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序章  「出生の秘密、そして異世界へ」




 今日は八月二日、俺こと鈴木秋斗(すずきあきと)の十七歳の誕生日である。

 はっきりいって誕生日など「だから何?」ってなもんだ。ガチの引きこもりオタニートには微塵も関係なし。今日も明日も明後日も、学校にも行かず働かず、漫画とアニメとゲーム三昧の日々を送る。しかし好きで引きこもっているわけでもニートなわけでもない。理由があってのことだ。しかも世のため人のためにである。

 因みに親は父親だけで母親はいない。俺が赤ん坊の時に離婚したようだ。

 親父は何も言わずお金だけは出してくれる。甘やかすなと誰もが思うだろうが、親的にもちゃんと理由がある。

 その理由だが、俺の特殊な体が原因だった。でも見た目は普通。身長も体重も顔も頭も普通。何か特徴が欲しいぐらいどこまでも普通な日本人。

 ただ身体能力の一部が超人で腕力が異常だ。更に体は頑丈でRPGで言ったら防御レベルはMAX。

 六歳の時、夜中に一人で家の外に出て車にひかれ吹き飛んだことがあったが、掠り傷を負っただけで体はなんともなかった。そのまま逃げたので後で騒ぎになっていたのを覚えている。ドライブレコーダーのない古い車だったので色々とバレずに助かった。あと山で遊んでて二十メートルの高さの崖から落ちた時も骨折したりせずに無事だった。

 十歳ぐらいになると自分のパワーを試したくて、夜中に近所の山で大木をへし折ったり大岩を投げたり岩壁(がんぺき)にパンチして陥没させたりしていた。これが引きこもり生活にはいい感じのストレス発散になり、調子に乗って暴れまくっていたら、山には鬼がいるとか噂になって警察も動き結局は行けなくなった。父親にも怒られ夜中の一人遊びは禁止。ここから本格的な引きこもりが始まった気がする。

 交通事故や子供の頃の山での一人遊びがいまでもネットの掲示板や動画サイト、SNSで盛り上がり都市伝説になっていた。俺が力試ししていた場所は『鬼の庭』とか『悪魔のコロッセオ』など中二な名前が付けられている。

 とにかく中身は超人、もしくは怪物というやつだ。とてもじゃないが普通の奴らと楽しく生活はできない。ちょっとしたことで物を破壊したり、人に怪我をさせたりする可能性があるからだ。故に自分から人とは距離をおき、友達などは作らないようにしていた。

 そもそも学校に行ってないんだから友達ができるわけない。社会とのリアルな繋がりがゼロ。そして見事に引きこもりの漫画とアニメとゲームを愛する謎の超人オタニートが完成した。

 人間のはずの俺が何故、超人の体を持っているのかは、どうやら今から分かりそうだ。

 誕生日の今日この時、父さんが普段は入ってこないオタク丸出しの俺の部屋にやってきて「大事な話がある。お前の出生の秘密と今後についてだ」と真面目な顔で語り始めた。


「秋斗も十七だ、大人じゃないけど子供でもない歳だ。だから話す事にした。さて……何からどう話すか」


 父さんはベッドに座り腕組みをして険しい表情で考え込んでいる。細身の長身で厳格そうな顔をしているが、性格は明るくお調子者といった感じだ。会社から帰ってきたばかりなので白いワイシャツにグレイのネクタイとスラックス姿である。


「秋斗、まずは若かりし頃の父さんに起こった奇跡体験の話をしよう。実は父さん二十歳の大学生の時、女神によって異世界に勇者召喚されたんだ。信じられないと思うが、これマジだからな」


「ほほう、異世界とな。詳しく聞こうじゃないか、勇者殿。オラなんだかワクワクしてきたぞ」


 なんかスゲー壮大な話キターー‼ 自分が普通じゃないからこんな世迷言でも簡単に信じられるぜ。


「お前、凄いノリノリだな。父さんの話し信じてくれてるの?」

「さっさと話せコノヤロー、はよ強烈なのおくれ」

「お、おう、分かった。じゃあ進めるが、父さんはエルディアナという剣と魔法の異世界へと、魔王討伐のために召喚された勇者の一人だった」

「魔王キターーーっ‼」

「でだ、その世界でお前の母さんと出会ったんだ。母さんはドワーフ族でな、それはもう小さくて子犬のように可愛い女の子だった。まあ歳は父さんよりずっと上だったが」


 ほう、いわゆるロリババアというやつか。羨ましいじゃねぇかこのリア充のロリコン伯爵が。


「って母さん人間じゃなかったのか」


 まさか異世界のドワーフとは。母さんが嫌がったらしく我が家には写真とか動画がないんだよな。ドワーフと聞いたらどんな姿だったのか一層見たくなった。


「父さんはもう恋愛にどっぷりつかっちゃって、魔王討伐とか完全に忘れてたんだよ。てか父さん凄く普通の人間だったから、召喚時にレア職業とか特殊能力与えられても全然使い熟せなくて弱かったし。それで色々放置して、母さん連れて駆け落ち気味にこっちの世界に帰ってきたわけ。そして程なくして秋斗が生まれた」


