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第二部 三章「黄金のエリクサー」その壱




 前回の冒険合宿でクリスの天然スキルが発動し、偶然発見した超レアな秘密のダンジョンで伝説の賢者の試練をクリアした、俺こと鈴木秋斗は新しい仲間を手に入れた。

 勇者と共に魔王を討伐したドワーフの戦士で、アイリスと名前を付けた。年齢は不詳だが見た目は可愛い女の子で、少し大人しい感じで声が小さい。だが内気ではなく、一緒に居ると仕える事、つまり自分の仕事に対しては積極的だ。

 前に賢者に仕えていた時に、お風呂でご奉仕するのが仕事だったので、俺にも同じようにしようとする。

 まあご奉仕といってもエッチなことではない。ただ主人の体を洗ったりすることのようだ。でも話を聞いていると、裸でご奉仕していたんだと。風呂だし当然といえば当然だが、こっちの世界の人間は人外奴隷を性の対象として見ていないから成立するんだろうな。俺は意識してしまって全然ダメだ。我慢する自信がない。

 ということで、アイリスのご奉仕は今のところ断っている。アイリスが一緒にお風呂に入ろうとした時、スカーレットの慌てぶりは面白かった。


 しかし意のままにできる美少女三人と一緒に住んでいるのに、初めては人間の女の子がいい、とか言って逃げて何もできないヘタレっぷりは自分で情けなくなる。

 だが一人に手を出してしまったら収拾がつかなくなりそうで怖い。だって今や三人もいるんだもん。家の中がドロドロの昼ドラカオスになりそう。考えただけで恐ろしい。虚ろな目で空鍋を回されるぐらいならまだいいけど、首切られて鞄に入れて運ばれる最悪のパターンもあるからな、やはり気を付けないと。

 まだまだこの生殺し状態は続きそうだ。とかバカなこと考えてないで、今は金があることだし、さっさと風俗行って欲求不満を解消してこいって話だよな。


 因みにアイリスの装備は最終決戦レベルだが、お金は少ししかもっていなかった。てか賢者コノヤロー、あんな大掛かりなダンジョンや仕掛けを造る金があるなら、もっと大金持たせとけ。

 ただ服とか靴は新しく買う必要がないほど、封印石で作られた魔法のペンダント収納に入っていた。


 そして部屋割りもまた問題が発生した。

 アイリスは俺と同じ部屋で寝起きして、着替えの手伝いから何から何までやると言ったからだ。

 賢者に仕えていた時はそうしていたらしい。本当に賢者は奴隷と戦士として、アイリスをこき使っていたようだ。こっちの世界ではそれが普通だから、奴隷側も可哀想でもないし不道徳とか悪行ではない。

 それでスカーレットが憤慨して当然だが却下された。この時、アイリスは相変わらず無表情で淡々としていた。

 アイリスは普段から口数も少なく無表情だけど、褒められるとはにかんだりする姿が凄く可愛い。

 結局アイリスの部屋はスカーレットの横に決まった。その夜に分かったことだが、アイリスは寝る時は水玉のピンクパジャマを着ている。それがまた似合っていて萌カワなんだよな。

 クリスとスカーレットは家のベッドで寝る時は、ムチムチのエロボディを隠すことなく全裸だった。

 この違いは半獣人とドワーフだからだろうか。半獣人は安心できる場所ではみんな全裸が普通なのかも。我が家の二人以外も、普段着からして露出度が高いからな。


 後は謎の生物のセバスチャンのことだが、普通のマンドラゴラじゃなく魔道士だった研究者のロイが造ったモンスターに近い存在だから、本物の戦士のアイリスがどう反応するか心配だった。

 でもアイリスはそれほど関心を示さず普通にしていて、俺の取り越し苦労に終わった。てかどんだけ興味ないんだよって思ったけど、アイリスは大冒険を経験していて様々なものを見てきているから、少々の事では動じないのかもしれない。

