02-寒村の少年-
二話目です。
まだまだ下手な私ですが温かく見守ってもらえると幸いです。
時は流れ、六年後の冬。
例年にない厳冬に、重苦しくのしかかる晴れることのない雪雲。
憂鬱さがいやにでも感じられる。
「父さん、おはよう」
「おはよう、アレン。すまないが行商人が来ているみたいだ。手紙がないか見てきてくれ」
「わかった、行ってくる」
アレンは防寒着を厚く着込むと冷気が入らないように外に出た。
ザクザクと雪を踏み分けて行商人のいる村の広場へと歩んでいく。
白い息がほうっと凍てつく空気へと消えていく。
広場の雪はどかされて行商人が積んできた商品が広げられていた。
村の女たちがこぞって貯蓄の減った調味料や野菜を買っていく。
その喧騒の横を通り過ぎ、ともに来ていた郵便局の男に話しかける。
「コバックさん、パパへの手紙は来た?」
「アレンか、来てるぞ。今回は三枚だ」
小さな封筒ふたつに、一つだけ少し膨らんだ封書を受け取った。
「ありがとう、コバックさん」
「おう、気をつけて帰れよ。また雪降ってきそうだしな」
手を振って別れを告げると、さっき来た道を戻っていく。
相も変わらず女たちは寒空の中声をあげて買い物を続けている。
アレンの家の分は注文を出してあるため遅く買いに行ってもとっておいてあるから心配することはないのだ。
先ほど踏み固めた道を戻っていく。冷え切った手をこすりながら家へと戻った。
「ただいま。手紙が三枚来ていたよ」
「三枚か、この時期に珍しい」
山奥の村へ届けるにはそれ相応の金額が必要であり、厳しい冬となるとその金額もまた上がる。
そんな大金を払っても手紙が届くかどうかは運次第だ。
そんなものだから、手紙が来るときは良い知らせも悪い知らせも緊急の時。
アレンから手紙を受け取ったブレイナンはアレンを部屋に戻るよう言い、書斎に入った。
胸中に不安をうっすらと感じながら丁寧に手紙を開けていく。
三通読み終えると、眉間にしわを寄せながら椅子に深く座り込んだ。
薄い二通には等しく同じ言葉が。
『王都に動乱あり。四竜教迫害の動き。強く警戒せよ。』
王都の友人である者と昔世話になった者から。
分厚い一通は長くしたためてあった。
『拝啓、ブレイナン兄上殿。
急を要する話なので前口上を省くこと、ご容赦願いたい。
先日、前王の崩御とともに新王の即位となった。
そして、新王の即位と同時に発布されたのが「四竜追放令」
内容は四竜の追放と四竜教の禁止だ。
先日私の家にも親衛軍のものが来て捜査していった。
どうやら地方の村にも軍を差し向け取り締まるらしい。そちらの村にも行くやもしれぬ。
この手紙を読まれているということはまだ来てはおらぬのだろうが、取り急ぎ神具を隠し儀礼を中 止せよ。
親愛なる弟、リトより』
一体王都で何が起きたというのだ。
永らく国教であった四竜教を捨て、あまつさえ迫害するなど正気の沙汰ではない。
だれも止める者がおらぬとわけがないとしたら、新王はあまりにも無理な政治を行っているはず。
国が荒れるのもそう遅くはないかもしれぬ。
そう考えたブレイナンの心中は村に覆いかぶさる厚い雪雲よりも影を落とすものとなった。
翌日。ブレイナンはアレン一人に祠へ行くように伝えた。
彼は行商に来た男性のところへと向かう。
「やあ、フレッド。こんな天候の悪い時に来てくれて助かったよ」
「これはこれは、ブレイナン殿。いつもお世話になってますから」
「助かるよ。君がいろいろ売りに来てくれると女たちの機嫌が悪くならずにすむ」
「こんな天候ですからな。気分がふさぐのもわかりますよ。まあ、私はいつも陽気ですがね!」
「はは!違いない。……それでなんだが。王都に関する情報はあるか?」
ブレイナンが声を潜めて聞くと、フレッドは荷物を積んでいた幌馬車の中へと招いた。
続いてフレッドも乗り込む。
「あまり大きな声で言えないですが、いくつかあります」
「教えてくれ」
「新王ですが、どうやら本気で四竜教を廃止するようです」
「国で一番信奉者の多い宗教だぞ、国教を迫害するなど……」
「ですが、四竜様はすでに追放令を受けております」
「そのようだな。王都のほうは荒れているのか」
「王都自体は親衛軍のおかげで沈静化しています。ですが地方のほうは荒れ始めているようですね」
「四竜教信者は地方の民のほうが多いからな。しかしこのままだと国が割れるかもしれん」
「そうはなってほしくはないですが……ですが、どうやら軍自体が地方の制圧と粛清に乗り出しているようです。うわさでは四竜公爵の領地に軍が差し向けられるとか」
「そうか……そうなれば戦闘はもはや避けれぬかもしれんな」
「この村に来ないことを祈りますよ」
「……そのことなのだが、フレッド。それも避けられんのだ」
「……どういうことですか?ブレイナン様」
「この村は、四竜教との結びつきが深くてな。できれば取り急ぎ村を発ってもらいたい」
「……わかりました。ですがこのことは私の胸にのみ秘めておきます。誰にも話さないと約束しましょう」
「そう言ってもらえると助かる」
そう言うと、ブレイナンは馬車を降り、女たちを集めた。
フレッドは清算を終え、急いで荷物を片付けている。
「すまないな、みんな。今日の昼に村の広場に集まってもらえるよう家の男たちに話してほしい」
「何かあったのですか?ブレイナン様」
「村にかかわる大事な要件だ。急いで集めてくれ」
それだけ言うと女たちを解散させて自身も家へと急いだ。