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第二部 三章「黄金のエリクサー」その五




 アイリスを先頭にその場から北に歩くこと十五分、あまり建物の跡がない場所に辿り着く。

 そこには一本だけ不自然に、何に使われていたのか分からない太く大きな柱がある。上部は折れている状態だが高さは五メートル程、直径は一メートルはあった。


「アイリス、この柱が怪しいってこと?」

「はい、主様」

「この場に結界魔法で隠されたアジトがあるとしたら、柱を使って何かをする手順で突破できるわけだな。じゃあ色々やってみようか」

「はいにゃー。謎解きはクリスチーナにお任せなのにゃ」

「黙れバカ猫。お前ができるのはトラップを発動させることだけだろ」

「にゃん⁉」


 出たよツッコまれた時のトボケ顔。てか顔芸やめろ、吹き出しそうになっただろ。

 で、この後は柱を右回り左回りとグルグル回ったり、スイッチがないか探した。


「思いつくことやってみたけど反応ないな。複雑な手順なのかなぁ」


 無理ゲー臭してきたんですけど。

 色々やって分からないし、クリスのド天然スキルに頼ってみるか。マリウスの斜め上を行くパワーがあるからな、我が家の猫のドジっ子ミラクルは。

 実際に重要なとこすっ飛ばして最強の剣のイベント発見しちゃったし。


「クリスさん、ちょっとこの柱、というかその周りで遊んでみなさい」

「はいにゃー、お任せなのにゃ」

「スカーレット、アイリス、よく観察していろよ、何が起こるか分からないからな」

「御意」

「はい」

「にゃは、クリスチーナは柱よりこの石が気になるのにゃ」


 クリスは柱の周りに落ちている石を拾い集め、何やら楽しそうに重ねて遊び始めた。これはロックバランシングってやつかな。


「石……」


 よく見たら鏡餅のように重ねられそうなつるつるした石が幾つも落ちている。これに意味があったりして。


「ご主人様、見てほしいのにゃ、こんなにいっぱい積めたのにゃ」


 クリスはあっという間に様々な形と大きさの石を十段まで積み重ねた。


「ははっ、普通に凄いぞそれ。クリスは意外と集中力あるんだな」


 まさかの天才アーティスト級。まあ金にならないけどね。


「にゃは、ご主人様に褒められたのにゃ。嬉しいにゃ」

「そんなものたまたま上手くいっただけだ。調子に乗るなバカ猫」


 スカーレットはそう言いながら地団駄を踏む。するとその衝撃で高く積まれた石が崩れる。


「にゃっ⁉ スカーレットちゃん酷いのにゃ」


 だが崩れ落ちた時に、気になったつるつるした石が二つ、本当に鏡餅のように奇跡的に重なった。


「……おい、そっちにもう一つ同じ形だけどサイズが小さいのあるだろ、ちょっと乗せてみ」

「はいにゃ。乗せましたのにゃ」


 う~ん、これはもう日本人の俺には三段重ねの鏡餅にしか見えない。

 サイズ違いの同じ形の石が三つあるってだけで怪しい。これが手順なんじゃないの。


「何か柱に変化ないか?」

「はいにゃ。調べてみるのにゃ」


 クリスが柱を触ったと思った時、その手の部分だけが柱の中に消えた。


「にゃっ、にゃにゃっ⁉」

「やったね。指定の石を三つ重ねることが手順、鍵代わりだったんだ」

「ということは、柱の中に結界で隠されたアジトがあるんですね。よしバカ猫、安全かどうか先行して見てこい」


 スカーレットは素早くクリスの背後に移動し、両手で強く背中を押し容赦なく柱の中へと押し込んだ。

