はっちんとバラバラの日
高一の時は一人だった。だから大丈夫だろうって思ってたんだけど…満員電車、辛い!!こんなに辛かったっけってくらい、揉みくちゃにされてしまった。守られる事に慣れ過ぎてしまっていたようだ。反省。
「どうしたの?!みやちんが一人なんて、喧嘩?隕石でも落ちて来る?!」
一人で登校したら、何故か友人達が恐慌状態に陥りました。
「ドラマ撮影の時だって朝は一緒だったじゃん!」
「喧嘩したなら早く仲直りした方が良いよ?」
「今から謝りに行く?着いて行こうか?」
あれ?どうして私が謝る方なんだろ??
下駄箱で大騒ぎするみんなに苦笑して、靴を履き替える。とりあえず教室で話そうかって促して質問攻めを流しつつ階段を上って教室入った途端、襲われた。
「みゃー!電車大丈夫だったか?痴漢とか、合わなかった?」
お前も、落ち着け。
「はっちんや、待っていたのかい?」
「やっぱ心配だ!明日からタクシーにするか?」
「それは勿体無いって。はっちんは問題無し?」
「俺は平気。普通。でも写真勝手に撮られたかもだから、みゃーと一緒に電車はやっぱ危ない。」
「そかぁ。皆さんのモラルはどうなっているのかね?」
「本当だよ!肖像権の侵害だ!!」
張り付いてるはっちんを引きずりながら自分の席に行ったけど、なんか、はっちん以外にもついて来てる。
喧嘩を心配してくれてたから、みんなには大まかに説明をした。そしたら、聞いていたクラスメイト全員がお怒りになった。みんな良い奴らだよな。
「追い掛けるのはやり過ぎだよね?パパラッチ気取り?」
「勝手に写真撮るのもあり得なくないか?」
「あー、でも私、やっちゃってたかも。スマホってすぐ撮れるじゃん?」
「俺も。友達に見せるくらいなら良いかなって。」
「でもそれ、こうやって人の生活を脅かす行為なんだな。」
腕組んで難しい顔。中には身に覚えがあるのか、反省してる人もいた。
いつの間にか真剣な討論会が始まって、スマホやネットの便利さで起こる弊害にまで話が及んでた。はっちんも参加しての討論会は予鈴が鳴るまで続いて、はっちんはほっぺにチュウをくれてから、また来るって言って自分の教室へ帰って行った。
「うちのクラスってさ、バカ真面目だよね。」
ホームルームの後で苦笑したさっちんがやって来て、私はそれに大きく頷いた。
「みんな人が良いよね。他人事で終わらない感じが、凄い。」
こんなの、へー大変だねで終わるような物だと思うんだ。でも話を聞いたみんなは上辺だけじゃなくて、本気で怒って心配してくれた。昨日の編集部の大人達もだけど、私、周りの人達に恵まれてるなって思う。
「都達、卒業までずっと別々で登校になるの?」
「んー…まだわかんないけど、対策の準備中なんだ。だから、その結果次第かなぁ?」
雑誌の事は、親しい相手でもまだ詳しくは話せない。さっちんはそういうのをなんとなく察してくれたみたいで、詳しくは聞かないでくれた。
「芸能人の彼女も大変だ。困った事あったら、言えよ?」
「ありがとー、さっちんもラブー」
「なんだぁ?可愛いやつめ!」
さっちんとラブラブに抱き締め合って、私の胸はほっこり、温かかった。
放課後は、バイト無い日だったからさっちんとデート。やっと携帯を買いに行くのです!
「未成年ってさ、面倒だね。」
そう言いながらさっちんが渡してくれた封筒の中身は、同意書。一人で携帯買いに行ったらまだ未成年だから同意書無いと無理ですって言われたんだよね。またお父さんに連絡かって悩んでたら、さっちんがさっちんパパに頼んでくれたの。
「それのやり取りの時さ、うちのお父さんが都パパにこれからどうするのかって、聞いてみたんだって。」
「不機嫌になられたんじゃない?」
「正解」
さっちんは渋い顔。
お父さんは、お母さんと連絡が取れ次第離婚を成立させたいみたい。それで、親権はいらないって。養育費は約束通り払うけど、慰謝料はマンションだけだって。お母さんも相手がいるんだから当然だって、言い切ったらしい。
「良く聞けたね?お父さん、他人にそういう話するの嫌がりそうなのに。」
「どうやって聞いたのかはわかんないけど、うちのお父さん、怒ってた。子供をなんだと思ってるんだって。」
さっちんが泣きそうだから、手を繋いで、私は笑う。でも怒られた。
「私、都のその笑顔、嫌い。」
「んー…でもなんか、染み付いてるんだよね。困った時程、泣きたい時程、笑っちゃう。」
「なんだよ、それ。マジ、泣くわ。」
本当に泣き出されて、困った。静かにポロポロ、私の所為で泣いちゃったさっちんを、立ち止まって抱き締める。
「ありがとう、紗南。泣いてくれて。」