 なのでセバスチャンが作った分身体のようなコセバス達とも、アイリスは問題を起こすことなく上手くやっている。というより、あまり興味が無いようだった。


 で、今日は午後から一人で街の中心部に出掛け、情報屋のサクラと会っている。サクラはドワーフなのでいつも通りグレーのフード付きマントで身を隠していた。

 俺の服装は、袖が黄色の白いラグランTシャツ、黒のカーゴパンツ、スニーカー、ダークグレーのハーフマントを纏い、後はウエストポーチ型の魔法の道具袋とダガーナイフを腰に装備している。


「既に皆が知っている事ですが、アキトの旦那が街を離れている間に、金色の破壊神が近くの森で魔人族と戦うという事件がありました」

「そりゃ大事件だな……」


 もう聞きたくないんですけど。その先は嫌な情報しかないと思うから。


「結果はまあ、魔人の方が倒されたみたいです」

「だろうな」


 まったくどこのバカだ、あの化け物に喧嘩売るとか自殺行為だろ。それに周りの迷惑も考えろっての。あの暴君エルフは戦いに巻き込まれた人の事なんて気にもしないんだからな。


「その様子を偶然見ていた冒険者の話では、二人とも誰かを探していたようです」

「へぇ~、そうなんだ……」


 その冒険者よく生きて帰ってこれたな、凄く強運の持ち主だ。っていうかアンジェリカが探しているのはやっぱ俺かな。

 もういい加減にしてほしいよ。どこまでストーカーやるつもりだ。そんなに仲間に入りたいのかよ。まあ普通にお断りしますけどね。ただそうなったらフルボッコにされるだろうけど。

 だから全力で逃げる‼ その結果、多くの人に迷惑をかけるかもしれないが、俺は逃げる‼ だって普通に怖いから。

 チート超人が本気でビビるほど、アンジェリカの強さと自分勝手さは異常だ。


「そのクレイジーな魔人族って、どんな奴だったか分かるの」

「確か、イスカンなんちゃらとか名乗ってたらしいですけど。途中で上手く逃げたって聞いてます」


 なるほど、イスカンダルね。あいつなら金色の破壊神相手に喧嘩売っても仕方がない。だってバカだから。

 しかしよく死ななかったものだ。まあ逃げ足は速いし、超タフな奴だからな。


「その魔人はライバルの冒険者を探していたみたいです」

「ラ、ライバル……」


 なんだよそれ、二人とも俺を探してたのかよ。それで森の中で遭遇してバトルになったってことか。

 俺全然関係ないのに関係あるじゃん。もうヤダこの人たち。

 それで最悪なのは、バカ二人のバトルで被害を受けた人がいる事だ。その場に居なかったのにスゲー罪悪感だよ。

 バトルが始まった時に運悪く、近くを通った運送屋の大型荷馬車の隊列が巻き込まれた。

 運送屋はとある商人に雇われて、奴隷や魔獣、珍しい動物を檻に入れてゴールディーウォールまで運んでいたらしい。

 生物以外なら魔法の道具袋のようなアイテムで簡単に持ち運べるので大型の荷馬車を使う必要もないし、今回みたいな被害もなかったかもしれない。とにかくタイミングが悪すぎた。

