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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

東聖紅緑学園シリーズ

苛めっ子が乙女ゲームの世界に転生しちゃった?!

作者: 神通百力

東聖紅緑学園シリーズの六作目になります。

 私は片思いの男子と一緒に一人の少女を苛めた。少女は飛び降り自殺をした。

 ほんの一時とはいえ、片思いの男子の心を奪った報いだと喜んでいたのも束の間、私は裏切られた。その男子は私ではなく、他の女子と付き合い始めたのだ。

 一緒になって少女を苛めていた時間は何だったのかと私は男子を許すことができなかった。

 私は男子を滅多刺しにして病院送りにした。それから間もなくして私は男子の彼女に殺害された。しかし、なぜか乙女ゲームの世界に転生してしまった。

 私が転生した少女は悪凪雛子あくなぎひなこ。大手化粧品メーカーの御令嬢らしく、東聖紅緑学園とうせいこうろくがくえんに通っている。全国からお嬢様やお坊ちゃんが集まっている名門校だ。

 殺害された鬱憤は苛めで晴らすことにしよう。

 私の第二の人生は始まったばかりだ。


 ☆☆


 私はほとんど使われていない一階の女子トイレに霧吹麗華きりふきれいかを連れ出した。

 東雲海斗しののめかいとと仲良さそうにしていたことに心底腹が立ち、苛めることにしたのだ。

 霧吹と東雲は付きあっていると聞いた。私は片思いの男子と付き合えなかったばかりか、裏切られた。そんな私を差し置いて幸せになるなんて許せない。

「私に話って何?」

 霧吹は気持ち悪い笑顔を浮かべていた。どことなく引きつっているように見える。トイレに何かイヤな思い出でもあるのだろうか? 少し息も荒くなっていた。

「……霧吹さんって彼氏がいるのよね?」

 私は冷めた目で霧吹を見つめた。霧吹はビクリとし、視線を逸らした。どうやら私のことを怖がっているようだ。

「……いるけど、それがどうかしたの?」

 戸惑った表情をしながらも、霧吹はそう答えた。

「私は彼氏がいないのよ。なのに霧吹さんは彼氏がいる。なぜなのかしら? どうして私を差し置いて彼氏なんか作るの? 私よりも先に幸せになろうとするの? 許せないわ。私の鬱憤を霧吹さんで晴らしてあげる」

「え? 何を言って……きゃっ」

 私は言葉をさえぎるかのように、霧吹の髪を鷲掴みにした。霧吹が怪訝な表情で腕を凝視していることに気づき、私は慌ててブラウスの袖で腕を隠した。

 私は気を取り直し、個室のドアを開け、霧吹の頭を便器の水に突っ込ませた。霧吹の上に乗っかり、暴れるのを抑え、水を流す。水は勢いよく流れ、霧吹はジタバタと暴れる。床がびしょ濡れになった。

 霧吹の頭を引っ張り、息を整えさせた。息が整ったのを確認し、また便器の水に頭を突っ込ませ、水を流した。それを何度も繰り返した。

 霧吹の制服はびしょびしょになっていた。鼻水も垂れている。

 私は霧吹を個室の外に引きずりだし、バケツとトイレのブラシを用意した。

 霧吹を床に座らせ、トイレのブラシを喉の奥にまで突っ込む。ブラシを奥まで押したり引いたりしていると、霧吹はバケツに嘔吐した。ブラシを奥にまで突っ込み、何度も嘔吐させる。

 吐瀉物がバケツの半分よりも少し少ない程度までたまった。それを霧吹の頭からぶっかける。髪の毛や顔、制服が吐瀉物まみれになった。吐瀉物特有の臭いが辺りに漂う。

 私はトイレの用具室からモップを取り出した。

 茫然自失となっている霧吹を立たせ、モップで尻を思いっきり叩いた。バシバシと何度も叩く。

「い、痛いよ! やめてよ!」

 霧吹は涙目になっていたが、容赦なく尻を叩く。尻を確認してみると、赤く腫れあがっていた。

 私は洗面所に置いておいたカバンからタオルを取り出すと、霧吹を洗面所まで引きずった。蛇口をひねり、髪や顔についた吐瀉物を洗い流す。タオルで丁寧に水気を拭き取り、予備の制服を渡した。

「これに着替えてから帰宅しなさい。それと私に苛められたことを誰かに言ってもいいから」

 私は不思議そうな表情の霧吹を一瞥すると、女子トイレを後にした。


 ☆☆


 私は廊下で東雲に顔面を殴られた。突然だったから踏ん張ることができず、私は尻もちをついてしまった。購買に向かおうとしているところだった。

「……昨日女子トイレで麗華を苛めたんだってね。今朝、麗華から聞いたよ。麗華に謝ってくれ」

 東雲は私をギロリと睨み付けてきた。その目からは私に対する殺意を感じ取れた。東雲はそれほどまでに霧吹のことが好きなのだろうか? 私を殺した彼女もそうだったのだろうか?

「……私よりも先に幸せになろうとする霧吹がいけないのよ」

「悪凪も幸せになればいいじゃないか」

「……無理よ。私は幸せになれないわ」

 私は苛めた少女を自殺させた上に、片思いの男子を滅多刺しにしたんだから。そんな私が幸せになれるわけがない。

「……それに霧吹は私に会いたくないんじゃないかしら? だって私は霧吹を苛めたのよ? 顔を合わせたくないはずだわ」

「……そんなことないよ」

 タイミングを計っていたかのように、霧吹が教室から出てきた。どういうわけか霧吹は心配そうな顔で私のことを見ていた。

 霧吹はゆっくりと私に近づいてくる。東雲は止めようとしていたが、霧吹は手で制した。

 目の前までやってきた霧吹は私の袖を捲った。リストカットの痕が露わになる。

「……内野志歩うちのしほさんだよね?」

「え?」

 私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。この世界での私の名前は悪凪雛子だ。なぜ、霧吹が私の本名を知っているのだろうか? まさか霧吹も私と同じようにこの世界に転生したのか?