「都、大好きだ。あんたにはこれから、たくさん、良い事がある。絶対、幸せになる。」
「もうね、幸せ。良い事も、たくさん。大好きな親友がいてくれるもん。」
袖で涙を拭いながらさっちんが浮かべたのは、泣き笑い。
道の端で、カバンから出したタオルをさっちんの顔に押し付けた。涙が止まらんっていうさっちんを抱き締めながら、私もちょっと、涙が滲む。でもそれは悲しみじゃなくて、温かい気持ちになって滲んだ涙。
「スマホデビュー?」
目と鼻の頭が赤いさっちんと手を繋いで向かった携帯ショップで、さっちんが最新のスマホを指差した。でも、私は首を横に振る。
「一番安いやつ。スマホは就職してからかな。」
「これも、自分で買うの?」
「今は使用料、お父さんが払ってくれてる。でもそれも、自分の口座から落ちるように変えちゃう。」
前回聞きに来た時、手続きに必要な物も聞いておいたから大丈夫。
「生活、出来るの?大丈夫?」
「大丈夫だよ。自分で払うのも考えて、スマホじゃないのにするから。」
手に入れたのは、白いガラケー。
電話番号もメールアドレスも前のまま。溜まってたメールを受信したけど、お母さんからの連絡は、無かった。
「年明けたらさ、さっちんのお家、ご挨拶に行って良い?お礼、言いたい。」
「いつでも来なよ。でもなんで来年?」
「今はまだ考え期間だから。ちゃんと、報告出来るようになってから行きたいなって。遅い、かな?」
「良いんじゃない?伝えておく。」
「ありがとう。なんかお菓子作って行く。」
「マジで?楽しみ!食べたい物親にも聞いておく!」
「なんでも作るよ!」
ママンには夕飯いらないよって言っておいたから、さっちんと駅前のファストフードで夕飯。他愛の無い話で盛り上がって、遅くならない内に帰宅。さっちんのお家は、うちから五分の場所にあるんだ。
「ただいまー、携帯買ったよ!」
自分の家寄ってお風呂を済ませてから、角田家に帰る。最近はあんまり原田家にいないんだ。やっぱり一人は、寂しい。
「お帰り。どんなのにしたんだい?」
「お帰りなさい。お夕飯、ちゃんと食べた?」
お帰りなさいって言葉はこそばゆくて、でも凄く、嬉しい。
「夕飯は友達と食べて来たよ。携帯はこれ!ママンとパパンの番号入れて良い?」
二人はスマホなんだよね。
ママンとパパンと番号交換して、消えてたアドレス帳に名前が増えた。ついでに私の両親の番号も教えてもらって、登録する。
お茶飲みながら、二人に聞かれるままに今日学校であった事の話をする。
なんだか、ずっと憧れてた"家族"みたいだ。物語の中で見てた、理想の家族。
角田家に受け入れてもらえて、私は幸せだ。
「ただいま。みゃー、携帯買って来た?」
お話してる内にはっちんが帰って来て、後ろからハグされる。
「買ったよ。これ。」
「番号は前と一緒?」
「変わらないよー。はっちんの連絡先、送ってー」
はっちんがカバンから出したスマホを操作して、すぐにメールで届いたからそれを登録した。一番じゃないのが不満だってむくれられたけど、それは仕方が無い。
そのまま四人でしばらく会話して、はっちんがお風呂に向かって、私もはっちんの部屋に引っ込んだ。
ベッドを背凭れにして本を読む。
しばらくしたらはっちんが来て、私の膝を枕にして横になる。
「お疲れ様。」
「ありがと。みゃーは今日、楽しかった?」
「うん!さっちんとデートしたよー」
「俺もみゃーとデートしてぇな。」
拗ねたはっちんが私のお腹に抱き付いて来たから、猫っ毛を掻き回す。ふわふわで気持ちが良い。
「私も、はっちんとデートしたい。」
「何処行きたい?」
「んー……なんだろ、デートっぽい事をしてみたい。」
「映画とか?食事とか?」
「だねぇ。でも良く考えると、今までもしてたね?」
「そうだけど、恋人じゃなかった。」
「そなの?いつから、恋人?」
「あー………わかんね。」
初めてキスした時?二回目のキス?
それとも、ちゃんと私が、気持ちを伝えた時かな?
「みゃー、キス、良い?」
「ん。甘いのが良い。」
起き上がったはっちんが隣に座って、指を絡めて繋ぐ。
唇に吸い付かれて、目を開けてたら、はっちんも私を見てる。
悪戯っ子の表情を浮かべたはっちんが、わざと舌を出して、見せつけるみたいに私の唇を舐めて来る。卑猥だ。
かぷって噛み付いてみたけど、今度はそのまま、優しく口の中を撫でられる。お互い夢中でキスをして、唇は、離れた。
「寝よっか?」
頷いたら抱き上げられて、ベッドに寝かせてくれる。
電気を消して、はっちんも布団に潜り込んで来たから、私は擦り寄る。
触れるだけのキスを数回して、ぎゅーって抱き締められる。
はっちんの体温と香りに包まれて眠るのが、最高の幸せだ。




