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ニャンコなはっちんと怠け者な私  作者: よろず


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39/45

はっちんへ感謝のキス

 あの宇宙人とは別の宇宙人と、私はお茶をしている。

 いや、宇宙人ではないのかもしれない。普通の地球人かも。だけどやっぱり関係的に、私にとっては宇宙人。


「大倉佳代と申します。都さんのお父さんとは…その……」

「不倫関係?」

「はい…お恥ずかしながら……」


 お父さんの浮気相手。三十代前半くらいかな?それとももう少し上かも。まぁ、若い人を捕まえたもんだ。

 黒髪清楚系で真面目な感じ。人は見掛けによらないらしい。黒髪だから地底人かもしれない。

 彼女は、日曜の午後、パパンとママンとショッピングに行って帰って来たら、我が家のドアの前で途方に暮れた顔で立っていた。パパンが話し掛けてみたら、どうやら彼女は私に会いに来たらしい。私の身の安全を考慮してママンが角田家に招き入れて、私と地底人は今、向かい合ってママンが淹れてくれたお茶を飲んでいる。

 ママンとパパンは、ソファに座って成り行きを見守ってる。折角の休みなのに私の所為でお騒がせしてばかりでごめんなさいって言ったら、頭を優しく撫でられた。

 本当、頼ってばかりだな、私。


「それで、お話ってなんでしょうか?」


 話を促したら彼女は赤い顔であわあわしてる。はっきりしろよってイラついたのは、内緒。


「わ、私、都さんの、お母さんになりたいんです!」

「は?」


 馬鹿ですか、と言わなかった私を褒めてもらいたい。やっぱり彼女は地底人だ。


久雄(ひさお)さんとの関係が許されない物だとは、理解しています。多くの人を傷付ける、愚かな行為だという事も、わかっています。でも私…彼を諦められなくて……」

「なるほど、それで?何故私の母親にという話になるんですか?」


 つっかえつっかえ、どもりながら彼女が一生懸命(・・・・)話した事によると、お父さんは、離婚は成立したんだと彼女に嘘吐いたらしい。娘である私の親権はお母さんになったから大丈夫だって言われたんだってー。

 殴り込み、慰謝料請求、裁判まで覚悟していたのになんにもなくて、あれ?って思ってたらしい。それでどうやら、風の噂で離婚は成立していない事と、母親まで蒸発して娘が一人残された事を最近知ったんだとさ。


「都さんはまだ高校生ですし、成人するまで親が扶養する物だと思います。なので…」

「私に家族ごっこしろって事ですか?」

「ごっこ…ではなく、本当の家族になれたら良いなと…」

「なれると思うんですか?」

「そ、それは、努力します。」


 なんだろこの、ぷるぷる震えて小動物系?反省してます、ごめんなさい、だから許して下さいって瞳で訴えて来る感じ。本当、もう……


「反吐が出ます。」


 吐き捨てたら、彼女は泣いた。

 握り締めてたハンカチを顔に押し付けて、ショックを受けた表情。私にはハンカチが、まるで泣く準備してましたっていう風に見える。私凄く性格悪い。


「そうですよね…私の所為で、家庭を壊して……」

「あなたの所為だなんて思っていません。」

「そ、それは…」


 顔を上げて期待の眼差し。なんだか彼女の考えが手に取るようにわかって、私は鼻で笑った。


「我が家は、家族それぞれの所為で壊れたんです。あなたがどうとかは関係ありませんし、あなたの所為だとか思う気もありません。」

「な、なら…私を家族にして下さい!」

「お断りです。」

「ど、どうして?」


 お腹の辺りがモヤモヤする。

 この人、口では自分のした事をわかってるとか言ってるけど、本当に理解してるのかな?私がどんな気持ちなのか、少しでも想像、してくれてるのかな?

 深呼吸してから、私はゆっくり、口を開いた。


「父とはいつから?」

「……七年前からです。でも最初は、時々会って食事するくらいで…」

「父は、あなたに優しいですか?暴言吐いたりします?」

「暴言なんて全く!とても優しい方です!」


 無性に泣きたい。

 でも泣くもんかって鼻から大きく息を吸って、耐える。


「私にとっての父は、良い父親だとは言えませんでした。母にとっては、良い夫でもなかったと思います。でもそれは!お互いに悪い所があったんだって、納得、しようと、してるんです!でないと私っ、憎しみに呑み込まれる!」


 復讐したい。

 本当は、幸せなんて、願いたくもない。

 黒い、ドス黒い感情を必死に押し込めてるのにどうして?どうしてあなたが傷付いた顔をするの?あなたは十分、加害者なのに…


「お願いですからもう、引っ掻き回さないで下さい。」


 被害者面。悲劇のヒロインぶりたいの?それとも人の物を奪えた優越感に浸りたい?

 私は本当は、綺麗なんかじゃない。

 真っ黒だ。

 両親を恨んでる。

 産まれた事を呪ってる。

 復讐したい。同んなじ仕打ちを返してやりたい。

 殴られるのがどれ程の恐怖か、煙草の火がどれだけ熱くて痛いのか、罵られる事が、冷たい眼差しが、どれだけ心を抉るのか!

