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はっちんとさっちん

 はっちんはまたうちに泊まった。

 独りでだって平気で眠れる私だけど、はっちんの腕の中だと、夢が優しくなる気がする。


「みゃー?」


 呼ばれて顔を上げると、八重歯が覗くはっちんの笑顔。

 なんだか顔が緩んだら、はっちんが目を丸くした。


「何さ?」

「みゃーがそういう風に笑うのって、レア。」

「ほぉ。そうなのかい?」

「いつもはそんなに柔らかく笑わない。可愛い。」

「もっと言え。」

「可愛い可愛い、みゃーマジ可愛い!」


 嬉しくて甘えてみたら、はっちんはゆるゆるの顔で笑ってる。

 ベッドの中、はっちんに擦り寄って、なんだか胸の辺りがじんわりあったかい。


「今日、仕事は?」

「学校の後、撮影。」

「遅い?」

「昨日と同じくらい。うちにいろよ。俺の親も、みゃーを心配してる。」

「………おじさんとおばさんも、知ってる?」

「知ってる。気付かない訳ないだろ。お前から相談されんの、ずっと待ってる。勝手な事出来ないからって。」

「何もいらないんだ。いつも通りにしてて欲しい。」

「相談したからって変わる訳じゃない。ただ、俺より大人の方が力になれる事、あんだろ?」

「助けは、いらない。」


 はっちんの固い胸に顔を押し付けたら、小さな溜息を吐かれた。だけどもう、はっちんはそれ以上何も言わずに頭を撫でてくれる。

 だってね、はっちん。誰かが介入したら、それこそ完全に終わりが来る。もうとっくに戻せないんだとしても、小さな望みすら、消えてしまうんだ。

 帰って来ないけど、帰って来るかもしれない。

 私の存在を、思い出してくれるかもしれない。

 そんな小さな、希望。



 はっちんの為に朝ごはん作って、私は昨日冷蔵庫に放置したお弁当を食べた。さっさと準備を終えたはっちんに纏わり付かれながら毎朝の日課をしていたら、玄関に誰か来た。

 ピンポン連打。

 誰だかは、わかる。

 私が動かないでいたら、はっちんが優しく笑って玄関に行っちゃった。

 玄関先ではっちんと会話してる声は、予想通り。


「都!あんた携帯は?!何度連絡しても繋がらないじゃない!!どれだけ心配したと思ってんの!!」


 怒られながら突進されて、抱き付かれた。


「ごめんよ、さっちん。携帯はねぇ、水攻めで死んだ。」

「トイレにでも落としたの?」

「いんやぁ、お鍋に沈めてみた。」

「はぁ?!なんで?」

「……どれくらい耐えられるのかと…」

「嘘だろ。全部、捨てようとしやがったんだ、この馬鹿!!」


 はっちんといい、さっちんといい、私の悪事は全てお見通しだよぉ!って感じらしい。参ったね、こりゃ。


「あんなんで壊れるなんて許さない。でも私は謝らないよ。間違った事を言ったとは、私は思わない。」


 さっちんの瞳も、まっすぐ綺麗。

 私はそれに、憧れるんだ。


「あんねぇ、さっちん。泣いたよ、昨日。はっちんの前で、泣いた。」

「そう。偉いじゃん。」

「私が間違ってるのなんて、わかってるんだ。でもね、まだ、誰にも介入して欲しくない。もう少し、蜘蛛の糸みたいな希望に、縋っていたい。」


 へらりって笑ったら、デコピンされた。地味に痛い。


「あんたの好きにしたら良い。でもね、都。あんたは独りなんかじゃない。私も、瑛都もいる。うちの両親も、都が望めば力になるって言ってた。」

「……勝手な事は、したらやだ。」

「しないよ。きっと親はわかってる。だからまずは子供同士でって考えたんだと思う。」


 大人は色々知ってる分、動いてしまったら決定的になる。大人に頼るのは、最後の手段。その私の考えを、さっちんの両親も、はっちんの両親も、わかって、尊重してくれるんだ。


「子供ではどうしようもない事がある。その時は迷わず頼りなさい、だって。うちの親父が、みゃーに伝えとけって言ってた。」


 さっちんの後ろから、優しいはっちんの声。目を向けたら、穏やかな笑みのはっちんが立ってた。


「うちの親も、そんな様な事言ってた。ギリギリまで勝手な事はしないけど、都が押し潰されるようなら、恨まれても手出しするってさ。」

「みんな、お人好しやねぇ…」


 親には、恵まれなかったのかもしれない。捨てられても、大好きな両親だったけど。

 でも友達には、恵まれた。


「さっちん、大好き。まだ、友達でいてくれる?」

「当たり前じゃん!ここまで腐れ縁続いたんだから、今更だ。」

「ありがと。まだ、我儘に付き合ってね。」

「いいよ。付き合う。だからあんたも、逃げようとすんな。自分から、捨てようとすんな。」

「んー、頑張る。」

「そこは、頑張れ。」

「おうよー」


 笑い合って、今日は三人で登校した。

 教室行ったら、よっちんと伊藤くん、他の友達にも昨日はどうしたんだって心配された。さっちんが、途中で具合が悪くなって帰ったんだって誤魔化してくれてたから、話しを合わせて、もう大丈夫って伝えた。


「最近さぁ、進路進路って、追い詰められるこの感じ、やだー」


 お昼休み、よっちんが机に突っ伏した。


「陽子は四大だっけ?」

「そのつもりー。紗南ちんは?」

「私は、保育士の専門。」

「あー、似合いそう!面倒見良いもんねぇ。みやちんは?」

「んー、まぁ適当に。あみだくじで選ぼうかなぁ。」

「やる気無さ過ぎでしょ!」


 よっちんにツッコミ入れられて、私はゆるーく笑う。そんな私を見るさっちんの視線が鋭い。


「都、真面目に考えなよ。後悔するよ。」

「人生に後悔は付き物さー」


 今しか出来ない選択だなんて言われたって、自分自身の存在が危ういってのにどう考えたら良いかわかんない。

 そもそも私、大学行けるのかな。


「角田のおばさんに相談してみたら?アレとの事も含めてさ。今日も遅いんでしょ?」

「そんな重い相談されたって、おばさん迷惑だよ。」

「ならうち来る?」

「うー……はっちんのお家にしとく。」

「そうしとけ。遠慮してる方が失礼だ。」

「うぃーっす」


 憂鬱というより、面倒臭い。

 逃げても良いかね。そうしよー。

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