「つまりハーフってわけか。確かドワーフって怪力設定だよな、ゲームとかで……超人的な力はそういうことか」


「異世界エルディアナのドワーフは怪力だけじゃなく体も頑丈で、更に(きん)を自由自在に操る能力を持つ者もいる。ただ秋斗の場合、ドワーフの能力を遥かに超える力を持って生まれてしまった」

「へぇー、そうなんだ」

「この古い一軒家、壁や床、柱を修復した跡が幾つもあるだろ。それは全部、赤ん坊のお前が夜泣きしたり、はしゃいだりして母さんをぶっ飛ばした跡だ。母さんドワーフだから死ななかったけど、けっこうダメージ大きかったぞ。父さんなら一撃で死んでたかも」

「うえぇ、マジかよ。記憶にねぇけど。もしかして母さんそれで出ていったの?」

「それは違う。こっちの世界の空気や水が合わなくて、体調を崩して仕方がなく故郷に帰ったんだ。まあ、父さんが巨乳系のAVをいっぱい持ってるのがバレて喧嘩になったのも一つの原因だが」

「いらねぇよそんな話。子供が親の性癖に興味あるかよ」

「とにかくドワーフと人間のハーフは、トンでもない超人が生まれる可能性があるということだ」

「異世界のDNAヤベぇな。まさに混ぜるな危険ってやつだ」


「それでだ、ここからが本題だ。お前もこのまま学校にも行かず、仕事もせずというわけにはいかんだろ。人生そんな事じゃもったいない。かといって超人のお前を外に出す訳にもいかない。そこで提案だが、秋斗、母さんの故郷であるエルディアナに移住するつもりはないか。向こうでなら、こっちより楽しく暮らせると思うんだが。もしかしたら母さんにも会えるかもしれない」

「マジかよ、移住って……そんな簡単に異世界に行けるの?」


 なんだか凄い話になってるぞ。ドキドキワクワクがヤバいんですけど。


「行ける。だが、一度だけだ。しかも片道切符。向こうに行けば、もう戻ってこれる保証はない。それに命の危険もある。魔王やモンスター、海賊に山賊など、色々怖いのがいる。まあ時間はある、よく考え」

「行く、行ってやるぜ‼」


 テンションMAXの俺は父さんが全て言い切る前に即答した。


「待て待て、いま「よく考えて決めなさい」って言おうとしたのに。てか考えなさいよ。凄く重大な事でしょ」

「いいよそんなの。俺はずっと引きこもってたんだよ。人目を気にせず自由に行動できるなんて最高だし、異世界を冒険とかワクワクする。勿論危険なのも理解してる。でもひ弱な父さんが生きて帰ってきてるんだから、俺は大丈夫だと思う」

「もう帰ってこれなくてもいいんだな」

「あぁ、誰が何と言っても行く」

「分かった。お前のことだからそう言うだろうと思ったよ」


 父さんは少し淋しい感じの顔で優しく言った。


「ところで魔王って、結局どうなったの。誰か他の勇者が倒したの?」

「ど、どうかなぁ。大陸ごとに魔王何人も居たしな。一人か二人ぐらいは、やる気のある優秀な人が倒したかもな。勇者以外にも凄く強い二つ名冒険者や天才賢者がいたし」

「適当だなぁ。でも楽しそー。父さん今からでも魔王倒そうぜ」

「いやいやいや、父さんは行かないぞ」

「えっ、一緒に行かないのかよ。元勇者なんだろ」

「父さんは行かないよ。だって責任ある仕事があるからね」

「責任って、魔王放置しといてよく言えたな」

「黙れ。父さんにも色々あるんだよ。それ以上イジメたら泣くからな」


 冗談っぽく明るく話しているが、何ともいえない複雑な気分だ。これまでずっと育ててくれた父さんと会えなくなる。それに母さんに会える保証もない。異世界に行けば天涯孤独になるかもしれない。よくよく考えると少し怖くはある。


「お前、随分とあっさり受け入れているな。普通は信じないと思うけど。父さん蹴り入れられる覚悟してたぐらいだ」

「自分の力のことがあるからね、今まで色々な事を推測したり妄想したりしてたから、異世界とかドワーフとか言われても、そうなのかなって感じで受け入れられた。勿論、驚いてはいるよ」