 ははっ、それにしてもやってくれるぜ我が家の犬猫コンビは。ミラクル起こしちゃったよ。

 しっかし簡単だな。でも単純だからこそ、今まで誰も気づかなかったんだろう。


「ご主人様、中は大丈夫なのにゃ。小さな家があるにゃ」


 クリスが柱の中から顔だけ出して言った。原木シイタケのように柱から顔が生えている感じで面白い光景だ。

 そして柱の中を通り抜け、特殊な結界魔法の空間の中に入った。眼前に広がる光景は先程までと同じだが、クリスの言うようにそこには山小屋風の木造平屋建ての家があった。

 当然だが人の気配はしないし誰も居ない。扉に鍵はかかっておらず番人的なモンスターやゴーレムもなく普通に入れた。

 それから四人で家の中を捜索したが、黄金のエリクサーどころか武器やアイテムすらない。何かを研究していたような感じもなく、今のところただの家だ。

 伝説の賢者のアジトだし本命以外も期待してたしあるはずなんだけど、リビングっぽい場所のテーブルや棚に、様々な動物や昆虫、魚の置物と天秤ばかりがあるだけだ。

 銀色の天秤は高さ五十センチ程で、かなり大きく思える。無数にある置物は手の平に乗るサイズの木彫りでクオリティは高い。ちゃんと色までついている。


あるじ様、この天秤なのですが、仕掛けがあるような気がします」

「やっぱそうか。着替えや生活雑貨すらない中で、こんなのだけ意味なく置いてあるのはどう見ても怪しいよな」


 でもさっき調べてみたけど、普通の天秤と置物なんだよなぁ。

 ただ一つ気になるのは、天秤の片方の皿にだけ置物の熊が乗せられていることだ。


「賢者様と勇者様が以前、天秤ばかりを使った仕掛の話をしていたのを覚えています」

「そっか。なら間違いなく仕掛けがありそう」


 そのお調子者コンビのアイデアか。面倒臭いものでないことを願う。


「既に熊が乗っているので、何かを載せて均等にしろ、ということでしょうか」


 スカーレットが天秤ばかりの皿に乗っている熊に顔を近付けて言った。そしてまさに犬のようにクンクンと熊の匂いを嗅いでいた。


「そうだな、まずは均等にしてみよう。でも動物・昆虫・魚、色々あるし何を使うかが重要なのかも」


 とりあえず難しく考えない方がいいかも。基本的に謎解きって法則さえわかれば単純なものだし。

 それから様々なパターンを試してみるが、なかなか均等にならない。更に一個で均等にするんじゃなく、小さいものを複数乗せるパターンも試してみるが駄目だった。

 意外と難しい。やっぱ法則を見つけ出さないと無理そうだ。てか父さんがアイデアを出している事にヒントがあるかも。

 若い頃で大学生だったんだよな。今より3倍増しでお調子者だったろうし、難しいことを考えるわけがない。酒でも飲みながら適当に思いついたことを言ってただけのはずだ。そう、物凄くシンプルにバカバカしく考えてみればいいんだよ。

 そういえば、この木彫りの熊って北海道土産の有名なやつに似てる。我が家の応接間にも祖父の代からのがあった。

 でも天秤皿に乗ってる熊は鈴木家のとは違い、鮭を銜えてないバージョンだ。


「鮭……鮭ねぇ……」


 ガチャで出てくる生物フィギュアのような置物を、なんとなく見渡す。


「ってこれじゃね⁉」

「にゃっ、ご主人様が何か閃いたのにゃ」


 棚やテーブルに無造作に置かれている置物の中に鮭がいる。更に他のは一種一個なのに鮭だけが何個もある。たぶんこの鮭を使って均等にするんだ。鮭は全部で十個あり、それぞれ大きさが違い何パターンも試すことができる。

