01-寒村の少年-
お久しぶりです。
去年九月に思いつき、書きたくなったので書いてみました。
遅筆でなおかつ筆の折れやすい私ですが、どうか温かく見守っていただけると嬉しいです。
『──人の子よ、我ら四竜と共に──』
『──我らとともに歩むというのなら──』
『──盟約を交わそうぞ──』
『──国を統べる四竜の盟約を交わそう──』
「陛下、恐れながら申し上げますっ、四竜の追放をお考え直しくだされ!」
この冬、例年より厳しい寒波に襲われた。
そしてまた、王城内も荒れていたのだった。
──先代国王の崩御。
そして、即位した18代目国王は、即位即日に初代国王の時代から盟約を交わし国を守ってきた四竜を追放。
これが、国としての長く明かぬ冬の到来となった。
時は戻り、6年前。
海へと注ぐ川の遥か上流、山奥の村。
「アレン。アレン、起きろ」
「……父さん。まだねむいよ……」
毛布に丸くくるまった、まだあどけない息子をブレイナンは優しく揺り起こした。
「今日は祠に向かう日だ。早く起きなさい」
「……あと少しだけ」
「だめだ、今から出ないと」
ブレンは毛布をはがすと、小さなアレンを抱えて洗面所へと向かう。
目をこすりながらアレンは顔を洗いだした。
「服は自分で着替えるんだぞ。父さんは用意をしてくる」
そう言うと、朝食の匂いの漂うキッチンへ歩いて行った。
おそらく、祠に供える食べ物を包むのであろう。
アレンは部屋に戻ると毛布にくるまりたい欲求を抑えて服を脱ぎだした。
「……ぅぅ、まだこんなに寒いのに」
いそいそと服を着替えて、防寒着を着ると外に飛び出した。
吐いた息が、白く消えていく。山肌はまだ暗いものの、空は白んできていた。
「おはようアレン」
「おはよう、父さん」
ザクザクと、うっすら雪の積もる坂道を一歩ずつ進んでいく。
曲がりくねった坂道は六歳の少年にはいささかきつい。
徐々にペースが落ちていく。
「もうすこしだぞ。がんばれ」
「はぁ……はぁ。……うん」
薄暗い森が途切れ、視界が開けた。
山肌はまぶしい朝日にきらめている。
目の前に、岩肌を削り作られた大きな祠があった
「着いたな、中に入るぞ」
「わかった」
ぎこちない緊張した足取りで祠に足を踏み入れる。
うっすらと雪がかかっているものの手入れの行き届いている。
コツコツと音を立てながら中へ進んでいくと広い空間に出た。
初めて見る祠の中は、光のきらめく空間だった。
ひんやりとした空気の先に四つの玉座。
その美しさに息をのんでいると、静かにブレイナンが語りだした。
「――アレン、あの椅子はな。この国を守る四竜様の椅子なんだ。
大昔にここで初代の国王様と盟約、約束を交わしたんだ」
「約束?」
「四竜の方々は自然とその民を守り、国王陛下は人々を収める。協力して国を作ろうとしたんだ」
「ふぅん……?」
「アレンにはまだ早かったようだな。そのうちわかってくれればいい」
「……父さん?」
「なんだ」
「ここってすごくきれいだね。空から光が入ってきて」
「そうか。よかったな」
ブレイナンは一言そうつぶやくと、静かに息子の頭を撫でた。
この日、祠にて供え物とともに持ってきた朝食は生涯忘れられぬ味となったのだった。
天頂高く上り、日が燦々と降り注ぐころにアレンとブレイナンは村に戻った。
朝の静謐な空気とは打って変わって、人の営みを感じる匂いがする。
「あら、アレン君おかえりなさい。ブレイナン様もお疲れ様でした。アレン君は祠参りは初めてでしたよね?」
村一番の物知り、齢60になろうとする女性、マリアが話しかけてきた。
「ありがとう、マリアおば様。アレンは登り切りましたよ。うれしいことです」
「アレン君は登りきれたのかい、さすがですねえ」
そういうとマリアはにっこり微笑んでアレンの頭をやさしく撫でた。
「アレン帰ってきたの?おかえりなさい!あ、ブレイナン様お疲れ様でした」
かけよってアレンに話しかけてくる、同い年くらいの娘。
隣にいるブレイナンに気づくと一礼をしてねぎらいの言葉をかけた。
「レナ、ただいま。今日初めて祠の中に入ったよ!」
「ほんと?どうだった?聞かせて!」
アレンはレナにせがまれ、中の様子を事細かに語りだした。
その様子を横目で見ながら、大人の二人はにっこりとほほ笑む。
「この村に、アレンと同い年の子がいて助かりました」
「いえいえ、こちらこそ。うちのレナと仲良くしていただいて」
「このまま二人とも成長してくれるといいのですがな」
「二人ともまっすぐ成長していますわ。大丈夫だと思います」
「ははは、マリアおばさんにそう言ってもらえるならきっと大丈夫だ」
二人はそういうと愛する人のもとへと歩んでいった。