 更にそのドサクサに紛れて山賊が檻を荷馬車ごと盗んだ。この時に実は、アルバートという名の商人も、恐らく金銭目当てで誘拐されていた。


 という事で、山賊退治と荷物の奪還、商人の救出クエストが冒険者ギルドより発表されている。

 これって俺が助けに行かなくても、冒険者の皆様が行ってくれるんだよね、って思ってたのだが、どうやらサクラの話を聞いていると、そうもいかないみたいだ。

 多くの冒険者たちがクエストには参加しないらしい。何故ならそのアルバートという商人は悪徳で有名だからだ。つまりは人望がないんだな。

 しかも今回の山賊たちは悪徳商人しか狙わない義賊で、一目置かれているとのこと。


「参加者が少ない理由は他にもあるんです」

「もしかして、凄く強いボスがいるとか」

「いえ、場所の問題です。山賊のアジトは北東の森の中ですけど、魔法や様々な仕掛けがあって迷いの森になっているんです」

「そういう事か。まあ助けが少ないのは自業自得だな」


 とはいえ、放置はできないよなぁ。

 アンジェリカとイスカンダルが元凶で、そのアンジェリカが街に居るのは俺のせい、イスカンダルが街の近くに来たのも俺のせい、だからな。

 もうなんなのこのやるせない罪悪感は。俺もどっちかというと被害者なのに。

 とりあえず俺は目立ちたくないから今は冒険者ギルドに所属していない。だからクエストは受けられないけど、個人的に助けに行ってみるか。

 でも今日はもう面倒だから明日にしよう。急ぐ必要はまったくもってないからね。


 この後は鍛冶屋のジャックに会いに行って、また色々と武器作りの話を聞いた。

 それからは、この広い街のまだ行っていない場所をブラブラと探索したあと我が家へと帰り、明日は朝から近くの森に出掛けることを三人に詳しく話した。



 次の日の早朝、クリスとスカーレットとアイリスを連れて、山賊のアジトがあるという北東の森へと向かった。

 送迎屋の馬車で三十分ほど移動したところで降ろされた。その場所には既に何組かの冒険者が来ており空の馬車があった。

 帰りの料金も払ってあるので、夕方までには商人を助けてこの場所に帰ってこなければならない。

 まあ今回は激しいバトルもないだろうし楽勝と思う。たとえ上級モンスターが現れても、レベル91のアイリスがいるし、俺が戦う必要はない。


 因みに今日の格好は、白のTシャツに青のジーパンと魔道具のスニーカーで、装備は黒い仮面とダークグレーのハーフマント、ウエストポーチ型の魔法の道具袋とダガーナイフだ。


 クリスは体操服と赤いブルマと白の靴下、上履き風の靴で、少し大きめのキャメルカラーのボディバッグを斜め掛けで背負っている。


 スカーレットはピンクのキャミソールに白いミニのタイトスカート、首に赤いスカーフを巻いて、白とピンクのボーダーのニーハイとブーツ、手には指の部分がない革手袋、腰にはウエストポーチ型の魔法の道具袋をしている。


 アイリスは白を基調としたフリフリのロリータファッションで、装備は全て封印石を使った魔法のペンダントの中に収納されている。


 てかぱっと見、俺以外は森の中に居たら不自然極まりない。冒険者ってなに? ってツッコミ入れたくなるよな。

 あとここはもう森の中なので三人ともマントは纏っていない。勿論、脱がせた理由は、その可愛い姿を俺が見たいからだ。マントなんてホンと邪魔でしかない。

 今までしていた仮面も、あまり意味がないので俺以外は付けないことにした。こっちの世界の人間は、本当に奴隷に興味がないからだ。顔を隠してなくても、半獣人やエルフやドワーフを覚えたりはしない。これは情報屋のサクラも言っていたことだ。むしろ奴隷は仮面を付けている方が目立つかもしれないとも聞いた。


「じゃあ俺たちも行くとするか」

「御意」

「はいにゃー」

「はい」


 この辺りの森には基本的にスライムやゴブリン、植物系の弱いモンスターしかいない。はっきり言って今までの冒険と比べたらピクニック感覚だ。

 とりあえず迷いの森がどんな感じなのか確かめるために、敢えて何も策を講じずに進んだ。

 程なくして二組の冒険者パーティーと遭遇したが、互いに声をかけることなく通り過ぎた。

 二組とも四人編成で、俺の見立てでは低レベルの初心者冒険者だ。全員が人間で男女二人ずつである。なんだよそれは、カップルですかコノヤロー、普通に羨ましいじゃねぇかよ。しかもこいつら、変な恰好した奴隷を三人も連れてるからか、すれ違う時に俺をジロジロと見やがった。更にひそひそ話までされた。なんだか凄く恥ずかしかった。こいつら困ってても絶対に助けてやんねぇからな。