 で、お調子者の酔っ払い二人が作ったであろうこのレトロゲームを楽しむこと五分ほどで、運よく本当に熊と鮭五匹が均等になった。


「やったのにゃ、ご主人様は天才なのにゃ」

「流石でございますご主人」


 二人がテンション高く言った時、天秤ばかりがピカッと光り、後方の壁からガコンと仕掛けが動く音がする。


「ははっ、キタよこの音」


 音がした壁の一部がスライドし、隠し金庫のような縦三十センチ程の扉が現れた。


「どうやらこの中に黄金のエリクサーがあるみたいだな」


 ざまぁみろマリウス、やってやったぜ。

 扉には鍵がかかっておらず、ドキドキしながら開けた。


「んっ⁉ お宝が……ない……」


 なんだよっ‼ 黄金のエリクサーないじゃん。どうなってんだよマリウスさんよぉ‼


「なんにもないのにゃ」

「ご主人、何か紙のようなものが入っていますが」

「あぁ、入ってるな。手紙か何か」


 マジで紙があるだけなんですけど。

 それはA4用紙を二つ折りにしたものなんだが、まさかの地図とかで、謎解きの本番はここからだ、みたいなノリはやめてくれよ。

 恐る恐る紙を手に取りゆっくり開けた。そこには大きく『ハズレ』と書いてある。


「ってコラクソ賢者、面白くねぇんだよ‼」


 その紙を丸めて床に叩きつけた。

 なにがハズレだコノヤロー‼ ベタなボケのために仕掛け作ってんじゃねぇよ。どんだけ暇だったんだ。まんまとハメられたよ‼


「申し訳ありません、主様」

「いやいや、アイリスが謝ることなんてなにもないからね」

「にゃにゃっ⁉ ご主人様、外に魔法陣が現れてますにゃ」

「マジで⁉ あっ、ホンとだ」


 ですよねぇー。伝説の賢者のアジトですから、流石にハズレで終わりはないよね。あぁ~良かった。

 てかハズレで一度気持ちが切れてるから、なんだかもう面倒だな。ここのとこずっとマリウスに弄ばれてる気がする。

 まさか向こうも自分が仕掛けたイベントに挑戦しているのが、一緒に戦ってた勇者の子供とは思わないだろうな。

 とりあえず放置はできないので家から出て現れた魔法陣を確認する。


「主様、これは召喚の魔法陣です」

「かなり大きめだよな。巨大なものが召喚されるのかな、っていうかさっそくきた⁉」


 魔法陣は強く輝き光の柱を上げる。


「デ、デカっ⁉」


 召喚されたのは大型バスぐらいある熊型のゴーレムだ。天秤ばかりの皿に乗ってた熊の置物に似てやがる。

 ゴツゴツしていて硬そうなボディは漆黒で、瞳は暴走状態のように赤く光っている。額には魔力アップの赤くてドデカい魔石が付いていた。


「こりゃ強そうだ」

「主様、戦闘はお任せください」

「そだね。そうするよ」


 クリスと違いなんとも頼りになる、お任せ、ですなぁ。勿論お任せしますとも。


「主様、建物には防御結界が張られているので、戦闘に巻き込まれることはありません」

「えっ、あぁそうなの。じゃあ下がって見てるよ」

「アイリスちゃん頑張るのにゃ。クリスチーナは全力で応援するにゃ」

「大丈夫とは思うが、怪我はしないように」


 スカーレットはそっぽを向いていたが、一応はエールを送った。


「はい。最善を尽くします」


 アイリスの邪魔にならないように犬猫を連れて家の側まで移動し、戦いを見守る。

 熊ゴーレムはただデカくて迫力あるだけじゃない。魔人族並の凄い魔力をしている。

 もしかして召喚勇者とかがちゃんとパーティーで戦う相手かも。まあアイリスにとってはザコかもしれないけど。

 マリウスもここで仕掛けたゴーレムと石になってるはずの最強の剣が戦うなんて、夢にも思わないだろう。


 アイリスは透かさず封印石のペンダントの中から剣を出し装備した。だが今回もまたフル装備ではない。

 戦闘経験値が高いからぱっと見で相手の強さが分かるんだろうけど、黒炎竜とかいうドラゴンより数段強いはずなのに、まだ本気を出すまでもないとはな。流石ですアイリスさん。

 この時ゴーレムは仕掛けていた。自分を中心に足元の地面に大きな魔法陣を作り出す。


「あれって召喚の魔法陣だよな」


 マジかよ、ゴーレムのくせに召喚魔法使えるとか超ハイスペックすぎだろ。いったい何が出てくるんだよ、ワクワクすっぞ。

 魔法陣は光の柱を上げ瞬時にクリーチャーを十体召喚した。それらは空中に浮いている。


「っていうか鮭かよっ⁉ 鮭なのかよっ⁉」


 思わず二回も言っちまった。何故に召喚獣的なものが鮭だよ。

 恐らくゴーレムだろう色付きの鮭クリーチャーはアイリスより大きく二メートル以上はある。プールで子供が乗って遊ぶシャチ型フロートぐらいか。

 てかミサイルなのか、それとも自由自在に飛びまくって口からビーム攻撃するの? どっちにしても超怖いんですけど。

 マリウスさんよぉ、もう一度言うけど何故に熊と鮭なんだよ。デザイン遊びすぎだろ。もしかして我が家のバカ勇者のアイデアなんじゃねぇの。

 とか色々ツッコんでたらもうバトルが始まっていた。

 熊ゴーレムが瞬時に魔力を高め凄まじい雄叫びを発する。周りの空間がビリビリと震えるほどの威嚇だが、アイリスは微動だにしない。しかし鮭たちは雄叫びに反応し、憤怒したようにその体を真っ赤に染め更に全身から激しい炎を放出させる。