 ボロボロに傷付けてやりたい、だけど!

 瑛都がいるから、踏み止まる。

 さっちんが泣いてくれるから、前を向く。

 一人じゃないから、私は、笑う。


「久雄さんも、色々悩んで…」

「悩んでたら、虐待されてる娘に追い打ちを掛けるような言葉を掛けても良いんですか?」

「それは和子さんが…」

「えぇ。母は恐らく、心を病んでいました。でも追い詰めたのは、私達家族です。そしてあなたもです。お金で償える物だなんて思わないで下さい。」


 被害者面のか弱い仮面が、剥がれた。怒りに染まった女の顔。取り繕わないで、最初からこの顔をしてたら良いのに。


「私は両親を許せません。でも許します。許した上で、笑って、幸せになります。それが私の、復讐です。」


 にっこり綺麗に笑えて、満足。

 こいつの優越感の為に、泣かない。幸せの踏み台になんて、なってやらない。彼女はそうは思ってないとしても、私にはそう、感じたんだ。


「……歪んでますね。」


 ぽつり零された呟き。

 私は性格が悪く見えるように意識して、唇を歪めて笑った。


「私の生い立ちで歪まないなんて無理です。あなたも原因なんですから、あなたを母だなんて呼ぶ訳が無い。もう二度と、関わりたくありません。」


 キッと目を吊り上げた彼女が、右手を振り上げた。だけどパパンが掴んで止めて、にっこり笑ってドアを示す。示したドアは、ママンが笑顔で開けた。


「お引き取り下さい。」


 パパンの言葉で彼女は勢い良く立ち上がって、玄関に向かう。

 私はその背を追い掛けて、イライラした様子で靴を履いてる彼女に声を掛けた。


「あなたも、お幸せに。砂上の楼閣でなければ良いですね。」


 鬼の形相で振り向いて、わなわな震えた女は何も言わずに帰って行った。

 私の横をさっと通ったママンが玄関を開けて、白い何かを撒いた。塩だ。


「あー………やっちゃった………」


 私は酷く、落ち込んだ。

 取り繕ってたのは、私なんだ。汚い自分を誤魔化して、良い子でいたかった。

 お父さんにだって、本当は泣き叫んで、詰りたかった。これまでの事、全部責めてしまいたかった。折角我慢したのに、台無しだ…。


「よく言った。吐き出して良いんだ。悪い事なんかじゃない。」

「私達は、都ちゃんが都ちゃんなんだってだけで、大好きよ。」


 頭の上にはパパンの手。

 目の前には優しく微笑むママン。

 私の目からはぽろぽろ涙が溢れてて、だけど浮かぶのは笑顔。

 幸せだって笑いたい。でも嬉し過ぎて涙が出る。泣きながら笑うっていう変な表情で、私は二人に抱き付いた。



 帰宅したはっちんに、ベッタリ甘える事にした。お風呂までついて行ったら、放り出された。

 でもめげない。

 はっちんが浴室に入ってから脱衣所に侵入して、浴室のドアを背もたれにして体育座り。


「どうした、みゃー?」


 お風呂場だから反響するはっちんの声。シャワーの音がしないから、湯船に浸かってるのかな。


「反省中」

「あぁ、地底人の話?」


 はっちんには帰って来てすぐ、今日あった事をみんなで話した。それで、ママンが塩撒いたって言ったら笑ってた。


「性格悪いとかじゃねぇよ。傷付けられたんだから当然だと俺は思う。」

「……でもお父さんには良い子の皮被ったのに、無駄にした。」

「それも良いじゃん。責めるよりも効くんじゃねぇかな。」

「そうかねぇ?」

「人によるかもだけど、何も言われない方が心に刺さる事もあると思う。」

「俳優的意見?」

「あー…そうかな?演技する時もさ、怒ってるシーン、必ず怒鳴る訳じゃねぇんだよな。静かに、淡々と言う方が怒りを表現出来る事もある。だから現実もそうなんじゃねぇか?」

「にゃるほどねー」


 お話して、落ち込んだ気分がちょっと落ち着いた。はっちんが逆上せたら悪いから、私は脱衣所から退散する。だけどお風呂から出たはっちんがドライヤーを掛ける音が聞こえて来たから、戻った。大きな背中に擦り寄って引っ付き虫。


「瑛都がいなかったら私、自殺してた。ありがと。」

「ん?なんか言った?」

「お風呂上がりの良い匂いって言ったー」


 ドライヤーの音に紛れての告白。聞こえなくて良い。ただ、口に出して感謝をしたかった。

 もし一人だったらって、よく考える。

 あの暗く苦しい日々の中、一人だったら私は多分、生を諦めていたと思う。笑顔を忘れていたと思う。

 親に捨てられてからも、無気力だったけどはっちんと友達がいたから、生きてられた。

 私がここにいるのは瑛都のお陰。だからありがとう。

 髪を乾かし終わった彼が振り向いてハグしてくれる。幸せの笑みが零れて、私は背伸び。

 感謝の気持ちを込めて、私はそっと、キスをした。

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