第二部 二章「ダンジョン合宿と謎の石像」その五
「気分転換に武器でも変えるか」
階段を下りながら斧をポーチの魔法空間に入れて、先程ゲットしたデカいバット型の黒い金棒を取り出した。
鉄の塊だから本当は凄く重いはずだけど、俺的には普通に軽い金属バット程度にしか感じない。だから楽々振り回せるし、片手でフルスイングできる。
次のバトルフィールドには一体の石像があり、予想通りオーガだった。
同じ手順で石化が解けて、三メートルはあるドデカいオーガが雄叫びを上げて動き出す。
二メートル級の奴らでもデカく感じるのに三メートルの迫力は半端ない。オーガが発する魔力も凄まじいし、自分が普通の冒険者なら恐怖でブルってるところだ。恐らくパーティーで戦う相手だろうな。
でも魔人族のイスカンダルと魔力の大きさを比べたら、それほど脅威には感じない。やはりイスカンダルはおバカなだけで、本当に強いんだなと改めて思う。
オーガは人型で、髪の毛のない頭部に大きな角が二本あり、体は赤くてゴリゴリのマッチョだ。黒いスパッツみたいなのを穿いていて、全身には軽装備の黒い鎧を纏い右手には片刃の大剣を持っている。他の奴らと同じで瞳は赤く光っていてバーサーカー状態だ。
日本人的に、ぱっと見は鬼って感じで、表情は般若とか明王みたいに超怖い。ただ怪物というより魔人族に近い。
「一対一でやる、二人とも下がってろよ」
「御意」
「はいにゃ」
こいつとはどう戦おうか。正直なところ連続のバトルで相手するの面倒になってきた。
試練にならないけど、ちょっとだけマジの超人パワーを使って、さっさと終わらせよう。メインディッシュのドラゴンが残っているしな。
先制したのはオーガの方で、一直線に向かってくると大剣を大きく振りかぶり、斬るというより叩きつける感じで繰り出す。
俺はその場で踏ん張って、頭上から迫ってくる大剣をバット型の金棒で受け止める。
甲高い金属音が轟き、凄まじい衝撃で足元の地面がひび割れると同時に陥没する。本当に凄いパワーだけど、当然のようにノーダメージだ。
舐めているのかそういう戦い方なのか分からないが、オーガの動作は大きくて速くないので、素人でもなんとかついていける。
「次はこっちの番だ」
身長170センチの体には大きすぎる金棒を片手持ちで振って殴りかかった。
オーガはその一撃を剣を横にして受け止める。だが超人パワーに押され数メートルほど足で地面を削りながら後退した。
「やるな、けっこう力入れて殴ったのに耐えるかよ」
このオーガはパワー系だな。それに重くて硬い金棒で叩かれたのに、へし折れないとは凄くいい大剣だ。
いま剣を持ってないから、それ欲しくなったぜ。破壊しないように気を付けよう。と思ったが、手加減して簡単に勝てるほど弱い相手じゃなかった。
そこから何度か大剣と金棒を打ち合ったが、どっちも剣技とかないパワー系だから、このままじゃ勝負がつかない。とはいえ剣を破壊していいなら恐らく今まで通り一撃で終わる。
一旦間合いを取り一呼吸入れたその時、オーガは一気に魔力を上げ全身より放出した。更に大剣の刃からも魔力が放出されている。俺がレオンの魔剣を使った時と同じような感じだ。
ただ魔剣ほどは強い魔力や怖さは感じない。でも何か技を出そうとしている。
「っていうか剣技とかあるのかよ⁉」
直感的に受けに回るのはヤバいと思い、オーガが魔力を纏わせた大剣を振りかぶった時に攻撃を仕掛ける。
こういうデカくてパワーのある奴は、足元が隙だらけっていうのがテンプレなのさ。
一歩踏み込んでオーガの足首辺りに金棒を振り抜き、柔道の足払いが決まったように豪快に倒れさせた。
ごめんな空気読まずに。てか必殺技とか絶対に出させないし。そういうの食らうといつも服がボロボロにやられるからな。
オーガはすぐに立ち上がろうとしたが、丁度いい高さに顔があったので金棒をフルスイングしてぶっ飛ばす。
直撃を受けたオーガは流石にライフがゼロになり、爆発するように煙を出し消滅した。
意外と簡単に勝ててしまった。同じパワー系だしバトルスタイルの相性の問題かもな。いや、そもそも思ってるほど強くなかったのかも。
そしてオーガが居なくなったので、フィールドの仕掛けが発動し、下への階段が現れる。
「ご主人様、金貨四枚、落ちてたのにゃ」