 ってなんだコレぇぇぇっ⁉ 焼き鮭になったんですけどぉっ⁉


「うおっ、いきなり二発も発射された」


 アイリスをロックオンした炎を纏う焼き鮭は、まさにミサイルの如く突撃した。

 ちょっと見た目がヤバすぎるって。ファンキー通り越してクレイジーですよ。普通にファイアーボールでよかったろ。

 猛然と迫る焼き鮭ミサイルに対し、アイリスは瞬間的に魔力を高め剣を二度振り抜く。剣からは魔力の塊であり三日月形に光る斬撃が飛び出す。

 あの斬撃はレオンの魔剣で俺がやったのと同じ技だと思う。攻撃魔法みたいな感じだからマジで便利なんだよな。

 繰り出された斬撃は炎を纏う鮭と激突すると大爆発する。ファイアーボールなどとはレベル違いの威力で、凄まじい爆風と炎が辺りに広がる。

 俺たちは防御結界が張ってある建物の側にいるからノーダメージだが、近くにいたらヤバかった。

 アイリスは既にその場にはおらず、爆風を回避するために閃光の如く動き熊ゴーレムの後方へと回り込んでいた。

 流石に速い。いつの間にって感じだよ。はっきりいってアイリスの動きが見えなかった。

 だが熊ゴーレムは見えていたようで、大型バス並みの巨体のわりに素早く動き、向きを変えると同時に体と後ろ足を伸ばし立ち上がる。


「いやいやいや、デカすぎ。ガンダム立像かっての」


 でも立ち上がると透かさず前に倒れこみ、大きく鋭い爪の生えた右手をゴキブリでも叩き潰すようにアイリス目掛けて繰り出す。

 その熊手が地面に叩きつけられた瞬間、漫画の効果音の文字が見えそうなほど凄まじい打撃音が轟き、地震のように地面がグラグラと揺れた。

 俺たちの位置からは熊の巨体が邪魔してアイリスが回避したかは分からないが、直撃してたら大ダメージは間違いない。

 普通ならその一撃で地面が陥没したりするが、この場は特殊な魔法結界内の空間なので、破壊されたりはしないようだ。

 アイリスの姿はまだ確認できないが、熊ゴーレムが空を見上げたので俺たちも釣られて上を見る。

 すると上空三十メートル程の位置にアイリスが浮いていた。

 ここでまた熊ゴーレムが雄叫びを上げる。そして一気に勝負を決めるためか残る八匹の焼き鮭ミサイルを全て発射する。しかも今回は一味違う。真っすぐに向かっていく鮭もいれば、野球の変化球みたいにカーブやシュートの軌道で向かっていく鮭がいた。まさに縦横無尽に動き回る追尾式ミサイルだ。これは厄介すぎる。

 だがアイリスは余裕の、というか相変わらずの無表情で、蝶の如く舞い踊るように回避し、光る斬撃を連続で簡単に作り出し、鮭を次々に爆発させていく。


 攻める紅の焼き鮭、それをクールに撃ち落とす小さなロリっ子戦士。

 う~ん、シュールですなぁ。

 アイリスが何パーセントの力で戦っているのか不明だが、あっという間に斬撃を直撃させて鮭を全部倒した。しかし熊ゴーレムは怯んでいない。次の攻撃に転じていた。魔力を高め口を大きく開くと、上空のアイリス目掛け大きな炎の玉をマシンガンの如く連続して吐き出す。

 連射なので正確に分からないが、十数発の炎の玉が容赦なくアイリスに襲い掛かる。

 アイリスは回避せずにその場で剣を数回振り、巨大な光の斬撃を連続で繰り出す。

 炎の玉は次々に斬撃と激突し、とんでもない大爆発を起こす。

 アイリスは透かさず移動し爆風を回避する。だがその動きに合わせるように熊ゴーレムはまた炎の玉を連射した。

 当然アイリスも斬撃で応戦し、まったく同じ光景が作り出される。更にその流れをもう一度繰り返した時、熊ゴーレムと俺たちはアイリスの姿を見失った。




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