 とか考えながら歩いてたら、さっきすれ違ったはずの冒険者パーティーが前方の右横から現れ通り過ぎて行った。


「もう俺たちは迷ってるわけか」

「ご主人、これは同じ場所をグルグルと回っているのでしょうか」


 スカーレットが辺りを見渡しながら言った。


「そういう可能性もあるな。ただ同じ景色が繰り返されてないし、何パターンかの道があるのかも」


 情報屋のサクラの話では、この森には結界と幻術の魔法が使われていて空からでもアジトは発見できないらしい。でも正しいルートで進めば抜けられる。これはレトゲーRPGでありそうな攻略イベントだな。なのでまずは目印となる何かを見つけなくてはならない。

 それから数分ほど歩いたところで小さな山小屋を見つけた。

 不自然な感じはない。だが俺の直感がこの山小屋が、迷いの森を抜けるための最初の目印だと告げている。


「ご主人様、小屋を調べるならクリスチーナにお任せなのにゃ」


 クリスが自分の胸をポンと叩いてドヤ顔で自信満々に言った。

 さっそく出ましたよ、お任せ星人が。ホンと天然は過去の失敗を覚えてないから厄介だ。


「お前が一人で行ったら仕掛けがなくてもあの小屋が崩壊する。大人しくしていろ」


 スカーレットは冷静にツッコミを入れた。まさにその通り。


「にゃっ⁉ スカーレットちゃん酷いのにゃ。信用してほしいのにゃ」

「おいバカ猫、信用するためには実績が必要だ。お前にあるのか、そんなものが」

「にゃん?」


 はい出ました必殺の誤魔化しにゃんポーズ。

 俺は可愛いから許すけど、ムカついたスカーレットは容赦なくクリスのお尻に蹴りを入れた。

 このいつも通りの光景を、アイリスは無表情で見守っていた。でもなんとなく、楽しそうにも見える。


「小屋は調べなくていいよ。恐らく仕掛けとかはないと思う。あったらこれまでに冒険者たちが見つけて、攻略情報が流れているはずだ」

「流石でございますご主人」

「でもここがアジトに向かうルートの出発点のはずだ。とりあえず小屋の周りをみんなで調べよう」

「御意」

「はいにゃ。お任せなのにゃ」

「はい」


 小屋の周りを歩きながら地面や景色に変化がないかを確かめる。だが二周したが違いを見つけることはできなかった。しかしこの時、その場から動かず一点を見詰めているアイリスに気付いた。


「どうしたアイリス、なに見てるの」

「あれです」


 アイリスは二十メートルほど先の木を指差し言った。


「あっ⁉ あの木だけ、周りのものより太いような……」


 よく見たら、山小屋の扉から一直線の場所にその木がある。これはあの木が次の目印かもしれない。

 その木まで四人で行って、また周りを調べる。すると二十メートル先に同じように一本だけ太い木を見つけた。

 また目印と思われる木まで移動し周りを調べると、一本だけ太い木があった。

 太い木を見つけて二十メートルほど移動する、という事を何度か繰り返すと、今度は明らかに種類の違う大木が現れる。

 大木の根は物凄く太く長くて、地面に出てうねっている。


「ご主人、もうこの周りには一本だけ太い木はないようです」


 スカーレットは大木を一周しながら念入りに森を観察した後、側に戻ってきて言った。


「どうやらここが、最後の攻略ポイントだな」 


 正面にある大木は、ぱっと見はただデカいだけで普通だが、どこかに仕掛けがあると思う。


「よし、この木を調べるぞ」


 四人がかりで十五分ほど調べる。だが何も仕掛けは発見できない。


「この木に仕掛けがあると思ったんだけどなぁ。勘違いか……」

あるじ様、ほんの少しだけですが、この木から魔力を感じます。なので主様の考えは間違ってないかと」

「魔力……ちょっと俺には分からないレベルだな。でもアイリスが言うなら間違いなさそうだ。もう少し調べてみよう」


 アイリスは妖精族のドワーフだし、エルフ同様に森との関わりも深く、魔力感知に長けているのかもしれない。それにレベルも91で俺たち素人とは経験値が違う。全てにおいて頼りになる。





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