07-寒村の少年-
遅くなってすみません
もう少し書いたほうがいいかなと思いつつ、時間がたってしまいました
「クソっ!!」
アレンは傷の痛みに顔をしかめながら悪態をつく。
レナを連れてこれなかった怒りと、村を突然失ったことに対する混乱。
年の割に大人びたアレンでも受け入れがたいことだった。
「ディオン、夜になったら助けに行きたい」
「……ダメだ」
ディオンは硬い表情でそうつぶやいた。
「ディオン」
「ダメだ。俺とアレンの二人じゃ何もできない」
「……クソ!!!なんであんな目に合わなきゃなんないんだっ!クソどもが、ぶっ殺してやる」
アレンの握りしめた手から赤い筋がこぼれる。
胸の中には行き場のない怒り。
「……絶対あいつらは殺す。全部殺す」
「アレン、落ち着け」
「……今飛び出して行っても何もできないのはわかってる。わかってるけど!それでもあいつらは殺す、絶対に殺す」
「アレン……」
「大丈夫だよ、ディオン。今は抑える」
アレンは怨嗟のこもった熱い息を吐くと、ディオンに向き直った。
昨日までの明るく優しさの感じられる表情は消え、今あるのは、怒り。
「ディオン……やっぱ悔しい」
「俺もだ、アレン」
ディオンはアレンに肩を貸すと立ち上がらせた。
きつめにまかれた包帯は、血で赤くにじんでいる。
「アレン、歩けるか?今日中には黒い森にはいるぞ」
アレンはそのままディオンに支えられて歩き出した。
彼の眼には、涙がにじんでいた。
一方、親衛軍はアレンとディオンの捜索に踏み出していた。
村長のせがれは手負いであり、みすみす逃す必要もない。
「いたかっ?」
「見つかりませんっ!!」
だが、けがをしたアレンを無理をさせてでも進むディオンらを親衛軍は中々とらえられずにいた。
そうこうしているうちに日は落ち、捜索は打ち切られた。
夜に深き森に分け入れば命を失う。
翌日の朝まで待機となった。
そしてその深夜、アレンとディオンは深き森の中につくられた小さな小屋の中にいた。
『魔女の小屋』と名付けられた緊急避難用の石造りの小屋だ。
パチパチと、かまどの火が焚かれる。
「アレン、傷はどうだ」
「……どうにか、もうふさがってきたよ」
「……竜の歌のせいか?」
「多分、そうだと思う……。まるで人間じゃなくなったみたいだよ」
そうこぼしたアレンの腹の傷はすでにふさがっていた。
あとはまだ残っているが痛みは引き始めているのだ。
「まあ、そう言うな。たまたま起きた奇跡だとでも思えばいいのさ」
「そうだね、ありがとディオン」
ディオンは席を立つと、かまどにかけた鍋をかき回した。
保存されていた乾燥野菜と鹿肉のチョップを煮込んでいる。
器に盛るとアレンに渡した。
「さあ、食え。血は失ったからな」
「ありがと、……いただきます」
ハフハフと、温かいスープを飲む。
じわり、とアレンの眼に涙が浮かんだ。
幸せを理不尽に奪われた悔しさ。
守れなかった無力感。
ぶつけようのない、怒り。
言葉にならない感情がアレンの脳裏を駆け巡る。
泣きじゃくりながら食べる逃避行の夕食は忘れ得ぬものとなった。
静かに夜は更けていく。
明日には森を抜けてこの国から逃げなければならないだろう。