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第二部 終章「女神と理と使命」その参





「いまの話で分かるように、あなたはことわりの外の存在なのです。まずはそれをよく理解してください」


 理の外……そんな大袈裟な言われ方をするほど凄い事なんだな。

 つまり父さんと母さんは偶然のスーパーミラクルで俺を爆誕させたってことか。

 凄い事だしありがたいけど、女神様にとっては迷惑でしかない。それは理解できる。とりあえず謝っておこう。


「なんだかその、申し訳ありません、変なことになって」

「あなたに責任はありません。こちらへ来ることも必然だったのでしょう。ただ、この世界に来てしまったことで、女神の私ですら予想できない事態が起こりました」


 ひえぇ~、その先を聞くのが怖いよぉ。


「あなたの超人的な力は理を越えてしまった影響だと考えられます。そしてこちらの世界に来てから更にその力は上がっている。あなたもそれは感じているはずです」

「確かにそれは……」

「その超人的能力は存在そのものを大きくし、より良き未来を変えてしまったのです」

「未来を?」

「女神の私には未来予知という能力があります。しかし未来は確定したものではなく変化を与えれば、良くも悪くも変わるのです」

「えっ、えっ、ちょっと待ってよ、それって本当に俺が勝手にこの世界に来たから未来が変なことになったの」

「来たからではありません。その後のあなたの行動が、私が見ていた幾つものより良き未来を変えたのです」

「お、俺が本当に未来を変えたとして、いったいどうしろと? 何か罰を受ければいいの?」

「そういう事ではありません」

「じゃ、じゃあ……」

「凄惨な未来を見たとしても、女神が下界に降りて直接何かをすることはありません。ただ特定の者に啓示を与え、より良き方向へと導くことはします。だからといって、必ず未来が良き方向へと変わるわけではありません。その可能性があるというだけです」

「あの、ちょっと女神様が何を言いたいのか分からないです」

「話はここからです。あなたにはその存在の力で変えてしまった良き未来を、元の流れに戻す役割を果たしてもらいます」

「元の流れって……戻るんですか?」

「やってみないと分かりません。もしかしたら更に悪くなる可能性もあります」

「……女神様の言い方だと、強制的に参加決定みたいな感じですけど、結局のとこ、これって勝手に来た罰ですよね」

「この女神の啓示は、あなたがなすべき使命なのです。そして断ることはできません。何故ならこの使命が、あなたが世界に留まることを許可する条件だからです」

「そうきましたか。そりゃ断れませんよね」

「あなたは罰と言いましたがそうではありません。私は結果に応じた対価を与えるつもりです」

「仕事と思えって事ですか?」

「そうです。あと誤解しているようですが、絶対に成功させろと言っているのではありません。どうにもならないこともあります。悲劇もまた未来の一つであり、時にはなくてはなりません」

「具体的にどう未来が変わって、俺は何をすればいいんですか?」

「幾つかあるのですが……」


 既により良き未来を幾つも改変しているとは、自分が恐ろしい。そしてそのせいで被害にあっている人たちごめんなさい。


「まずは今いる大陸の西側の情勢について話しましょう」


 西の方か、そういえばあまり知らないな。土地が豊かで色々な国があるんだよな。でも確か戦争状態だと聞いている。


「西側には二つの大国と七つの中小国が存在しています。しかし大国の一つが本格的に大陸統一を目指し戦争を始めました」


 女神の話では、前もって侵略の準備をしていた大国の勢いは凄まじく、隙を突かれた中小国の三つが既に落ちたらしい。

 ただ戦争が問題ではない。そんな事はどの大陸でも当たり前に起きていて、女神が深く干渉することはない。

 大問題は戦争を起こした大国の王家の人間性だ。とにかく人間至上主義が強く、更に王家の自分たちは特別な存在だとしている。

 人であっても逆らう者は全てその家族まで殺されてしまう。絶対的な暴力と恐怖で国を支配している極悪な一族だ。

 しかしそこまでなら人間の世界ではよくある事らしく、わざわざ女神も動かない。身分が低いとされる他種族への冷酷で無慈悲な虐殺が問題とのこと。


 獣人、半獣人、エルフ、ドワーフなど、様々な種族が西側では数を減らしている。捕まって奴隷として働かされるとかじゃなく、ただ無意味に殺される。しかもそれが普通の事のようにだ。それは王家の影響で負のオーラが急激に増悪しているのが原因らしい。本当にいま西側はカオスな状態だ。


