バカップルなはっちんと私
とんだ羞恥プレイに、私はプルプル震えてしまう。
なんて事だ!なんて事なんだ!!
「うっわ!ラブラブ過ぎる!」
「都のこんな顔、初めて見るわ。知り合いだから余計に、見てるこっちが恥ずかしい!」
見られてるこちらも恥ずかしいんですよ、さっちんや!
私のクラス内、何人も同んなじ雑誌を買ってから登校して来たらしい。
"Secretbase"、通称"秘密基地"と呼ばれるその雑誌は若い男の子向けのファッション雑誌。最近人気の"エイト"がデビュー当初から看板モデルを務めている雑誌なのです。
今回発売した雑誌の表紙、オシャレなお部屋でエイトがお姫様抱っこした女の子と微笑み合ってる写真。抱っこされてるの、私です。
「これ、インタビューもあれだな。この写真の子が彼女なんだって公言しちゃってんじゃん。」
インタビュー記事を読みながら苦笑してる伊藤くん。一体どんな事が書かれているんだろう?写真だけで恥ずかし過ぎて、私はまだそこまで到達出来ていない。
日曜も角田家でまったりしながらはっちんの帰宅を待って、今日は久しぶりに一緒に登校した。特に問題無く学校来て、学校でも"MagicBox"が発売した時みたいな事にはならなかったんだけど…教室来たら、羞恥プレイに遭いました。
「これからちょっと騒ぎになると思うけど、みゃー個人に行かないようにする。でもみゃーは、一応周りに気を付けろよ?一般人のが怖いからな?」
耳タコだけど、それだけ心配してくれてるんだなって思う。だから私は、ちゃんと周りに気を付けないといけない。
勝手に写真撮られるのはとりあえず我慢。話し掛けられたら悪印象にならないように対応して、その場からはすぐに離れる、だそうです。
「やばっ!"エイトの彼女"、ネットの検索ランキング一位になってる!」
うわぁお、お祭りじゃ!!
羞恥プレイされながら、クラスメイト達はそわそわ。授業はいつも通りに受けて、休み時間でちょこちょこはっちんのインタビューを読んだ。
テーマの通りプライベートの事。
デビューのきっかけのスカウト話から始まって、好きな食べ物とか、子供の頃の思い出話、名前は出して無いけど幼馴染の大好きな女の子の話もしてる。私がモデルの仕事をする事になって、それなら一緒に出ちゃうって夢を叶えてもらった我儘仕事がこれだって事にしたらしい。
「原田には好意的な反応ばっかだな。見ろよ。可愛いとか、お似合いとか書いてある。」
「伊藤くん、どんな羞恥プレイだい?」
「情報収集必要だろ?原田スマホ持ってないんだしさ。」
朝はみんなで同じ雑誌を見て騒いで、それが終わると休み時間の度にスマホと睨めっこで情報収集。なんだかうちのクラスが怪しい集団になっているよ!
「"素のエイトのメロメロ顔が堪らないー"だって!わかるわぁ、学校でもみやちんにメロメロだもんね?」
「"こんな彼女なら俺もデレるわ"って、男の意見。原田可愛いもんな、顔は。」
「顔はね。黙ってたら、美少女と言えなくもない。」
「惜しいよなぁ、黙ってたら可愛いんだけどな。お!これ、"街で見掛けた事あるけどバカップルだった"だって。お前ら、所構わずバカップルしてんのかよ?」
さり気なく、クラスメイト達に落とされているのは気の所為ですか?
「みゃーは全部可愛い。」
「来た!溺愛帝王!!」
「上手い事言った!流石伊藤だ!」
「はっちーん!朝からみんなのテンションがおかしな事にー!」
後ろからハグをして来たはっちんに振り向いて、私は抱き付いた。はっちんは、伊藤くんとさっちんの冷やかしに満更でもない顔をしてる。溺愛帝王の称号を気に入ったらしい。
「更にお知らせ。午前中のワイドショーで、俺らの事が出たって。春日さんから連絡来た。」
「おーぅ、来る?芸能リポーターに囲まれちゃう?」
「それは来ないから大丈夫。」
瞼にチュウされた。今更だけど、私達って確かにバカップルかもしれない。
「何?じっと見て、どうした?」
うちのクラスのみんなに冷やかされて、それに笑って答えてるはっちんをじっと見上げてたら、気付かれた。小首を傾げるだなんて、まるで小悪魔だわ!
「こんだけ騒がれたら、はっちん、お姉さん達に誘惑されたりとか、なくなる?」
知ってるんだ、私。昔からはっちん、よく逆ナンされてた。芸能界でも声掛けられてたんじゃないかな?