「やったね、金貨か」
そのまま使えるから貨幣の方がありがたい。
で、次に気になるのが、消滅せずに残っているオーガの片刃の大剣と黒い軽装備の鎧だ。
まず鎧の方は、素材はただの鋼で販売や買取価格は不明だった。まあ三メートルの巨躯サイズの鎧なんて冒険者に需要ないからね。でも鋼は色々な武器に作り替えられるからお得な拾い物だ。
大きすぎて普通の人間は使えないが、俺なら武器として使える大剣の方は鑑定眼で見るとこうなる。
【素材・魔法合金・鋼+???】
【販売価格・???】
【買取価格・金貨十枚~十五枚】
《魔力レベル1》
《特殊能力なし・アンコモンタイプ》
マジかよ、売ったら最低でも三十万円とか嬉しすぎる。
それにしても素材が魔法合金って凄いじゃん。確か合金を作る時に、魔力のある素材やアイテムを魔法の力で融合させるんだよな。魔法合金っていう言葉だけでワクワクする。
あとレアリティ設定されてて、アンコモンとか表示されるのもテンション爆上がりだ。オタク心をくすぐってくれますな、製作者様。
「この大剣をドラゴン戦で使ってみるか」
階段を下りる前に金棒をウエストポーチの魔法空間に入れて、オーガの片刃の大剣に持ち替えた。
「ははっ、やっぱこれデケーな、グリップ太っ」
三メートルの奴が使ってた大剣だから、冒険者の普通の大剣とはサイズ感が違う。ホンと俺じゃなかったら重くて使えないはずだ。てか超大剣の更に上、巨大剣だよコレ。もう笑うしかない。
「大剣装備のご主人様カッコいいのにゃ」
「やっぱそうかな、分かってるねクリス君」
「ご主人、私もカッコいいと思います」
「そうかそうかカッコいいか。よし、この大剣、いや巨剣、魔剣みたいに使えるか試してみよう」
魔剣を使う時のように、刃から魔力を炎のように放出するイメージをした。
魔力が少しある大剣はイメージにシンクロし、刃から白っぽい炎のような魔力を少しだけ放出した。
レオンの魔剣と比べると、笑えるほど小さい魔力しか出ない。やはり値段の差は伊達じゃないってことか。
いや値段じゃなく性質の差かも。レオンの魔剣は強さを魔力に変換するけど、この剣は純粋に使い手の魔力を放出するのかもしれない。だとすると商人の俺は魔力とかほとんどないし、ショボいのも理解できる。
フィールドの壁に向かって三日月形の斬撃をイメージして、魔力を纏わせた大剣を軽く振り抜く。
その瞬間、風を切り裂く凄まじい音がして、魔力の塊というより衝撃波が魔力を纏った、という感じの魔剣と比べるとショボい斬撃が出る。
でも出たことは出た。これまでの衝撃波よりこっちの方が威力があるはずだ、一応は斬撃だし。
とか考えながら斬撃を見ていたら壁に激突した瞬間、予想を超えるそこそこの爆発をする。
「おぉ、スゲーな、これ使えるぞ」
っていうか切れるんじゃなく、やっぱ魔力が入ると爆発するのね。
魔力を纏わせずに振れば衝撃波で、魔力が加わると爆裂系の魔法みたいになる。使い分けできて便利だ。
なんだかもう見た目が違うだけでファイアーボール気分だな。剣技というか技として成立しているだろ。いいもの拾った。物凄くパワーアップした感覚。ただやはりバカデカすぎて邪魔だし、ちゃんと握れないから扱いづらさはある。
「流石でございます、ご主人」
「ご主人様は凄いのにゃ。また強くなったにゃ。天才なのにゃ」
「ほう、天才とな」
「はいにゃ。ご主人様は天才なのにゃ」
「この褒め上手が、ちょっとこっちに来なさい」
そう言ったらクリスは頭をナデナデしてもらうため、少しかがんだ。
「あざといんだよバカ猫‼」
スカーレットが透かさずカットインして、クリスの頭を殴ってツッコミを入れた。
「ふにゃあっ⁉ 酷いのにゃ、スカーレットちゃん酷いのにゃ。ご主人様にナデナデしてもらうところだったのにぃ‼」
「ナデナデなど百年早い。役に立ってからだ」
「そだな、そうしよう」
「にゃっ⁉ ご主人様まで……」
クリスはこの世の終わりのような絶望した顔をしていた。
「じゃあ最後のドラゴン退治に行こうか」
「御意」
「はいにゃー」
遂に最後の試練だ。ここをクリアすれば最強の剣が手に入る。いったいどんなだろ、楽しみだ。
しかし階段を下りた先に同じような広いバトルフィールドはなく、ドラゴンの石像もない。