 でも女神の見ていた良き未来では、その大国と王家を打倒する英雄が現れる。更にその後は素晴らしい王にもなる。はずだったんだけど、どうやら俺が邪魔をしたみたいだ。

 マジかよ俺、普通に最悪な奴じゃん。しかも本人が知らない間にとかタチ悪い。もうこの先の話は聞きたくない。


「俺は何をして、どんな風に英雄誕生の邪魔をしたんですか?」

「その者はとある国の王子なのですが、王家打倒のために仲間を集める旅に出ます」


 うほっ、マンガやゲームの王道パターン。


「旅の中で王子は修行して強くなり、最強の剣を手に入れるはずでした」

「さ、最強の剣ってまさか、ア、アイリスの事なんじゃ」

「そうです。本当ならば王子があのダンジョンで冒険し、最後に賢者の残した最強の剣を手に入れるはずでした」


 チートの聖剣スキルを持った魔改造戦士のアイリスが仲間なら、確かに大国相手でも勝てる。


「それだけではなく、その後には黄金のエリクサーも王子が手に入れ、二つ名の冒険者ケイティとも出会います」

「ケイティとも……」

「あなたと同じように、王子は死んだケイティを若返らせて蘇生し、王家打倒の仲間とします。ケイティは知略にも優れており参謀として活躍するはずでした」

「もう聞きたくねぇ~、俺とことんやらかしてるじゃん。嫌な予感はずっとしてたけども、空気読めないにも程がある」

「更にあなたが砂漠で出会った犬系半獣人の女盗賊も、王子が出会うはずでした」

「スカーレットまで⁉」

「あの者もまた選ばれし特別な存在なのです」

「特別……スカーレットが」

「始祖の血を強く受け継ぎ、覚醒して頼もしい仲間になるはずでした」

「えっ、始祖……それは犬系半獣人の始祖ということですか?」

「そうです」

「……まさかスカーレットがそんな凄い子だったとは。覚醒したらチート級になるってことか」

「あの者が覚醒するかはもう分かりません。未来が変わってしまいましたから。そもそも覚醒とは簡単な事ではないのです」

「そうなんですね」


 覚醒するしない、本人のためにはどっちがいいんだろ。まあなるようにしかならないし、流れに任せよう。


「今あなたの家に居る謎の生命体、マンドラゴラも特別な存在であり、役割を持っています」

「えぇ~、セバスチャンもなのぉ」

「偶然に生み出されたものですが、いずれ必然となる時がくるかもしれません」


 うわぁ~、面倒臭そう。マジ必然となる未来なくていいだろ。


「あっ⁉ ってことは、我が家の猫も特別な……」

「…………」

「あの、女神様……猫の方も」

「……なにもありません」

「ですよねーーーー‼」


 皆が皆特別なわけないですよね。ちょっと安心しましたよ。


「ただあの者は、他者の運命を変えてしまう不思議な運の力を持っています」

「それ、凄く分かるかも」


 それにしてもさぁ、俺が出会って大丈夫なのクリスだけかよ。まあ普通に考えて戦いの役には立たないからな。

 俺は何も知らずに調子乗って、王子からトンでもないもの取り上げてしまった。そりゃ未来も悪い方向へ変わるよ。


「え~っと、女神様、流れを戻すために俺は何をすればいいんですか、教えてください」


 まさか自分の行動のせいでここまで未来が変わっていたとは。使命とか関係なく流石に放置はできないだろ。


「あなたの役目は、自然な流れで王子の仲間となり、王家打倒へ導くことです」

「俺が仲間に……」

「ただあなたは理の外の存在であり、その力は特別なもの。使えば使うほど、何が起こるか分かりません。故に陰ながら王子を助けてください」


 極力バトルに参加せず超人パワーは使うなって事か。戦争やってるのに難しいな。


「あの、女神様、アイリスとか連れて行ってもいいんですか? 俺より強いですけど」

「今はなにも言えません。それがどう未来を動かすか見えてませんから」