「ヤキモチ?」
頷いたら殺され掛けた。
「かっわいいー!!マジ?ヤキモチ?すげぇ嬉しい!!!」
く、苦しい!振り回すな、締め付けられて、息が…
しまいには口を塞がれました。この人どんどん大胆になってるよ。めちゃくちゃ、私のクラスメイト達が見ているよ?そして…濃い!長い!!
「ぷはっ!死ぬわ!場所を考えろ!発情期は家限定!!」
スパーンって頭を叩いたのに、はっちんはご機嫌に笑ってる。頬擦りまでされて、可愛いから良いかなって気分になってしまう。
「ブレねぇよなぁ、角田は。」
伊藤くんだけじゃなく、みんな苦笑い。
でもいつもはっちんに黄色い声を上げる女の子達は、なんか、うっとりって顔してる。
「事務所側が色々先手打ってるから大丈夫だってさ。俺らは一般人にだけ気を付けたら良い。今日、俺オフだから、バイト送る。」
「折角のオフなんだから友達と遊んだら?」
「それはこれが落ち着いてからにする。俺にはみゃーが全てだ。」
流石溺愛帝王です!
「夜も危ないから、一緒に帰ろう。時間潰してるからさ。」
「はっちん、らぶー!」
お昼休みが終わる頃には、飽きたのか呆れたのか、みんな平常運転に戻ってた。
手を繋いで電車に乗って、満員じゃないのにハグされる。
約一月の別々登校、私だけじゃなくてはっちんも寂しかったのかな。
「カメラ向けられてる。チューしちゃう?」
とろっとろに甘い顔。でも私は、絆されません。
「やだ。そんなん、知らない人が持ってるの怖い。」
「そか、残念。」
でもデコチューはするんだね。
春日さんから聞かされたのは全部、可能性のお話。でもその色んな可能性を考えて、対策をする必要があるんだって。怖がらせる目的ではなくて、それを当事者の私達にも理解して欲しいって意味で話された事。はっちんの所属事務所で先回りの対策は色々打ってくれてるらしい。でもそこから零れてしまう事もある。それを、自分達で気を付けないといけないって言われた。
朝はみんな自分の事で精一杯。
でも放課後のこの時間は、はっちんに気付く人もチラホラいるみたいだ。
「今日、写真撮るやつだろ?見てても良い?」
「牧さん達が見ても良いって言ったら良いんじゃないかな?」
「行くって事前に伝えてある。けど、着いたら聞いてみる。」
「そうしなされ。…最近さ」
「ん?」
「モデルも、楽しい。いろんな服着て、綺麗にしてもらうの、楽しい。」
「……ハマる?」
「かも。でも、編集の仕事も、楽しいんだ。」
まだ雑用だけど、多くの人と協力して一つの物を作り上げるっていうのが、ワクワクする。
「器の小さい俺は、実は少し、嫌だったり…」
見上げたら、はっちんはなんだか気まずそうな顔。そのまま続く言葉を待ってたら、言うか迷ってる。促す意味で首を傾げたら、はっちんは私の肩におでこを付けて顔を隠した。
「大切過ぎて、やっぱ、隠しておきたかった。誰にも見せないで、俺だけのものに、しておきたかった。」
引くだろってはっちんが苦く笑うから、私は彼のほっぺを柔くつねる。
「引かない。私も同じ。私だけの宝物が良かったよ。……でも無理だから、我慢。」
「みゃーが魅力的過ぎて、焦る。」
「はっちんが輝いて見えて、困る。」
両手繋いで、私達は同時に噴き出した。
「バカップルだ。」
「だな。でもだって、みゃーを好き過ぎるんだ。」
「私も。大好き。」
ふと気付いたら、注目を浴びていた。見ている人達の顔が赤い気がする。
なんかすんませんって思って、私達は目的の駅で降りた。
今日はモデルの方だから、編集部じゃなくてスタジオに直接向かう。はっちんはご挨拶に行くって言うから途中で別れた。
着替えて、メイクをしてもらって、カメラの前に立つ。まだまだ慣れないけど、照屋さん頼みだけれど、出来た雑誌に載った写真を観た時の高揚感を、もっと感じたいって思うんだ。
お化粧は、女の子の鎧で、武器。
お化粧の出来栄えや着る服でその日の気分も変わる。
友達と遊ぶのか、好きな人とのお出掛けか、それともお仕事や何かとの戦いかも。
メイクと洋服は、なりたい自分になる為の、魔法の道具なんだ。
魔法の道具を身に付けたら少しだけ、強くなる。
さっちんの言葉で奮い立って、雑誌を見て化粧を覚えた。洋服だって、お金が無くても魅力的に見えるように研究した。そんな、私みたいに蹲って泣いている子達に勇気を分ける事が、出来るかな。
"魔法の宝石箱"。
キラキラ輝く為の何かを、雑誌の向こうの誰かも見つけてくれたら嬉しいなって、私は感じたんだ。




