棺の中で膝を抱えて丸まっていた。


「あ、れ……屍体は」


 棺から這い出るとき、関節がギシギシと痛んだ。かなり寝相が悪かったらしい。


「ご屍体? ご両親の元にありますよ。ここにはありません」


「は? だって屍体と一緒に過ごすのが適性試験だって」


「Oui !(はい)でも大事なご屍体を、どこの馬の骨ともわからない面接希望者と一緒にはしません。空っぽか、入っていてもレプリカです」


「じゃあ、なんでぼくは棺に入れられたんですか?」


「よく眠れたでしょう? お顔もすっきり」


 エル・トラの悪夢で泣いたのは事実だけど、だからといって棺に入れるなんて。

 優しいんだが優しくないんだか、わかりづらい。


「それで……ぼくは合格したんでしょうか?」


 ぼくは若干の恨みを込めてライラさんを見上げた。


「Non !(いいえ)まだ面接が終わっていません」


 面接? たしかにチラシには書いてあったけど、代表であるル・ルーさんにも会ったし、これ以上だれと話をするというんだ。


「ゆっくりしている時間はありませんよ。さっさと動け、ですー」


 乱暴に手を引かれて地下室を出る。昨日は気づかなかったけど、窓からは広大な庭が見渡せた。ここは墓地かと思うほど、あちこちに十字架が刺さっているおどろおどろしい庭だ。一体だれの趣味だろう。


「はい。こちらですー」


 と案内されたのは、天国の入口を思わせる白塗りの扉の前だった。


「では、ライラは庭の猫たちに餌をあげてまいりますのでー」


「いま? なにもいまじゃなくていいんじゃないですか?」


「ダメです。毎日決まった時間に餌をあげないと、庭を荒らしてしまいますから」


 どんな化け猫だッ。


「せいぜい頑張ってきてくださーい」


 思わせぶりな言葉を残して立ち去ってしまうライラさん。

 ぼくは生唾をごくりと呑みこんで、扉に両手をついた。軽く体重をかけると、驚くほどあっさり開く。


 一瞬、視界がまっしろになった。

 そこは想像したような圧迫面接の場ではなく、広い広い、舞踏会の会場のようなホールだった。金箔が散布された床はピカピカに磨き上げられ、及び腰のぼくの姿を華美に映している。

 壁は落ち着いたクリームベージュで、一枚の壁画のように薔薇の蔦が伸びている。庭に面した窓が開け放たれていて、落ち着いた色合いの青いカーテンが揺れていた。

 その奥にあるバルコニーから声が聞こえてくる。


「まぁ、あのドレスは奥様のお手製でしたの。どうりでピッタリでしたもの」


 楽しげな笑い声。

 天国かと思った。こんなに眩しい空間を、ぼくは知らない。

 バルコニーには、ル・ルーさんと一組の夫婦がテーブルについていた。ふたりの服装は上流階級のそれ。マルティーニ製のティーカップを手に、お茶を愉しんでいたようだ。


「あら。ようやく参りましたわ」


 ル・ルーさんが声をあげる。すると夫婦もぼくを見て、なんだか照れくさそうに笑った。


「紹介します。クロ、こちらへ来てご挨拶なさい」


 手招きされるまま三人に近づく。挨拶と云われても、ぼくにはさっぱりだ。


「え……と、クロム・クロナです。初めまして」


 型通りの挨拶をすると、夫婦は身を乗り出してぼくの顔を覗き込んできた。近くで見ると、目元には隠しようのない暗い影が落ちている。


「いかがですか? 顔は悪くないと思うのです。いささか背は低いですが」


 ル・ルーさんは夫婦になにかの同意を得ようとしている。

 夫婦はぼくの全身を舐めまわすように見たあと、納得したように頷いた。


「お願いします。ミリアもきっと喜ぶでしょう」


 旦那さんの言葉に、奥さんは目元をハンカチでぬぐう。


「ありがとうございます。支度をしてまいりますのでこちらでお待ちください」


 満足そうなル・ルーさんに手を引かれ、ぼくは天国のようなホールを後にした。

 なんなのか、さっぱりだ。


「薬と棺でよく眠れたでしょう。寝不足ではせっかくの式が台無しだものね」


 夫婦に向けた声よりも一トーン低い調子で、ル・ルーさんがぼくに話しかけてくる。


「式って? ぼくは一体なにを」


「立ち止まらないで。時間がないの」


 急かされながら階段をあがる。同じ色形のドアが等間隔で並んでいたが、ル・ルーさんは迷うことなく手前から三番目のドアを開けた。ノックもせずに。


「うぇるかーむ」


 妙に甲高い声がぼくを迎える。姿を見た途端、全身に鳥肌が立った。

 肌がやけに黒い。移民の特徴をそなえたマッチョでスキンヘッドの男が手ぐすね引いて待ち構えていた。


「リリィ、時間がないの。さっさと脱がせて」


 え。いまなんかさらっとすごい言葉吐きませんでした?


「任せて。若い子は久しぶりネ」


「……え、え、えええ」


 ぼくは状況を呑みこめないまま、リリィさんというマッチョに羽交い絞めにされて奥へと連行された。


「三十分後、迎えに来るわ」


 扉は閉められ、退路はふさがれる。


「おーけぃ。さ、脱いで。上から下まで全部脱いで」


 リリィさんはあらぬところに手を入れてくる。


「ちょ、ちょっと待ってください。まだ心の準備が」


「どんとうぉーりー。怖くなーい。怖くなーい。未成年なんて赤ちゃんと同じよ。優しく脱がせてあ・げ・る」


「あ、待って、そこはダメです、ダメですってば。ぼくの股間……いや沽券に」


「怖くなーい怖くなーい」


「いやだぁあああ」


 ……巧みな指遣いに、ぼくはあえなく屈した。十五歳の春でした。

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