 そう、驚いているしバカな事だとも思う。でも今の煮え切らない状況を変えてくれるかもしれない、そう思うと自分でも不思議なほど簡単に信じることができた。とにかく前に進みたい。どんな場所でもいい、人間らしい生活がしてみたい。


「それでさぁ、いつ異世界に行けるの?」

「満月の夜、とかいう縛りはない。いつでも何処からでも行ける。準備ができしだいな」

「じゃあ今から行くよ。待ってられない。着替えて簡単な準備だけするから、父さん異世界移動の準備しといてよ」

「おいおい今からって、行動力ありすぎだろ。テンション上がりすぎておかしくなってないか。少しは冷静になれ」

「こんなトンでもない事、ノリというか、勢いだけで突っ走るしかないでしょ。よく考えてたら怖くなって動けない気がする」


 そう言いながら紺色の上下ジャージを脱ぎ大型リュックサックに詰め込みジーパンを穿いた。だがここで疑問が生じる。どんな格好で行けばいいんだ、ということだ。


「父さん、向こうはどの季節なの?」

「多分、父さんが最初に召喚された場所に行くと思うけど、あそこは熱帯のジャングルだから軽装でいいと思う」

「じゃあTシャツでいいか」


 袖が赤の白いラグランTシャツを着た。そして適当に着替えと部屋の中や台所にある必要と思う物をリュックに入れた。

 準備を終えて最後に玄関からスニーカーを持って父さんの居る、六畳ほどの今は使ってない和室に行った。そこの畳には既に光り輝く複雑な魔法陣が作られており、光の柱を上げていた。


「スゲー、本物の魔法陣だ。ちょっと感動」

「秋斗、携帯は意味ないからな。父さんが解約しておく。それでいいな」

「了解。どうせ父さん名義で契約したものだし」

「それじゃあ始めようか、秋斗」


 父さんは真面目な顔をして、俺の目を力強く見詰めて言った。


 眼前の魔法陣は女神からもらったアイテムで作った、エルディアナに行ける移動魔法陣とのこと。しかもこれが最後の一つらしい。

 使い方は簡単で、魔法陣の中に入ると自動的に魔法が発動する。


「秋斗、先駆者としてのアドバイスだが、お前の超人パワーの理由、人間とドワーフのハーフであることは、向こうの世界じゃ秘密にしておけ」

「別に自慢する気もないけど、何故?」

「実はエルディアナには身分階級みたいなものがあってな、基本的に人間は階級が上だから色々と優遇される。半獣人や妖精族、ドワーフとかエルフとかだが、それらは身分が低く、人間の奴隷になっていたりすることが多々ある。向こうではそれが普通の事で文化であり、お前に抵抗があっても抗おうとするな。郷に入っては郷に従えだ。ルールを変えようとしないことだ」


 奴隷とか凄いヘビーな話だけど、これはあらかじめ聞いて知っておいて良かったかも。


「そんな世界で奴隷扱いされるドワーフと人間の間の子供だと知れたら、差別され生きにくくなる。お前のその力はあくまでも勇者召喚によって女神から与えられたものとしておけ」

「あぁ、分かった。マジで最高のアドバイスだ。なんだかいま威厳ある父親っぽかったね」

「なに言ってる、いつも威厳あるだろ。さあ、靴を履いて魔法陣の中に入れ」

「よし。そんじゃまあ行きますか」


 魔法陣の中に入ると更に光は強くなり、光の粒子みたいなものに体が包み込まれていく。


「父さん、女神に会えればこっちに戻ってこれるんだろ。俺的にはたまに帰ってくるつもりだから、部屋はそのままにしておいてよ」

「女神に会えればか……分かった、そのままにしとくよ。後な、向こうの世界はこっちの文化が魔法と融合してぐちゃぐちゃな世界観になっている。父さんが居た頃より時間も経っているし、どれほど進化しているのか想像もつかない。とにかく驚くと思うけど、浮かれすぎて油断しないように」

「了解。でもやっぱ、そんなカオスな感じがワクワクするよ」

「……まだ秋斗に話があるんだが、実は父さん、再婚することにした。しかも超若い嫁さんだぞ」

「なっ⁉ こんなタイミングで」

「父さん幸せになるからな。じゃ、秋斗、たっしゃでな」

「コノヤロー‼ 謀ったな、謀ったなオヤジぃぃぃぃぃ‼ はじめから追い出すつもりじゃねぇか。てかダブルピースしてんじゃねぇぇぇぇぇ」


 吠えるように発した瞬間、俺の体は完全に光に包まれその場より消えた。

 こうして俺こと鈴木秋斗は母親の故郷である、異世界のエルディアナへと移住することになった。

 父さん、いままで本当にありがとう、そしておめでとう、若い奥さんと幸せにな。でも帰ってきたらぶっ飛ばす。




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