「私は水内沙知みずうちさちだよ」

 私が苛めていた少女の名前だった。現実世界でも乙女ゲームの世界でも同じ少女を苛めることになるなんて思わなかった。

 恐らく霧吹はトイレで苛められた際に、リストカットの痕を見て私が内野志歩だと気づいたのだろう。現実世界でもリストカットの痕を見たことがあるはずだ。

「まさかこの世界で志歩さんに会うとは思わなかったよ」

「私もよ。それと今は志歩じゃなく、雛子よ」

「そうだったね。ごめん、雛子さん」

 霧吹は頭を下げて謝ってきた。別に謝る必要はないとは思うものの、私はどうすればいいのか分からなかった。ここは謝った方がいいのだろうか? しかし、謝ったところでどうなる? 私が霧吹を苛めた事実は何も変わらない。霧吹が傷ついたことは確かだ。

 本当に私は嫌な女だ。片思いの男子の心を奪ったやら先に幸せになろうとしたというだけで霧吹を苛めた私は最低だ。霧吹は奪おうと思って奪ったわけじゃないし、私よりも先に幸せになろうとしたわけでもない。結果的にそうなっただけに過ぎない。霧吹は何も悪くないことはわかっているけど、私は苛めずにはいられなかった。

 面と向かって告白しようとしなかった私が悪いことはわかっているが、行き場を失った感情を誰かにぶつけたかった。そのために霧吹を苛めた。

 そんな自分が大嫌いで私はいつもカッターで腕を傷つけていた。この世界に転生してからも、現実世界での日々を思い、カッターで腕を傷つけた。苛める以外に鬱憤を晴らす方法を知らなかったから、この世界でも霧吹を苛めてしまった。

 そんな自分に無性に腹が立って、私はポケットからカッターを取り出し、首にグッと押し付けて手前に引いた。ドクドクと首から血液が流れ出ていくのが感じ取れた。

「な、何をしてるの、雛子さん! 海斗君、すぐに救急車を呼んで!」

「わ、分かったよ」

 東雲が廊下をかけていくのが見えた。

 私なんか死んでしまえばいいんだ。生きてたって仕方がない。私は傷つけることしかできないんだから。

 何で私を乙女ゲームの世界に転生させた? そのまま死なせてくれれば良かったんだ。

 薄れゆく意識の中で霧吹が涙を流しているのが見えた。


 ――私なんかのために泣かないで、霧吹。


 ☆☆

 

 目が覚めると、真っ白な天井が視界に入った。

 ここはどこだろうか? もしや天国だろうか?

 私は体を起こした。

「雛子さん! 目が覚めたんだね」

 私はいきなり力強く抱きしめられた。突然の出来事に戸惑いながらも、相手の顔を確認してみると、霧吹だった。どうやらここは病室のようだった。

 私の首には包帯が巻かれていた。

「……どうして助けたの?」

 私は問わずにはいられなかった。現実世界だけでなく、乙女ゲームの世界でも苛めた私を助ける理由なんかないはずだ。霧吹にとって私は害にしかならない。私なんか生かすより死なせた方が霧吹のためになる。苛められずに済むんだから。

「雛子さんには生きててほしいと思ったからだよ」

 霧吹はそう言って笑った。

 その笑顔に私の心はズキリと傷んだ。でも、私が感じた傷みなんて霧吹が感じた傷みに比べたらちっぽけなものだ。私が霧吹にしたことは謝って済む問題じゃない。そんなことでは私の罪は償えない。

「……ごめんなさい」

 償えないことは分かっているけど、私には謝ることしかできなかった。生き残ってしまったからには一生をかけて罪を償っていくしかない。霧吹を苛めた罪と男子を刺した罪をその身に背負って生きることが私にできる精一杯のことだ。

「ううん、私の方こそごめんなさい。私が男子の心を奪ったせいで、雛子さんに辛い思いをさせた。傷つけてしまった。本当にごめんなさい」

 霧吹は申し訳なさそうな表情で謝ってきた。

 気がつけば私は霧吹をギュッと抱きしめていた。

「霧吹は何も悪い事してないんだから、謝らなくてもいいのよ。悪いのはどう考えたって私なんだから。もう霧吹を苛めたりしないから。ちゃんと罪を償うから」

「罪って大袈裟だな。それにどうやって償うつもりなの?」

「えっと」

 私は霧吹を抱きしめたまま、思考を巡らせた。どうすれば罪を償えるのだろうか? 家事全般を私がすれば少しは償えるだろうか?

「一つ良い案があるよ」

「どんな案なの?」

 私は霧吹の目をじっと見つめた。どんな案であっても、私はそれに従うつもりだ。私に断る権利なんかないんだから。

「私と友達になればいいんだよ。一緒に過ごせば少しは雛子さんの罪が償えると思うんだ」

「私なんかが霧吹の友達になっていいの?」

「麗華って呼んでほしいな。せっかく友達になるんだし、下の名前で呼んでほしい」

「れ、麗華」

 私は喉が渇くのを感じながら、意を決して下の名前で呼んだ。下の名前で呼ぶことがこんなに緊張するものだとは思わなかった。

「これからよろしくね、雛子さん」

「こちらこそよろしく、麗華」

 改まった言い方に私たちは同時に吹き出した。


 ――ありがとう、麗華。

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