「そうですか……じゃあこの夢が終わったら、俺はどこかに行ってその王子と会うんですね」

「実はまだその時ではありません。あなたに動いてもらうのは、少しばかり先のことです」

「そんな悠長なこと言ってていいんですか。今も戦争が続いているのに」

「人間同士の戦争の事は、あなたが気にする必要はありません。それにいまあなたは動けないのです。既に別の大きな流れの中にいるからです」

「それって、いままさに俺が、別の明るい未来をぶっ壊してるってことなんですか?」

「いえ、悪い方向へと変わってしまった未来を、より良き方へと導くために、偶然にも動き出しているのです」

「よく分からないけど、俺はどうすれば……」

「今は流れのままに動いてください。街に帰り普通に生活していれば、未来は動き始めます。あまり未来を知りすぎるのは良くないので、これ以上は話しませんが、あなたは遥か北の大地へ行くことになります」


 北か……ケイティが帰った方だな。何か関係があるのかな。


「その時が来たら、またこんな風に女神様が現れるのかな」

「そういう場合もありますが、私の存在は気にせず、思うがまま自由に動いてください」

「分かりました、そうします」


 別の流れ……俺ってこの短期間でいったい幾つ良い未来を改変してしまったんだろ。考えれば考えるほどスゲー憂鬱な気分になる。


「あの、女神様、今回の事って種族に地位とかあるから問題が起こったんですよね。この世界の身分制度みたいなものはなくせないのかな。なくてもいい気がするけど」

「私が作ったものではありませんよ」

「女神様なら今からでも、差別を生み出す身分せ」

「あなたの言いたい事は分かります」


 偉そうなことを言い切る前に女神様にカットインされてしまった。


「人間の身分が上位すぎることが不満なのでしょうが、遥か昔はドラゴンがこの世界を支配する上位種の時もあれば、いま人間の奴隷となっているエルフや獣人などが支配している時もありました。その時代では人間が奴隷だったのです。今はたまたま人間が上位種というだけで、また時が流れれば様々な革命が起きて身分は変化していきます。世界とはそういうものです。不変ではなく変わり続けます。そしてあなたが言う上位種族という概念がない時代もありました。それら全ては流れの中で構築されたものなのです。故に必要なくなれば自然と淘汰されるでしょう」

「女神の力でどうこうするものじゃない、って言いたいんですか?」

「この先の答えはあなたに任せます」


 なんだか恥ずかしくなってきた。女神様相手に何を青臭いこと言ってんだよ俺は、バカすぎる。


「いまあなたが言った事は戦いの理由の一つにすぎません。この戦いを起こした者には、表沙汰にはしていない大きな目的があるのです」

「戦争の真の目的って何ですか?」

「流れに乗れば、いずれ分かるはずです」


 あまり未来を知り過ぎるなってことだな。知っているとそれに固執して空回りの原因になるかもしれない。


「あと話しておきますが、理の外の存在が更に二人います」

「えっ⁉ まだ二人もですか⁉」

「二人もです」

「それは……女神様も大変ですね」

「その二人はあなたと違いこの世界の住人です。本当に稀にですがそういう存在が生まれます。そして初めから世界の一部なので、よほどのことがない限り干渉しません」

「どんな奴らですか、その困ったちゃんは」

「一人は暗黒大陸タルタロスに居る不動の魔王、もう一人はあなたもよく知る者、エルフのアンジェリカです」

「うわぁ~、それもう笑えないっす」


 アンジェリカ様こんなところにまで出てきちゃったよ。流石超一流の暴君ストーカーだ。

 しかしあの異常な存在感を考えれば納得ですな。





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